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オークと図書館

 昇進試験をこなしてマンティコラ級に上がった翌日。

 なんだかんだで祝ってくれたファンレイやテュフラ、冒険者受付の半ば俺たち専属みたいになっていたおっちゃんも祝福してくれ、軽いものではあるが酒場で宴会を開いてくれた。


 しかも、その後酔った勢いで「オークと一緒に酒を飲むなんて、酒がまずくなる!」と突っかかった冒険者と殴り合った末に蘇芳がその冒険者と意気投合、大爆笑しながら肩を組んで酒をかっ食らった姿を見せたことで、他の冒険者もやって来て大宴会へと発展した。


 そもそもオーク程度であれば相手ができる冒険者は多いし、そこの恐怖心よりも、馬鹿なはずなのにおとなしいオーク達が何をしでかすか分からない、という所が俺たちが(少なくとも冒険者達に)避けられていた理由らしい。

 しかも、多少警戒している者であっても、賢者の直弟子であるファンレイ達と酒の席に同席することは魅力的で、もっと言えばたとえ構成員がイロモノばかりとはいえマンティコラ級にまで上り詰めた冒険者との関わりを持つというのもかなり魅力的に感じるものらしい。


 最初はおずおずとアンネやリナに話かけて来た冒険者達だったが、アンネにリーダーが誰かを教えられたり、リナにのろけられたりして、俺やボスに話かける者達も増えてきていた。なお、俺たちの毒無効はここでも有効らしく、雰囲気には酔っているもののシラフで対応していた。


 そんなこんなで冒険者と話し合った結果、俺たちは「種族はおかしいが悪い奴らではない、というか気の良い奴ら」であるという認識が冒険者の中に生まれることになった。今現在でも宿屋の一人娘に扉の影から警戒される俺たちだが、冒険者だけとはいえ警戒感が薄れたのを考えればそれだけでも大収穫な宴会だった。


~~~~~~~~~~~~~~

 翌日、俺は頭を押さえたアンネを肩に乗せ、ついでに勝手についてきた蘇芳を連れて、町のある場所に向かっていた。


「……で、どこに行くっていうのよ……っう」


 今までにない低いテンションで呟くアンネに、俺は歩きながら言葉をつづけた。


「この都市には図書館があるんだろ?せっかくなんだ、賢者様からの結果が来るまでこっちで少しでも調べておきたいと思ってな」


「それは……確かにそう、うっぷ……ごめん、今日ちょっと無理」


 どうやら完全に二日酔いになってしまったようで、茸人に頼んで転移で宿屋に帰ってしまった。俺は横にいる蘇芳を見ながら、まぁ、宿には同じくグロッキーになったリナを心配したボスもいるし、今日は図書館がどんな感じなのかを見るだけでいいかと思い、そのまま図書館に向かうことにした。そして……。


「申し訳ありませんが、あなた達を図書館に入れるわけにはいきませんな」


 図書館前で門前払いを受けることになった。


「……理由をお聞きしても?」


 老執事然とした燕尾服を着て丸眼鏡をかけた老人は、問いかけた俺に仕方ないという様に肩を竦めてため息を吐いた。


「以前、魔物上がりの方に図書館の蔵書をめちゃくちゃにされたことがありましてな。本とは我らの命と等価。扱いを知らぬ者にお渡しすることはできぬのです」


「俺たちは……俺はそう言った事はしないつもりだ」


 ちらりと蘇芳を見て言い直した俺に、老人は眼鏡をきらりと光らせて俺を覗き込む。


「ふむ……その意志は認めましょう。しかし、話はそう言うことでもないのですよ。例えば……」


 そう言う老人の手には一枚の巻物が出現していた。


「書の尊さを知る鬼族が居りましてな、その鬼がこうしてこれを広げますと……」


 そうして老人が広げた巻物が、過剰に駆けられた圧に耐えきれずにビリビリと破けて行った。


「……これは書き出す前の物ですから問題ありませんが、魔物上がりの方は本も殆ど見た事も触ったこともないもののはず。図書館内の書物を()()しないという保証はありますかな?あぁ、言っておきますが、賢者のギルドで渡された書物は参考にしない方がよろしいですぞ。あれは本自体に防護魔法が施され、どのような種族でもおいそれと壊されないようにされておりますからな」


 その老人の言葉に、俺は思わず口を噤んだ。俺自身は前世の記憶もあるし、当然本を読んだこともあるので乱暴に扱わないことを確信できるが、そこはそれ、俺だから言えることだし、そもそも蘇芳に関してはやはり不安が残るところだったからだ。


「……ふむ、とりあえず、本日はお引き取りを……と言いましても、わざわざ図書館に足を運んでくださった方々をそのまま返すのも忍びないですな、記念と言っては何ですが、こちらをお持ち帰りください」


 黙っていた俺たちに、老人は困った顔をしながら一冊の冊子を懐から取り出してきた。


「そちらは差し上げますから、好きにご使用ください」


「分かった。また来る」


 俺は、口添えをしてくれそうな人々を頭に思い浮かべながら、蘇芳と共に宿に足を向けたのだった。


 

テュフラ「図書館に関しては知識の集積所ってこともあって、種族による区別をしてもいいってことになってる。昔、図書館で弟子のひとりが本を破っちゃったから結構こっちも強く言えないし」

グォーク「まじっすか」


 こんなこと言ってますが、無理が効くだけで賢者の弟子の本来の権限はそこまですごいものではありません。そもそも賢者の塔自体が統治機構ではなく、賢者という権威とギルドという武力だけを持った組織で、賢者は各ギルドに大きく干渉しないようにしているので普通に考えれば与えようと思ってもギルドの管理する土地や施設における優遇くらいの権限しか与えられないのです。

 ただ、そうは言ったって世界最大規模の組織のトップ直属の存在なので、他の組織であっても忖度はしてくるよねっていう話です。

 どちらかというと賢者の弟子として忖度されるよりも弟子達は普通に優秀な冒険者や統治者だったりすることが多いので弟子個人のコネやつながりで忖度されていることが多いです。

 ファンレイは防具職人やアイドル事務所的な場所、テュフラは魔術教会や商会、それに古い貴族たちや王国の騎士団など幅広いところに顔が効きます。

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