オークと面接後編
「さて、それじゃぁ、私からの質問もしようか。尤も、私は大体の様子は把握しているけれど」
ファンレイはそう言ってほほ笑みながら俺たちを見据えた。
「それじゃあ、まずはそこで茫然としているミルグレンの代わりに、何故あなたたちは私を呼べたんだ?受付の女性は何も知らされておらず、副ギルドマスターの仲間のせいで連絡することができなかったって筋書きだったはずだけど」
「それは簡単、私がついて行っていた」
俺たちはギルドに入る前に相談をしていたのだ。もしもギルドが敵対している場合、どうすれば対応できるか考えたのだ。そこで、リナには終始姿を隠してギルド本部に連絡するまで見てもらっていたのだ。
どうやら懸念通り、俺たちがギルドの受付前で大立ち回りをしている間に、リナの方でも戦闘があったようだ。とはいえ、副ギルドマスターたちの実力も俺たちには大して障害にならなかったので、リナの方もそれほど苦戦したわけではないだろう。
リナの言葉を聞いて、ファンレイは大きく頷いて言葉を続ける。
「よろしい。それじゃあ次だ、今回は犠牲者が出なかったみたいだけど、それについてはどう思うかな?個人的には、悪人を野放しにするのはよろしくないと思うんだけど」
それを聞いて、俺とアンネは顔を顔を見合わせて、思わず噴き出した。何しろ、それは、話し合いの時に蘇芳やボスから出た意見と同じだったからだ。
「……。俺たちは始めから相手を殺す気はありませんでしたよ。確かに悪人を野放しにするのは問題ですが、動きを封じることができるなら、きちんと国なりギルドなりで正式に裁かれるべきだと思いますから。まぁ、尤も仲間たちに危害が及びそうならその限りではないですけどね。
それに、今回の相手は犯罪者でなくギルドの職員。賢者の塔の特性上復活するとしても、進んで殺すのは何か違うでしょ」
「それに、賢者の塔は冒険者が復活する時、塔の外に放りだされちゃうから逃がすことにもなるし、どっちにしても殺すのは無しよね」
まぁ尤も、試験官たちの気迫がガチすぎて、途中から賢者の塔云々は頭から抜け落ちていたのだが……。苦笑する俺たちの言葉を受けてファンレイは満足そうに頷いた。
「うむ、いいだろう。それではこれが最後だ。君たちは階級を上げて何がしたい?将来、その力を使って何をする?」
今回は俺たちの代表が……という形ではないらしい、あえて俺やアンネでなく、ボスに視線が向いた。
「そうですな。正直な話、我は階級など上がらずとも良いのです。そんなものがなくとも、主殿や姉御殿について行くことはできるのですから……。ですが、もしも階級の有無で主殿のお役に立てないというのなら、それが一番我の恐れること。故に、我は主殿と共にいるために、この試練に参加したのです」
「私も、同じ。ボスと共に歩むために、私はここにいる。それに、私はジュモンジ様の付き人であるエルフたちに指南を受けた。階級があげられないというのは、彼女たちの顔に泥を塗ることでもある。私は忍びの誇りと、ボスとの未来の為に、引くことはできない」
ボスが語り、それにリナが寄り添う姿を満足そうに見たファンレイは、視線を蘇芳に移す。
「私ハ、ダーリント一緒ニイルタメ、ココ二イル」
「……他にはないのかしら?」
「ナイ。ソレイガイニ理由イル?」
蘇芳の言葉に少し頭を掻きつつ、更に視線がずれた。次はアンネだ。
「簡単なことね。私が冒険者の階級を上げるのは……というか私が死ぬまで……多分変わらない目的は魔物の研究ただ一つよ。どんな魔物がいて、どういう風に生きていて、そしてどんな特徴があるのか。見て、聞いて、触れて、戦って、ありとあらゆるアプローチを経て魔物を理解するためには、高い階級の冒険者になるのが一番手っ取り早いのよ……まあ、尤も今回のこれに関しては、グォークが賢者と話したいっていうのに乗っかったっていうのが大きいわ。階級はゆっくり上げていってもいいしね」
そこまで行ってアンネが肩をすくめると、とうとうファンレイの目線は俺へと向けられた。
……考えてみれば、俺は何で階級を上げようと思ったんだろうか。いや、直接的な原因は確実に先ほどアンネが言っていた賢者と話す機会を得るためだ。それは間違いない。実際、賢者は多忙なようだし、そうでもしなければ会えなかったというのはあるのだろう。だが、それだけなのだろうか。
何故賢者に会わなければいけないのか、冒険者になって何を成したいのか。俺はにわかに混乱し出した頭をフル回転させながら、少しづつ言葉を紡いでいった。
「……正直な話をすれば、この階級試験を知った当初は……賢者に会える機会だから、ということしか考えていなかったと思う。
だが、それだけの理由で挑んだのか、といえば、それは……違う。
きっと、俺は冒険者という職業に憧れ……憧れとも少し違うな、一番近いところで言えば……羨望、そう、俺はきっとどこまでも自由に、遠くまで行ってしまえる冒険者をうらやましく思っていたんだ」
思えば、一時はオークキングと共に殺される一歩手前まで行って、なぜ冒険者の総本山である賢者の塔へ行く気になったのか。前世の自分と重ねながらそれを考える。
俺はオークだ。出自は黒き茂みの森で、サバイバル生活だってそれなりに快適に送っていた。
だけど、心のどこかで思っていた。もっと広い世界を見たい。もっといろいろなことをしたい。
……そして、魔法を、異世界を、そこに暮らす人々との関わりを、もっと楽しみたい、と。
それを聞いて、ファンレイは照れたように頬を掻いた。
「そ、そうか。ギルドの先輩として、それほどに冒険者を好意的に見てもらっているのは誇らしいよ……。コホン、さて、それじゃあこれで試験はお終いだ。三次試験に向かうと良い」
そう言って席を立ったファンレイに続き、村長と村長に肩を貸されながら歩く副ギルドマスターが続いた、がギルドの奥に去る前に、ふと何か思いついたようにファンレイが足を止めた。
「そうだ、言い忘れていたが、次の三次試験が最終試験となる。難易度もかなり上がっているから、この村で準備をするといい。準備が出来たらもう一度ここにおいで。……もし怖気づいたなら棄権も認めてあげよう」
そう言うと今度こそファンレイたちはその場を立ち去ったのだった。
何となく気付いている人がいるか分かりませんが、1次試験も2次試験も直接的な戦闘能力を測定している試験じゃないんですよね。勿論、ナイトアントもハイドスネークも弱い魔物ではないので最低限の戦闘力は試されますが……。
ぶっちゃければ、昇級試験を受けることができる人って、過去冒険者になる前に賢者の塔を高階層まで登ってたり、依頼で乱入してきた本来の等級よりもかなり強い魔物を討伐したりといった実績ありきなので、そこまで実力に不安がある人が受けられる内容じゃないんですよね。
なのでこの試験の一番の確認ポイントって、昇級した冒険者が評価を下げずに無事に依頼を達成できるかっていう所なんですね。
一次試験で最低限の実力+(依頼の本質を見極める力)を確認
二次試験で毒といった特殊な攻撃をしてくる魔物への対処法+依頼が本当に適切なものか、(追加すれば、どれだけ最悪を想定できるか)を確認
なら、三次試験は……?これはもうちょっと先のお楽しみ。因みに私がもしこの試験を受ける冒険者だったら考えた奴を張り倒したくなる自信があります。




