オークとサスティナ班
「どうやら、同じ階層の別の場所に飛ばされていたようじゃな」
ジュモンジがそう言うのを、俺たちも頷いて同意した。ここで出会ったのだからそういう事だったのだろう。
「それで、確認しておくが、ジュモンジ様達はアリの巣に転移したんだったよな。どんな感じだったんだ?」
「そうじゃのう……」
そこで、ジュモンジはこれまでのことを話し始めたのだった。
…………………
儂が転移門を潜り抜けた直後、そこには巨大なアリの姿があったのじゃ。
「あいや!?」
「何をぼけっとしとるのじゃ!さっさと加勢せい!」
見れば、サスティナ殿が竜に姿を変えて、クイーンアントに向かって拳を振っていたのじゃった。
「これ、いきなりすぎんかのう」
ぶっちゃけた話、兄者たちが受けた何度かの試験でこのようなことは初めてじゃった。最低でも村や町、或いは魔物の巣だとしても、少しの間は敵に見つからない安全地帯に出ることが基本じゃった。
とはいえ、そこはそれ、考察するよりも先にこの状態を何とかする方が先じゃ。
「ゆくぞ!世界樹の蔓!!」
儂は魔法で己の体を伸長させ、強化することでクイーンアントを拘束する。
「……?どうしたことじゃ?」
おかしい。例え巣に引きこもっていて戦闘経験も皆無なクィーンアントとはいえ、その巨体から生み出される力は相当なものじゃ。それが儂の得意技とはいえ、枝分けして弱体化した世界樹の蔓一発で動きを止めてしまうのはおかしなことである。
現状、動きを止めたクイーンアントに嬉々として拳をねじ込んでいっているサスティナ殿を見ながら、儂は思索を進める。
「……もしや」
よく見れば、以前見たクイーンアントよりずいぶん大きいように感じる。そこから示される答えは一つ。
「この巣はもう末期……クイーンの死を待つばかりの巣か。しかし、そうなると」
クイーンアントは100年以上の歳月を生きる長寿な魔物ではあるが、最後の時はやってくる。そして、より多くの子を産み落とすために歳を経るごとにだんだんと肥大化していったクイーンアントは、死してなお一つの力を行使する。
「む、いかん!サスティナ殿、少し待て!もうクイーンが死んでしまう!」
クイーンアントが死期を悟ると、子を産むための子宮に、卵の代わりに魔力のこもった蜜をため込む。そして、その状態でクイーンアントを倒してしまうと……。
それは、今現在サスティナが拳でクイーンアントを倒したことで現実のものになってしまう。
肥大化した腹が自重にこらえきれず自壊……というか破裂し、その内部にあった大量の液体が飛び散ってアリたちにかかった。
そして、液が掛かったアリたちが、まるで歓喜の声をあげるように咢を震わせ、まばゆい光にさらされていく。
そして、その結果現れたのは、大量の羽アリ、フライングアント達だった。
「逃げられてしまうぞ!サスティナ殿!ブレスを頼む!」
「!? わかったのじゃ!」
こうして、羽アリとジュモンジ達との戦いが始まったのであった。
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「と、いうわけで、フライングアントは巣立ちの姿じゃから、巣の外に移動することを優先して、攻撃に関してはほぼ無かったから戦闘面では楽なんじゃが、今回はナイトアントと戦わなければならんのでな。少しバタバタしたわい。
その後、経験則から言ってアントの新しい巣はこの巣から大分離れたところにできるだろうから今更とは思うたが、もしもこの付近でアントの巣と人里が近くにあるのなら注意喚起をせねばと思ってな」
そう言ってからからと笑うジュモンジの後ろで、サスティナとウリエラがわちゃわちゃしていた。
話を聞けば、ウリエラは今回の戦いで、弓を主体に戦ってフライングアントになっていたナイトアントの羽を撃ち抜いて地面に落として倒すという大金星を挙げたらしい。
結果、すごい勢いでサスティナに撫でまわされていた。
「うぷ……ちょ、師匠!?撫ですぎ、撫ですぎです!」
「いいのじゃ!頑張った子はほめて伸ばすのじゃ!」
照れてるのかそれとも撫でられすぎて嫌になってきているのか、ちょっと固まった笑顔を張り付けながらウリエラがサスティナから逃げ回っている。
俺たちはそれを横目で見ながら言葉を続ける。
「そっちの事情は分かったが、結局今後被害が出そうな状況なのか?分かるのなら教えてほしいんだが」
「まぁ、まず問題なかろう。クイーンが死ぬ直前まで狩りに出ておったのは、移動するまでの蓄えを確保するための部隊じゃろうし、クィーンが死んだ以上その村にもやって来んじゃろう。
近くに新たな巣ができる可能性はあるが、その可能性は本当に可能性だけのことじゃ。よそからフライングアントがやってきて巣をつくる可能性の方が高いくらいじゃな」
それを聞いて、俺たちはやっと胸をなでおろした。ここまですれば、試験としても十分だろう。
「よし、それなら、次の試験を受けるか」
そうして俺たちはサスティナたちと別れ、フレン村に出現した二次試験行きの転移門を潜ったのであった。




