オークと賢者の反応
しばしの沈黙がその場を支配する中。緊張感が高まっていく。
「……何してんのよ、あんたが話さないでどうすんのよ」
「え?あ、あぁそうか」
緊張感から解放された上、その後サスティナ達が帰るのを見届けたため、なんとなく蚊帳の外の気分になってしまっていた。
俺は改めて静かにポテトを抓むカーク様に向き合い、問いかけた。
「一つ、お知恵をお借りできないだろうか」
「あぁ、私が知っていること、思いつけることなら。そして、試験と突破した君達ならば、大抵の協力は惜しまないよ」
確認が取れたので、俺は今までのことを話し始めた。オークの集落に生まれ、人間の冒険者と出会い、そして、アンネやボス、蘇芳と出会って、森の外にオークの集落を安定して存続するための方法を探しに来た事。
なるべく漏れが無いように全てを伝え終えると、カーク様は先ほどまでちびちびと食べていたポテトを口に放り込み、こう一言言い放った。
「何でこんなところまで来たんだい?」
「……!その言い方は、いくら賢者だといっても!」
「いや、そうではなくてだね」
自分の悩みを適当に流されたと思い激高しかけた俺を、カークの手が制した。
「そうだね、分かりやすいように質問しよう。君はそのオークの集落をどうしたい?」
「存続させたい。俺の故郷でもあるんだ。なくなるのは嫌だ」
「存続、なんだね、発展ではなく」
それを聞いて、少し言いよどむ俺だったが、カーク様はそれに頓着せずに次の質問を投げかける。
「じゃあ次だ、君はどうしてここにいる?存続を望むならここではなく集落にいなければいざという時にオーク達を守れないだろう」
「それは、リリスウェルナ様が俺たちが旅の間に、守ってく、れ、る?」
その時、俺の頭に何か閃いたような気がした。そして、次の瞬間、その閃きがカーク様の口から紡がれる。
「なら、君たちが戻らなければ集落はどうなるのかな?」
「それ、は、リリスウェルナ様の庇護下で、オークの集落は存続、する?」
「ほら、私が出る幕はないじゃないか」
確かにそうだ。黒き茂みの森の魔王であるあの淫乱ピンクは、世界でも有数の巨大な魔境を統治する魔王なのだ。その性癖や性格が残念なものだったとしても、その実力まで残念なわけではない。むしろ今までであった者達の中でも指折りの実力者だろう。そんな相手に守られる以上の方法を、俺は見つけられるのか?
「だ、だけど、例えばリリスウェルナ様が俺たちが帰ってこないことに焦れて、守るのをやめる、とか」
「あの子はああ見えて義理堅い。自分で守るといったなら最後までやり通すだろうね。それこそあなたたちが死んでも、ね」
でも、だって、だけど。何度も何度も反論の言葉が頭の中を駆け巡り、しかし具体的な形を得ることなく消えて行った。
そして、どれだけ経っただろう。ふと俺は自分の思考に疑問を持った。
何故俺は、カーク様の言葉を否定したいのだろうか。と。
事態が既に解決している。それはよく考えれば喜ばしいことだ。勿論遠路はるばるここまで来たという徒労感はあるだろうが、本当に集落の存続だけでいいならば先ほどの話で、もう終わった話なのだ。そうでないとするならば。
俺はふと後ろを振り返る。最初に目が合ったのはボスだ。ボスは振り返った俺の眼をみて、信頼した様子で見返してきた。そして次の瞬間、蘇芳がボスの目線を遮り、俺に身を寄せて来る。
それを見てボスに身を寄せに行くリナ。その様子を視界に移していたアンネが、俺の方を見て笑いかけた。
「よくわかんないけどさ、自分の思ってること、全部吐き出しちゃいなさいよ、グォーク」
その言葉で、俺は、俺の思いをやっと自覚した。
「カーク様……いや、賢者様。俺は今まで気づいてなかったけれど、集落のオークのことを思ったよりも好きだったらしい」
無言で俺の言葉を聞く賢者様は、先ほどとは違って何も口に含まずに話を聞いていた。
「俺は、あいつらに俺と同じように、広い世界を知って、笑って、楽しいことをしたい、発展なんていらない。だけど進歩はしたい。ただ本能に任せて生きるんじゃない、一人のオークとしての人生をあいつらに歩ませてやりたい。だから賢者様、そんな方法はないだろうか」
それを聞いて、賢者は無言で立ち上がり、俺たちの前にやって来た。
「結論から言えば、私自身はオークに一個人としての人生を歩ませる方法は知らない……が、ヒントなら与えることが出来そうだ」
そう言って、パチンと指を鳴らした。すると、ジュモンジ達の時と同じく転移門が出現する。
「着いてくると良い」
そう言って、賢者様はさっさと転移門の中に入って行ってしまう。慌てて俺たちが追いかけると、そこは森だった。うっそうと茂った森、おそらく俺たちが住んでいた黒く茂みの森とほぼ同じような森に、俺たちはそれを発見した。
「ん?お、おぉ!!これはこれは賢者様!ご機嫌麗しゅう存じます!」
それは、明らかに弱そうだった。体躯は進化していない俺や蘇芳よりも貧弱で、むしろ華奢さで言えばゴブリンからの進化であるリナの方が近いと言えるほどだ。
だが、それは明らかにオークでもあった。緑の肌の色、尖り、頭の上を突くように長い耳、無いのかと思うほどに潰れて低い鼻。顔の両端から生えるやや小さめのキバ。それは体型を除けば明らかにオークの特徴であった。
そして、賢者様が俺たちに振り返って彼を紹介した。
「彼の名前はディーガ。元オークにして、今はオークマンという知性を持った種族に進化した個体だ」
と。
ということで、1章最後からの伏線回収。
そうなんです。薄々勘付いている方もいそうですが、アンネとグォークで取り決めた最初の目的(1章12話「オークの改革」参照)だけなら一章のリリスウェルナ様の提案を受けた時点で達成されてたんですよね。(勿論それを永続的にっていう風に見るのは魔王の性格が不明な時点で不確定ですけれど)
オークマンについてはリナちゃんのオーク版だと思って貰えば間違いないです。




