オークと罠
本日も2話投稿です。
武器での強化が無理だと感じた俺たちは、またしても頭を抱えていた。
「うーん。武器をまともに使えないとなると、単純な戦力強化はかなり難しいわよ?」
確かにその通りだ。そもそも、オークが簡単に狩られるのはオークの頭が残念だからであり、俺が考えつく勝率を上げる簡単な方法は「武器を強化する」こと、「戦略を工夫する」こと、「有利な戦場を作る」ことぐらいだ。しかし、武器は上手く使えず、戦略を理解する頭もなく、有利な戦場だろうがその場に移動しなければ意味がない。
そんな条件であるため、俺にはオークの強化の仕方を思い浮かべることができないのは確かだった。
……いや、少し待て。俺の目的は、人間にオークが狩られないようにすることだ。オークの強化は難しいにしても、人間をオークに出会う前に弱らせる、なんてことは出来ないだろうか。
「……毒罠、等ハドウダロウカ」
「どういうこと?」
いぶかしげに聞いたアンネに、俺は言葉を続ける。
「オークハ、ドンナ毒モ効カナイ。オークニ会ウ前ニ毒デ弱ラセレバ、今ノオークデモ相手出来ルノデハナイカト思ッテナ。毒ニカカレバ、撤退スル人間モイルダロウシナ」
それを聞いて、アンネは少し考えた後、頷いた。
「そうね。オークに毒が効かないってのは初めて知ったけど、そう言う事なら罠を作ってもいいかもね……ねえ、その罠、生け捕りできるようにしてみない?」
「イケドリ?」
「そ。そうすれば、罠にかかった獲物を、オークが利用できるでしょ」
そう言って、アンネは後ろでせわしなく絡み合っているオークとウルフを指さした。
その様子を見て、俺は苦笑しながらも頷いたのだった。
罠を作ることが決まったのだが、継続的に作れる罠でなければ意味がないため、使えるものをいろいろと考えた。
とりあえずアンネとも確認しながらこの森で取れる毒を探した結果、ハイドスネークの毒、キールの実の毒、鉱毒の3種類の毒が恒常的に使えるようだ。
この中で、オークの主食でもあるハイドスネークが持つ毒は致死性の高い神経毒であるうえ、殺傷力が高い分警戒されており、この森に入る人間ならば血清を高確率で持っているようだ。
野生動物を食料として確保するならともかく、生け捕りができないという意味でも、人間対策としての効果対費用の面でもあまり良い罠にはならない。
また、鉱毒については毒性があるのは確かなのだが、所謂遅効性で蓄積型の毒らしく、要するに日常的に服用していた場合に被害を被るタイプの毒であり、即効性がないため罠には向かないようだ。
となると、メインで使うのはキールの実の毒ということになった。キールの実は黄色く、つるりとした大きなレモンのような見た目の木の実なのだが、この実はすさまじい麻痺効果の毒を持っている。一口かじれば5分以内に手足がしびれ始め、10分もすれば完全に立ち上がれなくなり、1時間は動けなくなるといったものだ。勿論オークには効かない。
キールの実の毒は60℃以上の高熱に弱いが、時間経過や気温程度の温度ならば問題ないようだ。それに、摂取量が僅かであっても体がしびれる時間が変わる程度の変化しかない毒らしいため、どう転んでも無駄にはならないだろう。
そう言った特性を考えつつ、俺たちは二つの罠を作成した。
一つは毒池。池にしびれ毒を流し込み、水を補給しに来た生物を麻痺させようという作戦だ。
なお、流石に全ての池を毒にすると、生態系がめちゃくちゃになることは予想できるため、ある程度小さい池一つに、お試しとしていくつかキールの実のすり身を流し込む程度にした。
アンネ曰く、「これなら、飲んだ生き物は暫く動きが鈍くなるわね!」だそうだ。
それと、もう一つは、ワイヤートラップもどきだ。足で紐を引っかけると、上空からキールの実の原液が降りかかるようにしている。
こちらはいちいち用意する必要があること、一度にとれる対象も少ないことから、オークの集落周辺で、人間が来そうなところに設置することにした。
それと、毒とは関係ないが、アンネの提案でスネアトラップも作ってみることにした。所謂獲物を吊り上げるタイプの罠だが、木の枝と蜘蛛の糸で作れるうえ、重量のあるオークなら間違って踏んでも引っかからないということから作ることになった。
そんなこんなで、とりあえず3つの罠を作成し、俺たちはまた様子を見ることにしたのだった。
グォークは共通語勉強中なので、少しずつ言葉が上達していっております。




