オークの騎士とミジナの森/雌オークと冒険者
「ふんっ!これで最後ですな」
我は妻のリナと共に最後の魔物、ワイルドボアにとどめを刺し、依頼主であるレビン殿に声をかけた。
「あぁ、ありがとうね。しかし、良いのかい?これから二人は野宿なんて……マンティコア級に上がった冒険者にオーク級の依頼を受けさせた挙句、宿もろくに用意しないっていうのはちょっと申し訳ないんだけど」
「何、こちらもレビン殿の依頼を受けたのはついででしてな。ミジナの森のオーク達の様子を見定めるのがこの度の主目的なのですよ、勿論、だからと言って手は抜いておりませぬが」
我の言葉を聞いて、レビンは得心が言ったように手を打った。
「あぁ、なるほど、そう言えば妖精の子がオークの研究をしているんだったね。なら納得だ。野宿の後はそのまま王都に戻るのかい?」
「その予定ですな。もしタイミングが合えば、一緒に帰りますかな?」
我がそう言うと、レビンは苦笑して首を振った。
「マンティコアの件もあって、一旦王都に戻っちゃったけど、いつもだったらレニ村に行ってから更に大回りして別の村を経由しながらユグドラヘイムの方へ行くんだよ。冒険者だと最短距離を行くんだろうけど、沿岸部を回って村を巡りながら行けば比較的安全に移動できるからね」
「なるほど、では、ここでお別れですな」
少し名残惜しさを感じつつも我らはレビン殿と別れ、ミジナの森へと向かった。
はっきり言って我らの脅威になりうるのはこの周辺においてはマンティコアを置いて他におらぬゆえ、我らは特に気にする必要もなく我らはミジナの森へと向かう。
そして、ミジナの森へとたどり着いた後も、特に気にすることもなく周囲を歩き、出会ったオークを静かに見据え時間を過ごしてしばし。
「ナニヲシテイル?」
吼えるように話しかけて来る声に、我らは静かに振り向く。
「久々でありますな、マンティコア殿」
「ムゥ、ココ二ハコナイデホシイモノダ。管理シテイルオーク二影響ガアルカモシレナイ」
そう言うマンティコア殿に我は一枚の紙を差し出した。
「ファン・レイ殿からの紹介状です。協力してくださいますな?」
我が取り出した、我らにできるだけの便宜を図ることを書いた指示書に、少し閉口したマンティコア殿は「好キ二シロ」とそのまま立ち去ろうとした。
「少し待たれよ。マンティコア殿。ここのオークについて、少し質問してもよろしいか?」
その後、我らはマンティコア殿にいくつか質問をし、オーク達の様子も観察したうえで、帰路についたのであった。
~~~sideアンネ~~~~
「やるじゃねぇか!オークのネェちゃん!」
「当ゼン!私ハ、ドラゴンモ倒シタ!」
「よっ!ドラゴン殺しの蘇芳ちゃんっ!」
バンバンと肩を叩かれながら、先ほど殴り倒したジャイアントリザードの前で仁王立ちする蘇芳に、私は意外だわ、と近くで見守っていた。
今日の依頼は斧使いのバルディアというスキンヘッドの男からの持ちかけで参加することになった依頼だ。何でも彼らは普段5人パーティなのだが、つい先日パーティメンバーの魔術師と女戦士の間に子供ができていることが発覚したことで女戦士が休職し、パーティに穴ができてしまったらしい。
とはいえ、そこそこ名うてのオーク級冒険者だったので募集自体は順調に行きそうだったのだが、先日の宴会で意気投合したバルディアの一存で蘇芳に白羽の矢を立てたらしい。
そんな経緯もあり、バルディア以外の冒険者たちは猛反対したものの、人権印章があること、一度くらいは一緒に冒険してみてもいいんじゃないかと説き伏せられ、他の冒険者も渋々と納得したようだった。
ただ、いくら優秀とはいえオーク級の冒険者、細かな実力では私達の中でも一番成熟しきっていない蘇芳であっても、彼らの戦闘能力を大きく上回っていた様で、次々と魔物を仕留めていく蘇芳に彼らの不信感はだんだんと薄れて行った。
しかも、蘇芳は拙いながらも相手を気遣い、攻撃をアシストすることさえあったのだ。恐らくだけれど、今迄の戦闘で最前線での活躍を十分にできなかったことで、自分が活躍するだけでなく、誰かを活躍させるということを覚えたのだと思うけれど、その成長に私はただただ驚くばかりだった。
そんなこんなで戦いを進めていくと、戦闘商売の冒険者にとっては結構な好感度が稼げるわけだが、その先も蘇芳は意外な社交性を発揮した。何しろ蘇芳はグォーク以外眼中にない存在だ。だから、狩った獲物も最低限自分の分を確保したら山分けすることに全く異議無く同意するし、それでいて褒められることは好きだから冒険者のよいしょにはノリのいい返事を返していく。知識は足りないものの、他者に知らないことを躊躇なく聞ける謙虚さもあり、要は山賊の女首領の頼もしさと、冒険初心者の初々しさを併せ持つような何とも言えない人辺りを作り出していた。
というようなことを考えていた私は、蘇芳に声をかけた。
「……蘇芳、そろそろ夕方になるけれど、帰ってはどうかしら?」
「!?ホントダ!チョットアイツラ二聞イテクル!」
そう言って駆けだす蘇芳に、アンネはもう一度声をかける。
「蘇芳!彼らといるのは楽しいかしら?」
「ウン!スゴク!」
そう言った蘇芳の満面の笑みを見て、私は蘇芳の……何となく妹分と感じる彼女の笑顔を守りたいと思ったのだった。
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なお、その日は大量となった魔物の素材の売却費を酒代として宴会が開かれ、私もしこたま飲まされて翌日グロッキーになったことでちょっとついて行くのが憂鬱になったのはここだけの話だ。
戦士 バルディア スキンヘッドの大男。考えなしだが野生の勘と人望はあるタイプのリーダー
僧侶 アーカイン 臆病な僧侶の女。戦闘に入れば頭を切り替えるが、今でも少し蘇芳が怖い
盗賊 フォビオ 元々は盗みを生業にしていたが、バルディアにはっ倒されてから冒険者になった。最近やっと信頼を回復し、普通に生活できるようになった。性別不詳だが発言から男と思われる。
魔法使い エイブラ 旦那さん。上級魔法を使えることが誇り。家で待つ妻のために頑張っている。
女戦士 ミザリー 奥さん。胸がデカい。




