オークとモグラの処理
俺が巨大モグラの攻撃を必死にさばいていると、サスティナが突然急接近してきて巨大モグラに襲い掛かった。
「……ふぅ、助かったな」
正直、サスティナが出てきたことに少し安堵の気持ちが湧いてくる。何しろ、避けるのに必死で、打開策を考える余裕も無かったからだ。
ふとあたりを見渡すと、周囲は俺たちが戦ってきた時とは違った様相になっていて、幾重にも木の枝に取り囲まれていて、ジュモンジ老の枝葉に乗っていたエルフたちは姿が見えなくなっていた。
「……そりゃ、周囲の警戒も必要か」
よく考えれば、この騒ぎで他の魔物が便乗して乗り込んで来たらモグラどころの騒ぎではなくなる可能性もある。そう言った事も考えて周囲の警戒に移ってくれたのだろう。
護衛として見れば何とも情けないような話ではあるが、その期待の分も頑張らなければ、と気持ちを新たに巨大モグラを見る……。直前に、サスティナの大音声が響き渡った。
「この害獣風情が!我がブレスにて滅びるがよい!」
思わず見れば、サスティナが大きく息を吸い、何かを吐き出そうとしていた。俺は慌てて巨大モグラとサスティナの体を足掛かりに、サスティナの視界に入るために上へ上へと飛び移った。俺はサスティナの口から放たれる攻撃を見たことは無いが、あの形から放出される物といったら、炎かビームかと相場は決まっている。そんなものを放たれれば、モグラと一緒にジュモンジや警戒しているエルフまで焼けてしまうのは確実だ。場合によってはリナやウリエラだって被害にあうかもしれない。
ある程度飛び上がったところで、俺は大声でサスティナに向けて声をかける。
「馬鹿野郎!止めろ!」
幸い、サスティナに声は届いたらしく、巨大な炎の柱となったブレスは、地上ではなく空へと吐きかけられた。
しかし、どうやらその隙は巨大モグラに突かれてしまったらしい。恐らくは苦悶の表情を浮かべたサスティナが、何かを貯め込むように巨大モグラを睨みつける。
「この、モグラ風情が!!私に傷をつけたな!許さんぞ!!」
もはや取り繕う事すらできないのか、いつもののじゃ口調すら剥がれ落ちて激高するサスティナの頬を、俺はそこそこの力で引っぱたいた。
「落ち着け、サスティナ!」
「グォーク、貴様!」
いかにサスティナとはいえ、ドラゴンから怒りを向けられるのは非常に心臓に悪いが、こっちだって竜帝様の怒りを受け止めた身だ。怯まずにすかさず言葉を続ける。
「こんなことで激昂するのがえらい竜なのか?サスティナ!敵を間違えるな!だが、ブレスはナシだ!えらい竜様なら余裕だよな?」
時間をかけると巨大モグラに優位になってしまうので、かなり直截な言葉になってしまったが、サスティナも、思うことがあったらしい。一度後ろを振り向くと、俺に向かったにやりと不敵に笑い、背中に力を込めた。
「……ふん、安い挑発じゃが、良かろう、我が偉大さをとくと見るがよい!」
そして、力強く羽ばたくと、少しづつではあるが、サスティナと巨大モグラが宙を浮き始める。
慌てて騒ぎ出す巨大モグラを見て、俺はやっと対策を考える余裕ができた。
そのタイミングで、アンネの声が脳内に響き渡る。
”グォーク!確定じゃないけど、もしかしたらあいつの弱点は鼻かもしれないわ!狙えないかしら!”
アンネの声を聞き、俺は今までの戦いを思い浮かべる。
最初のアンネの水弾……鼻に直撃していた。
俺の炎剣での地面侵入を妨害した時……熱された地面から顔を、鼻先を上げていた。
アンネの麻痺魔法の時……鼻に当たっていた。
確かに戦い中の有効打は全て鼻に直撃しているようだ。そして、同時に前世でのモグラの生態もぼんやりと思い出す。
確かモグラは目があまりよくなく、鼻が周囲の様子を知るための重要な機関になっていたはずだ。考えれば、両眼を攻撃したのにその後も攻撃に対応していたのは、眼が情報収集に重要でない器官だったからだろう。
俺はあたりを見据え、ボスと蘇芳の姿を見据えた。幸い、近くにいたので、俺は大声で二人に、そしてアンネに伝える。
「ボス!特大の氷で足止めだ!アンネは引き続き足止めを頼む!他はサスティナが離脱したら総攻撃するぞ!」
そう言って、俺も巨大モグラが落ちてくるタイミングをうかがう。
そして、落下、直後にボスの氷が走り、アンネの水魔法……おそらく睡眠の魔法が混じった魔法が鼻先に炸裂し、直後その鼻をサスティナが食いちぎった。
あいつは魔法無効ではないが、池一つ分の毒水を飲んでも完全には麻痺にならなかったくらいだから大丈夫だろう。
案の定急上昇したサスティナを待ち、俺たちも総攻撃を開始した。
どうやら、アンネ達の推測は正しかったらしく、今までは避けらていた攻撃も容易に当たるし、明らかにダメージを受けている様子だった。そして、幾度もの攻撃を食らい、巨大モグラは動かなくなる。
俺は巨大モグラの死亡を確認してから、アンネ達の所に向かう。横目でサスティナを見るとウリエラと話しているが、まぁ、詳しい話をするのは後でいいだろう。
ひとまず俺は、アンネとボスに声をかける。
「アンネ、助かった、それにボスもあの攻撃は良かったぞ」
「あぁ、鼻が弱点って考えたの、私じゃなくてリナなのよ。後ろから注意深く見てたら分かったみたいよ」
それを聞いて、ボスもうんうんと頷いた。
「我が妻は流石ですな」
そんな言葉に、リナの顔が赤くなる。
「いや、私はそうかなって思っただけで……」
「いや、でも、俺たちが全く気付いてなかったことを気付いたのは確かだからな。もしかしたら、リナさんには索敵や相手の情報を得るような立ち回りの才能があるのかもしれない。もしリナさんがいいなら、そう言った技術……そうだな、職業的にはシーフってことになるのか?そう言った事を本格的に学ぶのもいいかもしれないな」
そう言うと、リナは驚いた顔をしてアワアワしていたが、ボスの役に立つのならと最後にはにこりと頷いたのだった。
今回はサスティナ視点とグォーク視点で分けてみた。




