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オークと孤児院

「ゾフィー姉ちゃん!こんにちは!」


 フィノがそう声をかけると、孤児院の中からゴソゴソと音がして、誰かが扉を開けた。修道服を着た女性のようだ。


「フィノちゃんこんにh……ヒィッ!」


 ……うん。知ってた。


「ちょっと、ゾフィー姉ちゃん、何してるの?ほら、立ってたって」


 俺に肩車をされながらそう言うフィノに対して、ゾフィーと呼ばれた女性はアワアワと口を開けるだけだった。直後、その頭に杖の先が降りる。


「痛ッ」


「全く、お客人に対して失礼だよこの子は。あぁ、すまないね、フィノちゃんと……確か最近王都に来た冒険者のオークだね。うわさは聞いてるよ」


 そう言って杖をしまいながら彼女は俺に近づいてきた。並ぶと余計分かるが、背は最初に出て来たゾフィーよりもだいぶ低い。それに腰も曲がっているし、顔には多数のしわが刻まれていた。


「今日はフィノちゃんの付き添いかい?ならついてくると良いよ」


 そう言って彼女は踵を返すと、まだ茫然としていたゾフィーを蹴り飛ばし、中へ入って行った。

 俺たちは肩車をやめ、中へと続いた。


「うぉー!かっけ―!!」


 歩いていると突然、そう声をかけられたかと思うと、俺の腰辺りに衝撃を感じる。見れば、やんちゃそうな少年が俺に縋り付いていた。


「なぁなぁ、おっちゃん!この剣かっけ―な!」


「……おっちゃんじゃないんだが」


「!!」


 振り返った俺の顔を見て硬直する少年、まずい、と思ったが、どうしようもない。泣かれるか、叫ばれるか、俺は審判を待つように目を閉じて……。


「おっちゃんのかおやべー!すげー戦士って感じがする!かっけー!」


 少年の歓声で目を開いた。


「少年、俺が怖くないのか?」


「そこがいいんじゃん!」


 どうやら、少年はちょっと独特な感性を持っているらしい。安堵と諦念に浸っていると、少年は俺の手を引っ張ってきた。


「こっち来いよ!俺たちの家族を紹介するからさ」


 そう言って、かなり前かがみになりつつついて行くと、大きな中庭に到着する。そこでは子ども達……子ども達?が遊んでいた。何故疑問系かというと、俺の首の丈くらい(要は人間の大人よりもやや大きい)比率的には幼児体型の人物とかもいたからだ。


「おーい!すげーかっけーお客さんだぞ!」


「私も来たよー」


 少年とフィノが声をかけると、子ども達が何事かと近づいてきた。ただ、俺の姿が分かると、遠巻きに取り囲むような形になった。


 何となく、敵意が無いことを示すために俺はしゃがんで視線を低くして集まるのを待つ。

 そうこうしているうちに中庭にいた子ども達が集まったようで、その場で少年による紹介が始まった。


「こいつはリト―。巨人の子どもだからでっけ―けど一番臆病なんだ、こいつはシューラ犬の獣人で、めっちゃ鼻が利くから探し物が得意。その隣がペンデリ……」


 次から次へと紹介される名前で覚えきれないが、何も言わずに聞いていく。


「あ、俺の名前言ってなかったな、俺はスウェンだ、よろしくな、かっけ―人!」


 15,6人いる子ども達を紹介しきり、自分の名前を言ってにこりと笑う少年に、俺もなるべく優しい声で答える。


「俺は、オークのグォークだ。冒険者をしていて、今はフィノと一緒に遊んでいるんだ」


「すっげー!冒険者なのかよ!どんな奴倒してきたの!教えて教えて」


 俺は少し困りつつも、俺の故郷である黒き茂みの森のことをかいつまみつつ、スウェン少年の好きそうな、マザーサラマンドラとの戦いの話をした。

 そうすると、冒険者が身近であるためか、それともそんなことはあまり関係ないのか小さな子や女の子も身を乗り出して話を聞き出した。


 俺の方も真剣に聞いてくれる彼らのことが嬉しくて、サスティナとの戦いや、精霊郷でのアリシア捜索と次々に話をしていった。(オークキング戦に関しては歩く18禁(リリスウェルナ様)に触れないわけにいかなくなるので誤魔化した)


「そろそろ、ごはんだよ」


 俺が竜帝様に出会い、賢者の塔からリス・デュアリスへ向かう、という話まで来たところで、先ほど玄関で受け入れてくれた老婆が子ども達に向かってそう声をかけた。


 少年少女たちは俺にお礼を言って、走り去ろうとするが、俺はその前に一言彼らにこれだけはと言い含めることにした。


「いいか、お前たち、俺は優しいオークだから良いが、オークに限らず魔物ていうのは本当に怖いものだ、だから、俺と仲がいいからって無警戒に近づいたら駄目だからな」


 少年少女の警戒心が俺のせいで変な風に薄れてしまってはいけないので、それだけ口にすると、分かっているんだか分かっていないんだか知らないがハーイと元気な声が続き、彼らはそのまま建物の中に消えて行った。


「ありがとうよ」


「……あぁ、あんたは……」


「そうだ、名前を言ってなかったね。この修道院の院長、レイ・カフス・スカーって名前のババァさ、まぁ長いからスカ―とでも呼んどくれ、親しいもんはみんなそう呼んでんだ」


 その言葉に俺も名前を告げると、スカーは顎をクイッと上げると後ろを向いた。


「ついて来な。まだ昼飯は食べてないんだろ?飯の一食ぐらい食べていきな」


 結局、俺はその後孤児院の子ども達に引き留められ、夕暮れ時まで孤児院でヒーローごっこの悪役になったり、戦士志望の子どもに頼まれて稽古みたいなことをしたり、それを見たフィノたちの突撃によって、突発的に俺対全員の相撲勝負が勃発したりと様々な遊びをして過ごしたのだった。

この世界の孤児院は、実のところ結構武力的に恵まれています。

いや、まぁ孤児院自体に武力持ちが多いわけではないのですが、この世界の情勢上、孤児の内訳が殉死した冒険者の子どもの比率が高いので、もしものことがあった時を考える子持ち冒険者に孤児院は結構注目されているのです。

 普通のファンタジーだと魔王とか具体的な脅威のせいで社会がそこまでの支援できないけど、今作は賢者陣営がほぼすべての脅威に目を光らせてるので……。


 また、今回の孤児院に関しては、スカー院長が実は元冒険者のため、そう言った意味でも武力的に安心です。院長がオークに臆さなかったのもそう言う理由があります。

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