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オークと子ども

あけましておめでとうございます

「……」


 狭い部屋の中で本をめくる音が響く。ゆっくりと動く俺の手が、本をめくるたび、かすかな音と、ふんふんと納得するような声が響いた。


「あの……何でここにいるんだ?」


「おねーちゃんも一緒に勉強してあげるの!」


 キラキラした目で言う宿屋の娘、フィノに俺は諦めたようにため息を吐いた。大人の用事に邪魔をしないでくれ……と言いたいところだが、既に彼女の中では俺は弟分になってしまったらしい。実際現世での歳は俺の方が下なのだろうし、せっかく懐いてくれている彼女を無下にする気も起きず、なんだかんだで俺は彼女を膝に乗せつつ本を読み進めていた。


「グォーク、これ、なんて読むの?」


「エリオットは、図書館に入って来た天井を突き破らんばかりの鬼族の青年に向かって……」


「エリオットって?」


「この町の図書館の初代館長だそうだ」


 さて、それじゃぁ続きは。


「図書館ってあの大きなところだよね?」


「……そうだな」


「……」


「……えへへ」


 …………集中ができん。


「フィノ、俺は勉強中なんだ、少し静かにしてくれないか?」


「何?もしかして、お姉ちゃんのことが気になって勉強できないの?」


 幼女らしい素直さと何となくおしゃまな雰囲気を醸し出しながら言ったフィノの言葉に、俺は手を上げて降参の姿勢を見せた。


「あぁ、まさにその通り、どうも集中できないから、今日の所は一人に……」


「集中できないなら遊びましょ!」


「…………」


 ある意味筋の通った少女の言葉に、俺は黙りこくってフィノを見つめる。真剣な顔になった俺の顔は割と怖いと思うのだが、それでも全く怯まずにフィノは俺を見つめて来る。数十秒の見つめ合いの後、俺はやれやれと顔を竦めた。


「はぁ、仕方ない。分かった。どこへ行くんだ?あ、あと、出る前にフィノの両親のところに出かけることを伝えに行くからな」


「やった!」


 俺が根負けすると、フィノは飛び跳ねて下に降りて行った。俺は本にしおりを挟んでたたむと、ゆっくりとフィノの後をついて行く。


 宿の入り口では、少し頭頂部が寂しい男が、フィノにズボンを引っ張られて困り顔をしていた。


「店主、少し娘さんを借りるぞ」


「……うちの娘が申し訳ない」


 俺の姿を認めると、店主はそう言って俺に頭を下げて来た。昨日の今日だ、昨日俺が長時間の事情聴取を受けたことも含め、思う事があるのだろう。

 一応俺たちは施設を綺麗に使っているし、宿代に関しても割増しで支払っている。オークの泊まっている宿……という悪評が立つ以外は優良客と言えるだろう。……いや、まぁそれが一番の問題ともいえるわけだが。ただ、その影響で腕の立つ冒険者が(俺たちの監視の目的で)宿に逗留しているらしい。

 はっきり言って不本意ではあるが、まあ、そこは置いておくとして……。


 一応遠征などもあったにせよ数か月単位で宿泊しているため、信頼はなくとも信用くらいはある程度の関係は築けていると思う。積極的に関わってくることは無いし、関わるにしてもややおっかなびっくりな感じはあるが、それでも円滑なコミュニケーションに支障をきたさない程度には関係が深まっていた。

 そのため、多くを語らずとも自分のズボンから俺のズボンに移動した娘を一瞥するのみで視線を外に向けた。


 俺はそれを見て、頭を下げながら扉へ手をかける。


「ただ、娘に変なことをしたら……」


「それは絶対ないから安心……は出来ないか。その場合はギルドでもなんにでも連絡してくれ」


 何やら剣呑な雰囲気を見せた店主にそう言ってから、俺たちは今度こそ宿の外へと歩みを進め、整備された道を、端々の店を見ながら歩く。


 そんな風に目的もなく歩いて数分。俺の頭の上に幼女の姿があった。何しろ俺は大人よりも大きい体の持ち主だ。フィノの歩幅に合せるよりも、フィノを上に乗せるほうが手っ取り早かったのだ。それに、フィノ自身も喜んでくれたので一石二鳥だったりする。


「さぁ!私の弟分!どんどんさきにいくよー!!」


「へいへい……ってどこに連れて行かれるんですかね」


 俺は気のない返事を示しつつ、フィノの指し示す方へと歩いて行った。道中はやはり人の波が割れており、俺たちは押し合いに巻き込まれることもなく進んでいった。……なんか一瞬ギルドの方へ駆けて行った人影がいたような気がしたが、今回は宿屋の店主さんがギルドに従業員を一人送っていたため、何とか説明してくれるだろう。もしかしたらオタク忍者のシュンあたりが既に俺を監視しているかもしれないが。


 そんなこんなで色々な意味で注目されながら俺が案内されたのは、町はずれにポツンと立っていた孤児院であった。

お正月にも平常運転(投稿時間除く)です。

新作も書きたい気分。

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