オークと襲われる村
そこ、フレン村は長閑な村だった。あたりには小さな林があるばかりで、うっそうと茂った森も、恐ろしいほどに高い山もない。開拓できる肥沃な大地と、その大地に恵みをもたらす肥沃な水源があるばかりの素晴らしい自然の息づいた村だった。
しかし、そこに凶悪なワーカーアントが襲来する。村の狩人が総出で何とか一匹を討伐したものの、どうしてかその先遣隊の討伐を他のアント達に気取られ、二匹、三匹と数日おきに複数のアントが現れるようになった。
何とか狩人たちの奮戦により持ちこたえていた村だったが、そこで村人たちは絶望する。
アント達が現れたことで強化された見回りの最中に、大量のワーカーアントを引き連れた、巨大なアリの姿があったからだ。
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「……って書いてあるわね」
扉から出た俺たちは、まさに襲われている住人(に似せたマネキン)を傷つけないように村に侵入したワーカーアントを倒し、村を探索した。すると、一番大きな建物の、本来ならば村長がいるであろう大広間に、そんなことが書いてある木板が置いてあったのだ。
「まぁ、要するに、こういう設定で試験を受けるようにってことでしょうね」
なんだか前世のアトラクション味を感じてしまい、少し萎えたが、この試験の結果いかんで今後の等級が決定するし、その結果賢者にあえるかどうかも決まるので、真剣に考える必要があるだろう。
「……そうだな、とりあえずやるべきなのは偵察と、町の防衛だな。仮にナイトアントを倒せたとしても、この村を守れなければ評価は低いはずだ」
「そうね……一応、偵察の適任はリナかしら?頼める?」
リナはアンネの言葉に静かにうなずいた。なんだか進化してからリナはかなり物静かになっていた。忍者になり切っているのだろうか?と今更ながら思ったものの、偶にボスといちゃついている姿も見られるので何か問題があればボスの方から何か言ってくるだろう。
「あとはここの防衛のことだが、それを考える前に……アンネ、ワーカーアントやナイトアントの特徴を教えてくれ」
「オーケーしっかり聞きなさい」
アンネの口から、アント系の魔物の特徴が語られる。
まずアント系の魔物は大きく分けて8種類に分類される。
アントクロウラ―、ワーカーアント、マジックアント、ポーションアント、ナイトアント、ジェネラルアント、フライングアント、そして、クイーンアントの8種だ。
そして、アント系の幼生体であるアントクロウラ―、アントの女王種であるクイーンアントは基本的に巣から出てこず、巣立ちの時にしか姿を見せないフライングアントも、現状とはそぐわないため考慮から外した。
残ったのは5種。特に多いのは、一般的な能力をしたワーカーアントだと予想された。
ワーカーアントはアント系における働きアリ的なポジションであり、基本的に屋外で戦闘をするのはこの個体である。体高は1mほどだが、全長であれば3m近くになることもある大型の魔物で、装甲もそこそこ固く、何よりも集団行動を得意とすることが厄介な魔物だ。
とはいえ、その強さはオーク級下位。本能と反射のみで動くため、基本的にはくみしやすい相手であり、黒き茂みの森でレベル上げをしていた時でさえ容易に討伐できていたことからも、俺たちの敵ではないことは明白だ。
マジックアントやポーションアントに関しては、少し注意だ。
マジックアントは魔法を使えるアントであり、大きさや見た目はそこまでワーカーアントと変わらず、彼らに交じって土魔法を使って足止めや遠距離攻撃をしてくるようだ。
ポーションアントは大きさこそワーカーアントと同じだが、その腹の部分がため込んだポーションで不自然に膨らんでおり、そのポーションを使って味方の回復を担うらしい。
そして、尤も警戒すべきはナイトアントとジェネラルアント……なのだが、基本的にワーカーアント達の群れに指揮官クラスの進化個体は1体いればいい方とのことなので、試練の内容から考えるとナイトアントに率いられているのだろう。
ナイトアントの方が下位の進化個体なので少しほっとするところである。
「ってことなわけだけど、ここで問題が起こるわけよ」
その問題と言うのが話し合い当初に出たこの村の防衛に関することだ。
「今回の依頼……という体の試験は、防衛が重視されてるうえに相手は確実に複数を想定していることが予想されるわ。最終目標がナイトアントの討伐な以上こちらの戦力を二手に分けるか、村をガッチガチに罠で固めるか……なんだけど、どれだけ時間があるか分からない以上戦力を分けるのが現実的よ」
「となると、俺のチームとアンネのチームに分かれるか?……蘇芳とリナは多分それぞれ俺とボスと同行したがるだろうな」
俺の腕に抱き付いている蘇芳と、偵察で現在は姿が無いリナを思い浮かべながら、俺は割り振りを考えた。
「そうですな。話によればナイトアントはオーガ級とのこと、それを考えれば、我らにはあまり脅威とはなりえませんな」
「だが、万が一ジェネラルアントもいた場合のことを考えなければいけないと思う。試験内容的にはほぼ確実にナイトアントだろうが、そういう本来知りえない情報を元にすると、足元をすくわれそうな気がする」
ボスと俺が意見を言い合っていると、リナが再び姿を見せた。
「グォーク、あなた。敵を見つけた。敵はこの村の西から来ていて、数は20匹。一番多いのが15、腹が膨れているのが4、他のよりも一回り大きいのが1。ただし、一度土が隆起して攻撃を貰いかけた。一回り大きいのは何もしていないから別種がどこかから狙撃を狙ってるのかも。それと、周囲には他の敵影はなし。他の方角はアリがいた痕跡が無くて軽く見て回っただけだから、一応注意する必要があるかも」
俺たちはリナのその報告を聞いて、更に計画を詰めていったのだった。
フライングアントに関しては実は元々フライングアントとして生まれたり、特定のアントから進化するわけではなく、アント系の魔物が巣立ちをするときに一時的に進化する種族だったりする。
なので、フライングアントとひとくくりにされているけれど、実際にはフライング(ワーカー)アントとかフライング(ナイト)アントとかで細分化されてる。
アンネちゃんが十把一からげにしたのは、どのアントでも行動が、より良い巣を求めて飛ぶだけで攻撃とかをほとんどしないから。




