オークと三次試験
「大分待ったわよ。あなた達」
俺たちがギルドに着くと、以前受付の女性がいた場所にファンレイがいた。
「え、ずっとここで待ってたんですか?」
「そんなわけないでしょ。そう言う演出よ」
そんな軽口を挟みつつ、俺たちはファンレイの前に集まる。
「……その装備に、かかった時間。これは依頼を受けるってことでいいのね?」
「勿論だ」
それを聞いて、ファンレイは頷いた。
「それじゃあ、死も恐れない勇猛な冒険者に幸あらんことを」
そう言って、ファンレイは一つの扉を手ずから開く。そこは、広大な大きさを誇る急峻で草木の生えない山のように見えた。
「あぁ、行ってくるよ」
俺たちはそれぞれファンレイに声をかけて、転移門に入って行ったのだった。
SIDE 数日前 サスティナ~~~~~~~~~~~~~~
冒険者ギルドの昇格試験とやらも、大したことないのう。
わらわはそう思っておった。何しろ、今まで倒してきたのは一次試験のワーカーアント、それに二次試験のエルダートレントの群れに、ギルドでのグレーターデーモンとの戦いのみじゃ。
勿論グレーターデーモンはわらわをしても相応の噛みごたえは感じたが、言うなればその程度。わらわ単体ならともかく、あのジュモンジのやつや、急成長している自慢の愛弟子の援護があればそう苦戦する物でもなかったのじゃ。
「のう、ジュモンジよ。そこまで準備をせねばらなんものなのか?」
「当然じゃよ。あの常軌を逸した修行ぐr……失敬、我ら冒険者に耐えられる限界を超えてなおその限界を突破させる賢者様の最終試練じゃからな。どれだけの理不尽が降りかかるか儂にも全く分からぬ。じゃからこそ全てを想定する必要があるのじゃよ。それとも、あの子の前で数刻ももたずに退場するかね?」
ジュモンジのからかうような声にわらわは憮然としつつも否定はしなかったのじゃ。確かに、今までの試練がそれほどの難易度で無かったとしても、次の試験の難易度が分かるわけではないのじゃ。それにウリエラに、我が愛弟子に、師匠がすぐさま致命傷を受けて戦闘から退場する姿なぞ見せるわけにはいかんのじゃ。
「わかった、準備は任せる。じゃが、もうちょっとなにか無いのかのぅ?わらわはもう手持ち無沙汰の暇さで死にそうなんじゃが」
「せっかく時間があるんじゃから、ウリエラ殿に色々と座学を教えてやればどうじゃ。一応、龍王の玄孫としてそれなりの教育は受けて来たんじゃろう?」
何となくお前にできるのか?と挑発されているようで憮然とした気持ちになるのじゃが、まぁ、提案自体は悪いものではない。せっかくなのでこの世界の地理や歴史についてウリエラに伝えることにしよう。
……後程、わらわはこの時のジュモンジの、こちらを伺うような、或いは諦念の中に一かけらの期待も籠ったような目をしていることに気付かんかった。そしてそれを見過ごしたことで起こる被害を最小限にするためには、ここで何とかするしかなかったのじゃろうと思うが、そんなことを思うのはまだ、もう少し先の話じゃった。
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荒野に降り立った俺たちは、そこで見慣れた姿を見つけた。
「そっちも二次試験は突破したのか」
「当たり前であろう?グォークよ」
ニカリと笑うサスティナに、俺も笑みを返した。そして、ジュモンジに視線を移す。
「しかし、ジュモンジ様、まさかあなたまで三次試験を受けるとは思わなかったな」
「ふぉっふぉっふぉ。死してなお先達に道を示すのも、老木の役目というものじゃからな」
「?そなたら、一体何を……」
次の瞬間、一面土の色しか見えなかった山の景色に、一筋の赤が浮かび上がった。そして、それは見る間に空を覆い尽くす巨大な魔法陣へと姿を変えた。
以前も見た事のあるその風景に、俺たちは身構える。
「ボス!」
「承知!」
俺の声に合わせて、ボスは以前ドラゴモール戦で作った氷の盾を形成する。
そして次の瞬間……魔法陣から放たれた獄炎が一瞬で氷の盾を溶かしつくした。更に炎が俺たちを襲うが、事前に用意していた炎耐性のマントで身を包み、難を逃れる。
「ほう、この一撃をいなすか」
そうして、炎を耐えたあとにその場にいたのは、威圧感を持った堂々たる竜の帝。レイモンドブラッドロード、竜帝と呼ばれる最強の竜の一体であり、竜のじーじとアンネに呼ばれる存在だった。
「り、りりりりりりりっり、竜帝様、じゃと!?」
動揺するのはサスティナただ一人。俺を含め他の者は油断なく竜帝を見つめている。
「さぁ、これより最終試験を開始する。我を驚嘆せしめるがよい!冒険者よ!」
その言葉は豪風を纏って、俺たちに威圧感と緊張感を叩きつけたのだった。
ラストバトルは竜帝様が相手です。流石に本気じゃありませんが。




