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行商人と猫村長

 レニ村、レニ草が有名なその村は、リス・デュアリス神聖王国内でも珍しい、基本的な住人が獣人で構成された村である。

 5000年前の魔王大戦。その傷跡ともいえる獣人の差別は今も根強く人々の心の中に染みついており、規制されていないにも関わらずリス・デュアリスにおける獣人の人口は極めて低い傾向にある。

 場合によっては獣人のメイドに色々させている貴族……なんてイロモノもいないことは無いが。まぁ、基本的には獣人は肩身の狭い思いをするか、逆に吹っ切れて自由に過ごせるだけの力を得た冒険者となって好き勝手しているかのどちらかだった。


 そんな中、レニ村はそれらとは少し違う経緯を持つ。

 この村の土壌には特別な力があるのかレニ草という薬草が良く育つ一方で、付近のミジナの森にはオーク、そしてそのオークを食い物にするという恐ろしい化け物が存在していると噂されているのだ。オークの方は確実におり、そしてそのオークの様子から見て化け物の話も眉唾物ではないというのが一般の見解だ。


 それ故に、レニ草という貴重な物が収穫できる場所であるにもかかわらず人間たちはそこの寄り付かず、ただ獣人たちが住みつくようになったのだという。


 と、そんな村に一人の行商人が姿を現した。どうやら護衛も付けていないようだ。村長である砂漠猫獣人のヘリオスは、見慣れたその少女に声をかけた。


「レビン、また来てもらって悪いね~」


「ヘリオスこそ、元気そうで何よりだよ」


 そう言って、二人の少女は拳をぶつけ合う。


「ん~でも、一人でミジナの森は、流石に危険じゃないかい?」


 その言葉に、レビンは苦笑を返した。


「あぁ、いや、今日は護衛と一緒に来たんだけど、私を村のすぐそばまで送り届けたら、ミジナの森の方に向かっちゃってね。何でもあそこのオークに用があるみたいなんだ」


 それを聞いて、ヘリオスははぁ、と興味なさげな声を出すと、レビンの手を引いた。


「まぁ、それならいいや。レビン、ちょっと休憩すると良い」


 そう言って、ヘリオスはレビンを酒場へと案内した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 村長命令で荷馬車をレビンの最寄りの宿に付けるよう指示させ、酒場で最初の杯を開け、二人そろってぷはぁ、と息継ぎをした後レビンが口を開いた。


「それにしても、あんたが酒を飲むなんて珍しいじゃないか。なんかいいことあったのかい?」


 それを聞いてヘリオスは何故だかむくれたような顔になり、レビンを横目で見た。


「む~。まぁ、君ならいいか。当事者だし。……君、前回ミジナの森で、アレにあったろう?」


 それを聞いて、レビンは緊張したように頷いた。あれ、即ちミジナの森に潜む恐ろしいマンティコアに出会ったことは、彼女をして思い出すだけで緊張せしめる相手なのだろう。


「で、前回それについて君の護衛の一人に、遠回しだけどそれは賢者の恩寵じゃないか、と言われてね」


 どういういきさつでそうなったのか、それは言わない。だが、多くを語らずともあれと賢者との間に関わりがあり、それがどういう意味を持つのかを察したのだろう。息をのむ彼女に、ヘリオスは言葉を続ける。


「悩んだんだけど、これは私だけでなく皆に伝えるべきことだと思って、重役たちに伝えたらなんて言ったと思う?”え、今更そんな話ですか?”だ!本当に、愚かなことにぼくだけ気付いていなかったというわけさ」


 そう言うと、ヘリオスは新たに来た酒を一気に呷る。


「まぁ、大戦でのことは、ぼくの罪でなくとも獣人の罪ではある。その罪悪感が視野を狭めていたとは思うけれど、それにしたってヒントを見失いすぎていて自分のことながら情けない」


 そう言って管を捲くヘリオスに、レビンが内心厄介なのに首を突っ込んだと思いつつ、今更後に引けないと問いを返した。


「ヒント、というのは、何があったんだ?」


「そりゃ一杯だよ!例えば、私達がミジナの森を通った時にあれに出会った時は殺されずに気が付いたらココの近くに来ていたりだとか、オークの被害がこれまで出ていなかったとか、宣伝もしてないのに賢者の塔から行商人が来てレニ草の販路を確保したうえ宣伝までしてくれたりとか、偶に監査で賢者の弟子がこの村に滞在したりだとか」


「……それは、既に賢者の弟子の管轄に組み込まれてるのでは?」


「今思えばそうだと思うよ、ぼくも」


 だが、実際にはミジナの森やオークの被害が出ないのは運が良かっただけだと思ったし、賢者の弟子の監査は自分たちを疑う見張りの眼だと思っていた。


「お、やっとすっきりした顔しおったな、ヘリオスの嬢ちゃん」


「あ、エマイか」


 賢者の塔の行商人であるエマイは神出鬼没であるが、どうやら久々にレニ村に来たようだ。


「ん?ヘリオス、この獣人はいったい?」


「は~ぁ!?誰が獣じn……いや、まぁここの村の獣人と間違えられるんならまぁええか。ほんなら間違えられんよう自己紹介しよか、わては猫妖精人(ワーキャット)のエマイっちゅうもんです。賢者の塔拠点にして商人してるさかい、よろしくしてや」


 その自己紹介に、口をパクパクさせて驚くレビンにヘリオスとエマイはぷっと噴き出した。


「あんさん、なんて顔してはるん?」


「レビン、その顔は面白すぎるよ」


 その後、なんだかんだでエマイも酒の席に同席することになり、二人の商人と一人の村長は一時の集まりを楽しんだのだった。

閑話 某村長のその後。


 なお、ヘリオス村長は村長になる前は聖都の獣人たちを纏めるリーダーだった。

 スラムにたむろしていた獣人をまとめ上げ、冒険者として活躍したが、割と平和な世界の為にいまいち獣人身体能力も生かしきれず、”なんとなく”での差別もあったためこのままでは駄目だと感じて獣人主体の自治組織を作ると言って聖都を飛び出した。

 その直後、ミジナの森にてマンティコアに遭遇、皆が逃げる時間を稼ぐためにしんがりを務めたら、散々もてあそばれた挙句森の反対方向にポイッと放置された。

 その後、薬師の技能があった獣人の一人によってまだ名前のついてなかったレニ草を使っての療養に入り、そこに賢者の手先と思われるエマイが登場、ここでレニ草を栽培してくれるなら高値で取引するという提案がなされ、マンティコアに敗北してボロボロメンタルになっていたヘリオス村長を筆頭にその場所への本格的な定住がはじまった。


 みたいなバックストーリーがあると思う。

 なんだか1作別話でかけそうなくらいヘビーな話やな。

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