オークと移住計画
オークは移住できるのか?
本日3話投稿します。
各方面を探索して数日、俺たちは集中的に西側を探索していた。
「そうね……ここら辺なら、開けてていいんじゃない?」
「そうダな。ここら辺なら、良いダろう。アントの巣もそこまで近くナイしな」
目的はそう、移住のための場所探しである。
アンネ曰く、この森は野生の魔物や果実なども豊富にあるため、ひと月という旅を余儀なくされるものの、船を利用できない、あるいは高額な費用を支払わずに移動したいという冒険者や商人などによって通り抜けられることがあるらしい。
そのためいくら奥地に行っても人間に遭遇する可能性はなくならないのだが、それでも奥地に行けば、いくらか遭遇する可能性は減るだろう。
因みに、アンネの目的は集落の分断である。(建前としては)オークを全て奥地に移動させる予定だが、”物わかりの良いオーク”が有り得ない人物、という意味でことわざになっているような状態だ。つまるところ、アンネは(ついでに俺も)完璧な移住は不可能だと考えている。
そのため、移住に成功したチームと、移住に失敗したチームで二つの集落になることを想定しているというわけだ。集落を二つにすれば、もし、片方に何かあっても種は存続するというわけだ。そうなった場合は、俺にとってもメリットなのでニマニマしているアンネの様子を見ないふりをしている。
「しかシ、オークをどうやっテここまで、連れてクルかが問題だナ」
「一番有効そうなのは、食料と、雌……よね。それか、連れて来たいオークを追い立てるか」
「いヤ。追い立てるのは無理ダな。あいつラ、多分ドラゴンだろウと突進してイクぞ?」
アンネの方もそんな話を聞いたことがあるらしい。とある武将の名言に”いい兵士とは、アントの協調性と、オークの勇猛さと、ゴブリンの機転を持つ者である”という言葉があるらしい。これは、いくら低級な魔物であっても光るものはあるという言葉でもあるようだ。
因みに、悪い兵士に関しては”オークの協調性と、ゴブリンの勇猛さと、アントの機転を持つ者”であるそうだ。
結局、追い立てるにしても追い立てられる協力者がいないため断念し、食料と雌で誘導することにした。
とりあえず、まずは食料を用意してみた。オークの食料と言えば肉なので、前回の罠で入手した麻痺した生物や追加で狩った魔物をある程度の大きさにばらして集落近くからヘンゼルとグレーテルの話のように新集落まで置いていくことにした。
当然、放置すると他の魔物に横取りされるので、隠れたアンネと念話で会話しつつ、俺が先行して肉を撒くという作戦だ。勿論、念話がそこそこの長さで届くのは確認済みだ。
と、早速アンネから念話が届いた。
"オークが最初の肉に気付いたわよ。今、最初の肉を拾ってるわ"
作戦開始だ。
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「……また、失敗したわね」
「遠すぎタ、か」
オークを肉で釣る作戦は、最初は成功だった。オークも次々と落ちている肉を拾って、先へ先へと進んでいた。
だが、結局は失敗だった、失敗の理由は簡単。オークの食欲が満たされてしまったからだ。
オークは欲望に忠実だ。それは逆に言えば、欲が満たされれば何もしなくなるし、あるいは別の欲の為の行動をするようになる。
肉を食べ続けたオークは、最終的に目的の三分の一まで進むと、それ以上は見向きもせずに来た道を巻き戻ってしまった。
「というか、思ったんだけど、今回の様子見たらもしも目的地まで行ってもいまの集落に戻っちゃうんじゃないかしら、これ」
「イヤ、流石にあの距離は帰っては来れナイと思ウ……ガ、適当に歩き回って行方不明ハ有りそうダナ。勿体ない気もするガ、今の肉は集落予定地の方に置いておくことニしよう」
一旦肉を集落予定地の方に置いておいて、二つ目の作戦を実践した。
二つ目の作戦はゴブリンの雌を使う作戦だ。なるべくイキのいいゴブリンの雌を捕獲して木の檻に入れておき、オークが見つけた段階で解放、俺たちが念話や足の速度を上昇させる魔法、あるいは追いかけているオーク自身の足を引っかけるなど新しい集落予定の場所へ行けるように誘導とアシストをしつつ、逃げてもらうことにした。
今回は補助する人手が欲しいのと、そこまで先行することに意味がないので、俺とアンネも一緒に行動している。
「よし!来たわよ!グォーク!柵空けて!〈加速の加護!〉〈体力の加護!〉」
こうして、オークとゴブリンの鬼ごっこが始まったのだった。
序盤はゴブリンが有利だ。突進力はオークの方が上なものの、そもそもオークに障害物、という概念がないため、獲物に向かって直線を目指して突っ走ることなる。木にぶつかるたび、石にぶつかるたびに、木を破壊したり、よろめいた途端に石から少し立ち位置が変化したり、あるいは、流石に少しは避けたり……いや、あれ、ゴブリンが曲がったから進行方向が少し変わっただけだな。
まあ、兎に角すばしっこく逃げ回るゴブリンを追いかけて、俺たちは進んでいく。たまにアンネが斜め方向に魔法を打ったり、さりげなくオークの足を引っかけたりしながら俺たちは集落まで半分のところまで進むことができた。
「ふう、やっと半分だナ」
「油断しない方がいいわよ。まだ半分、と思った方がいいわ。それに……あのオーク、かなりイラついてるみたいよ」
確かに、今までかなりオークを見てきたが、あんなに息を荒くし、目を血走らせたオークを見たことはない。端的に言って、余裕がない状態だ。
そして、見ている間にそのオークはその憤りを表すかのように振り回した手が、後ろの木にぶつかった。
ミシミシと音が鳴り、この度何回目になるか分からない木の倒れる音が響き渡る。
今までと違うのは、オークが後ろ手で木を叩きつけたこと。そのため、木は進行方向に倒れ掛かった。
「あ」
進行方向とはすなわち、ゴブリンのいるところということで……。
「グギャ!?」
倒れた木はゴブリンの上に降りかかり、そして、その重量で押しつぶした。
「……」
「……」
お互い顔を見合わせる俺たちをよそに、オークはゴブリンの亡骸を口に含みながらやっぱり元来た道を戻っていった。
一応、もう一度試してみたのだが、雌ゴブリンが逃げ切れずに行為が始まった以外は特に違いもなく、更に進んだ距離も最初の方が長かったという結果で終わった。
「……とりあえず、私は移住を凍結したほうがいいと思うわ」
「……ソウダナ」
あまりの結果に、言葉すらも片言になった俺は、アンネを連れて、とりあえずどうすればいいのか考えながら集落に戻るのだった。
なお、グォークの集落でも住んでいるオークはかなり入れ替わりが激しい模様。




