オークと告発
「嘘をついてる?あの試験官がか?いや、勿論情報に間違いがあったのは確かだが、決めつけるのはまだ……あ、いやもしかして、ゴーゴンヘッドか?」
流石に間違っていたらシャレにならないと反論しかけた俺だったが、俺では判断できない不確定要素があると思いなおし、アンネに聞きなおした。
「そう、ゴーゴンヘッドは確かに蛇系の魔物を無限とも言える数呼び出すけど、その中にフォーチュンバイパーは含まれていないわ。一応ゴーゴンヘッドとフォーチュンバイパーが全く別口でこの沼地に現れたって可能性はなくはないけど、確率的には今まさに雷が私達に直撃するくらいの確立ね」
それは、確かに偶然とは言い難いだろう。万に一つの偶然だったら申し訳ないが……。
そんな俺の考えに、アンネは自分の考えを続けた。
「おそらくだけど、この試験の筋書きはこうよ。あるときこの村にハイドスネークの集団が近くの沼で発生したという報告が上がった。ハイドスネークは血清があるとはいえ猛毒の蛇の魔物、村長は頭を悩ませつつも何故急にハイドスネークが増えたのか調査を始めた。
状況を整理すると、一匹の魔物の姿が浮かび上がる。フォーチュンバイパー。空飛ぶ蛇の球が見当たらない以上、該当しそうなのはこいつしかいないと考えた村長は考えた。
フォーチュンバイパーは希少価値が高い魔物。倒して素材を手に入れることが出来れば、例え村の資金に入れたとしても十分すぎるほどの値段になる。さらに言えばこれをそのまま報告すれば近くの沼がフォーチュンバイパー保護区になる可能性もある。
ならば、”何も知らなかった”という体で冒険者に討伐依頼を出そう。何、上手くいけばフォーチュンバイパーの素材が手に入るし、上手くいかなくても責任は討伐した冒険者に擦り付ければいい。
こんな感じかしら」
「なんと……」
アンネの言葉に驚愕を露わにするボス。同じく横ではリナが絶句しており、内容を大まかに予想できていた俺も二の句が継げずにいた。
「ナラ、試験官ヲタオスノガイイ」
しかし、蘇芳がそう言い出してそれどころではなくなった。
「試験官悪イヤツ、ナラ私タオス」
「ちょっと待て、少し落ち着け」
蘇芳をなだめつつ、俺は頭を回転させる、とりあえず蘇芳を納得させなければ、暴走して突撃しかねない雰囲気だったからだ。
「あいつは試験官だし、もし仮に本当の依頼だったと仮定しても村長だ。虚偽の依頼をしたという事実があっても、後ろ盾も無しに襲撃したら、こっちが犯罪者だぞ」
「そうね、だからギルドに指示を仰ぐのが良さそうなんだけど……」
それを聞いて、リナがぽつりとつぶやいた。
「アンネ様、村長とギルドが裏で関わっているというのは無いのでしょうか?」
「それが一番心配なのよ。だって、一応これ依頼って体でしょ?大量発生の原因をギルドが確認してるはずなのよ。それこそ、よっぽどずぼらなギルドか……リナの言ったみたいに悪事に加担しているような場合を除いてね」
それは、また……。八方ふさがりの様相に少し拒絶感を感じるが、他に方法が無いか考える。
「アンネ、例えば、ギルドの本部に連絡する方法はないのか?」
「……ある、わね。ギルドには必ず一つは連絡用の魔道具があるはずよ。しかも、何かあった場合にどんな状態でも対応できるように、壊れた段階で本部から誰か派遣されてくるようになってたはずよ。ただ、職員しか使用できない場所にあるはずだし、ギルド職員って元冒険者のはずだから、力技はお勧めできないけどね」
とりあえず俺たちはそこから話し合い、いくつかの作戦を立てた後ギルドに向かうことにしたのだった。
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「いらっしゃいませ」
俺たちがギルドの扉を開くと、そんな声が聞こえて来た。流石にリス・デュアリスにあったギルドを想定していたわけではないが、カウンターも一つしかなく、そこに先ほど声を出したであろう女性がいるのみだった。
「依頼のことで確認したい事がある。いいか?」
俺が受付にそういうと、受付の女性はにこりと頷いてこちらを向いた。
「ええ、なんでしょうか」
そう言った女性の目の前に、俺を押しのける勢いで、蘇芳が木箱を置いた。木箱はカウンターでガタガタと揺れている。
「あの、これは?」
「フォーチュンバイパーを見つけた」
俺のその言葉に女性は驚いたように後ずさった後、ハッとして前に顔を突き出した。
「な、何をしてるんですか、フォーチュンバイパーは保護指定種ですよ!勝手な捕獲、密猟は厳罰の対象に」
「依頼主には、ゴーゴンヘッドによるハイドスネークの大量発生と聞いている」
その言葉に、またしても意味が分からないという風に固まった受付は、段々と意味を呑み込めたのか、顔面から見る見るうちに血の気が引いて行った。
後ろではボスが警戒し、アンネも俺の肩で周囲からいきなり魔法が飛んでこないか警戒している。
「問題は、これをギルドが知ってたかどうかだ。フォーチュンバイパーはその物証として持ってきた。協力する気があるのなら、本部にすぐ連絡してほしい」
「ぎ、ぎ、ギルドマスターを呼んできます!!」
そう言って、女性は慌ててカウンターの奥の扉に消えていく。その直後。
「グォーク!」
その言葉に飛びのいた俺の鼻先に、ナイフが飛んできた。
「いやはや、すごい推理だ。だが馬鹿だな」
馬鹿、と聞いて蘇芳がいきり立つが、それを手で制しつつまだ姿が見えない、その男に何故かと問い返した。
すると、場所がばれていると思った……というか、攻撃をした時点でばれることは既定路線だったのだろう。目深にカウボーイハットのような帽子を被った男は、こちらを見るなりにやりと笑い、哄笑した。
「そりゃ、俺たちと手を組めばいいのさ!どうせ元々フォーチュンバイパーがいたなんてわからねぇ!なら知らぬ存ぜぬで通せばいいのさ!」
「それはまた、姑息な方法だな」
俺の言葉に、男は今度はさげすんだ目でこちらを見つめる。
「姑息ぅ?結構じゃねぇか。ちっと姑息になるくらいで大金が転がり込んでくるなら、俺はいくらだって姑息になるさ。まぁ、そんな風に言うお前たちを逃がすことも出来ねぇがな。野郎ども!」
男がそう言うと、ギルドのあちこちから冒険者らしい姿の者達が現れた。
「お前さんの言う所の、姑息な冒険者とギルド職員達、ざっと60人ってとこだ。さぁ、てめぇら!副ギルド長からのありがたい依頼だ!あのオーク3匹と妖精を討伐しちまえ!」
こうして、ギルド対俺たちの戦いが始まってしまったのだった。
試験官(60人)……。嘘です。
流石にそこまでの人材を一冒険者の為に割くのは非効率的なので。
実際は副ギルドマスター含め5人程度が試験官で、残りは戦闘用ゴーレムだったり、ギルドに特に協力的な賢者の塔の魔物のボランティアです。




