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オークと騎士の帰還

 孤児院に向かった翌日、ボスたちが帰ってきたことで、久々に全メンバーが宿屋に集まることになった。


「さて、久々だなボス、リナ。新婚旅行……というにはちょっと血なまぐさいが、久々の二人きりはどうだった?」


「なっ……主殿、からかうのはおやめ下さい」


 夫婦そろって顔を赤らめるボスとリナを見つつ、その様子を見ると中々充実していたようだ。


「それで、ミジナのオークはどうだった?」


「それなのですが、いささか残念な結果でしたな」


 そう言ってボスが語り出したのは例のマンティコアから得た情報だった。


「マンティコア殿に聞いたのですが、あそこのオーク達は上位種に進化しないようなのです。以前は進化したようなのですが、マンティコア殿が安全管理の関係で上位種を軒並み排除した結果、いつの間にか進化しなくなっていたらしいのです」


なるほど……つまり、あのオークが、本能か理性かは不明だが、上位種になると殺されることを理解し、結果的に進化しなくなった、ということなのだろう。


「でも、それってオーク達が進化したら殺されるから進化しなくなったってことよね?逆に、進化しなきゃひどい目にあうってなれば、進化するんじゃないかしら?」


 アンネの言葉に、俺は難しい顔をする。


「いや、でもそれって、オーク達にひどいことをする……おそらくオークの頭で理解できるレベルってなれば、殺すってことになるだろ?そりゃ確かに全てのオークを救えるとは思っていないが、自分の手で殺すのは……。そもそも、殺された原因が進化かどうか理解するのにかなり時間がかかりそうだし、効果的じゃないんじゃないか?」


「そもそも、オークの進化として一般的なのはウォリアーやファイターですから、その方法を使うと、目当ての知恵のある種族に進化する前にオーク達の残数が尽きるでしょうな」


 ボスにさえ否定された結果、分かっていたとはいえ俺たちを気まずい沈黙が支配した。


「……って、まぁ、それはいい。俺の習得した魔法のこともあるし、ひとまず、ボスとリナが新婚旅行を楽しんだことで満足しておこう」


「主殿っ、お戯れが過ぎますぞ!」


 そう言って顔を赤らめるボスだったが、これ以上深堀りしても有意義な話が出ないことも分かっているということもあり、そのまま次の話題へと振った。


「と、そんなことは良いのです!主殿は……確か図書館へ行くのでしたな。なら蘇芳殿はそれについて行ったのですかな?」


「私は、冒険に行ってた。報酬いっぱい」


「それに、私もついて行ってたわ」


 そう言うと、蘇芳はドン!と言わんばかりに袋を机に置いた。昨日今日の報酬がまとめてあるようだ。

 なお、オーク級依頼なので、俺たちの今まで稼ぎ出してきた報酬と比べれば非常に安いのだが、俺たちが使っている効果とは価値が全く違うため、ジャラジャラとした硬貨はいかにも重そうな存在感を誇っていた。


 ボスも財政面ではあまり役に立たないが、それでも蘇芳とは違い全くの門外漢ではないので蘇芳が持っている袋の中身がすべて一番安い賢者硬貨である1ジェム硬貨であることが分かったはずだが、それでも大げさに驚いて蘇芳を誉めそやした。


「それはそれは、素晴らしいですな!蘇芳殿は素晴らしい乙女ですから、引く手あまたではないのですかな?これは主殿もうかうかしてられませんな!」


 そう言ってカッカと笑うボスの言葉を受けて蘇芳が意味ありげに俺を見つめて来た。


「それはどういう意味だよ……それより、本当にしっかりやれてるのかの方が心配だ。まぁ、アンネがついて行ってるし、変なことはしていないことは確認しているけどな」


「あー。なんというか、割と蘇芳ちゃんは冒険者達に馴染んでるわよ?今日も正式にパーティ組まないかって言われてたわよ」


「え、マジか……」


 思いのほか馴染んでいるような蘇芳の様子に愕然としている俺に、蘇芳は胸を張って声を張る。


「勿論、グォーク以外とは本当のパーティはしない!私が靡くオス、グォークだけ!」


 昨日までと同じ、過剰なまでのアピールともいえるその言葉に、しかし何となく安心感を抱き、思わず蘇芳の頭を撫でた。蘇芳は一瞬驚いたような顔をしたが、そのまま気持ちよさそうに俺に体を寄せて来る。


「……あの、次行っていいかしら?」


 さほど時間は立っていないはずだが、低い声でアンネのジト目に気付き、俺は頭をなでるのをやめた。蘇芳は撫でるのをやめても気にせずそのまま抱き付いたままだ。


「あぁ、そうだな。後は俺の予定か。……期待を裏切るようで悪いが、実はまだ図書館に行けていないんだ。本を上手く扱えるのかっていうのを疑われてて、今図書館からもらった本を読んでいt……」


「グォーク!おはよう」


 と、俺の言葉を遮るようにフィノが顔を出して、俺に飛び込んできた。


「おはよう、フィノ……ちょっと悪いんだが、今は大事な話し中でな?」


「お姉ちゃんを無視するな~!ほら、孤児院の皆も待ってるんだから、支度支度!」


「……と、まぁ、何故か宿屋の娘さんに懐かれた。あと孤児院の子ども達とも」


 俺が発したあまりにも予想外な話に、俺とフィノを除く全員が一旦口を閉ざすことになったのだった。

途中で出た賢者硬貨は以前あとがきで書いた賢者の塔が発行してる硬貨のことです。

この下に各国の硬貨があるので、最安硬貨というわけではなかったり。

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