オークと竜帝 中章
俺が突進すると、竜帝様は俺に向かってその大きな尾を振りかぶる。丸太のような尻尾が、俺たちを思いっきり薙ぎ払った。
「アンネ!」
「分かってるわ!」
その直後、俺は思いっきり飛び上がり、巨大な尾を回避する。俺が避けた部分である、先端の方であっても二階建ての建物ほどの高さがある尾を躱したことに驚きの顔を見せる竜帝様だったが、俺はこの機を逃さず、素早く着地して更に距離を縮める。
『なればこれはどうじゃ!』
折り返しの尾が再び俺に襲い掛かる。俺は再びアンネに合図をし、強く飛び上がる。しかし、その直後、頭上に巨大な手が迫って来た。
『空中では避けられまい!』
そう言う竜帝様の思惑とは裏腹に、俺たちは異常ともいえる速度で地面に着地し、更に距離を縮めた。
『……!そうか、重力か!』
「ちょっと、グォーク!ばれたわよ!」
「いつかはばれるんだ!気にするな!」
そう、俺たちが使った回避の方法は、重力魔法で俺たちにかかる重力を弱くし、より高い場所に飛翔できるようにしたり、逆に急速に重力を上げて、通常よりも落下速度を上げたりといった手段だった。
そして、アンネは魔法の研究によって、この重力もいろいろと手を加えていた。
「せっかくばれたんだ!盛大にぶっこんで距離を詰めるぞ!」
「わ、分かったわ!」
そう言ったアンネが魔法を発動させると、途端に俺は竜帝様に向かった落ちた。
勿論、上空高くに一瞬で登った、というわけではなく、重力を横向きにかけることによって、同じ高さなのに横に落下しているのと同じ状況を作り出しているのだ。
『甘いわ!』
そこに、竜帝様の前脚が勢いよく振り下ろされる。しかし、そんなことは承知済みだ。重力のかかる方向を逆転し、半ば吹っ飛ばされるように受け身を取りながら転がった。
なにしろ、俺たちは別に竜帝様に無謀な特攻をするために向かったわけではない。
俺の啖呵から始まり、重力魔法による回避そして、突撃によって、竜帝様の意識は否応なく俺たちに向いている。
……というか、一応試験官な竜帝様が俺たちだけにかかずらっていていいんだろうか?とはいえ、視線は確実に俺たちを見据えており、これ以上の好機は無いと言えるだろう。
『避けたか、運のよい……ムッ!?』
「油断したのう、竜帝の」
そう言ったジュモンジを見ると竜帝様を幾十幾千の蔓で縛りつけていた。
「流石に、長時間かけて仕掛けた、儂の”鋼鉄の蔓縛”はすぐには解くことはできぬじゃろう?」
『陽動ということか!だがここで振りほどけば同じ事じゃ!』
そう言って、竜帝様が体を大きくくねらせると、それだけで地面が揺れ、ジュモンジも辛そうな顔をする。
「おい!グォーク達、こりゃちょっと持たんぞ!」
その言葉に動き出す俺たちだったが、その目の前を一条の矢が通り過ぎた。そして、その一条の矢は、なんと竜帝様の逆鱗に到達する。
「エルフ直伝、”パワーアロ―”です!」
そう言ってサスティナの背の上で笑ったウリエラに……竜帝様の咄嗟に放ったブレスが直撃した。
~~~~~~~~~SIDEサスティナ~~~~~~~~~~~~~~
竜帝様と……戦う?
その一時のみで、私は思考を止めていた。なにかグォークが言っていた気がする。ジュモンジのやつが呪文を唱えている間に、こちらを見ていた気がする。じゃが、私が感じていたのは恐怖だけだった。
こわい、こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいにげなきゃにげなきゃにげなきゃにげなきゃにげなきゃにげなきゃにげなきゃにげなきゃ。
「……さま、サスティナ様!」
ふと、背後から聞こえる声に、私は首を伸ばして背を見つめた。
「こうして乗っていると、サスティナ様の武者震いを感じます。ごめんなさい、ぼくが弱いばっかりに……」
「そんな……ことは……ない、のじゃ」
私は……いや、わらわはほんの少しだけ我を取り戻したのじゃ。こわい、とてつもなく怖い。じゃが、この小さな弟子に、我がパートナーにかっこ悪いところは見せられぬ。たとえそれが死地に向かうことだとしても、儂の中の竜としての誇りがそう訴えているようじゃった。
じゃが、それでも突撃するような勇気は出なんだ。わらわと竜帝の大きさはそれこそ人の姿の時のわらわと、大樹になったジュモンジ老ほども差があった。それ故に、こちらを見られていないことを分かっていながらもわらわは前に出られなんだ。
それを見越したのじゃろうか。ウリエラがわらわの背で、弓をつがえる。
「サスティナ様。見ていてください。僕はまだまだ弱いけれど、それでもサスティナ様と共に歩むために、命をかける思いだけは、負けないつもりです」
そう言って、ウリエラの弓が大きくしなり、魔力を込めた矢が竜帝様の元へと飛んでいく。それは、グォークの奴に意識を割いていた竜帝様の喉に、竜帝様の逆鱗に狙い過たず直撃し、逆鱗に突き刺さった。
「エルフ直伝、”パワーアロ―”です!」
わらわは、少しだけ目を伏せ、背中の偉大な弟子に思いをはせる。
”ウリエラよ。もしや……否、確実に、お主は儂よりも……”
そして、わらわは身に滾る熱を感じておった。
「弟子が口火を切ったのじゃ!ここで攻められず何が師匠……じゃ……」
目を見開き、気炎を上げるわらわは一瞬でその意気をしぼませる。気が付けば、背が異常に軽くなっている。
後ろを見れば、淡い燐光を放って消え去るところのウリエラの姿があった。
「あ、あああ、うり、えら?」
何故ウリエラが消えているのか、何故、何故、何故。そして、私は……狂った。
サスティナちゃんの精神が不安定すぎていろいろと文体が変なことになってる。




