オークと赤い竜
「おうおう、久しぶりじゃのぅ!ペンネ!それと……賢いオーク!先ほどは助かったぞ!」
「私はアンネなんだけど」
「俺はグォークだ」
「……我はボスと申す」
呆れたように呟くアンネの横で、俺も疲れたように目の前の人の姿になったドラゴン幼女と黒髪の少女……おそらく少女を見つめた。
なにしろ、ここは賢者の塔麓の村だ。殆どの実力者は塔の中にいるとはいえ、休憩していたり来たばかりでまだ塔に挑む準備をしていて村に残っていてここにいた実力者も相応にいる。
非戦闘員もいるので、それらの退避などを考えれば全ての冒険者と一度に敵対するわけではないが、あのままだと数の暴力に押し込まれていた可能性もあった。特にサスティナがウリエラと言われた少女を身を挺して守っていたので余計にだ。
以前集落を襲撃してきた相手だとはいえ、一応悪意を持っているわけではないと容易に想像できる性格である彼女をそのまま見捨てることも出来ず、慌てて冒険者達を止めた。その結果、攻撃こそいったん止んだものの、俺たちがサスティナとグルで、賢者の塔を襲撃に来たんじゃないかという妙な憶測が流れてピリピリした空気になり、そんなややこしい状況になったのを見かねたリストの口添えで、やっとこさ冒険者達に矛を収めてもらい、現在に至っている。
現状は俺たちが町には言ってきた時とは違い、警戒心MAXな冒険者の皆さんがきょろきょろと俺たちを見定めるように視線を向けている。正直とても居心地が悪い。
「うむ、アンネにグォークに、ボスじゃな!覚えたぞ!ところで、お主らは何をしておるんじゃ?」
「俺たちは、アンネの里帰りに付き合ってたんだよ。色ボケド……」
その瞬間、俺の目の前にサスティナの顔があった。どうやら、一瞬で目の前まで近づき、俺に詰め寄ったようだ。
”見てわからんか?今、わらわの伴侶候補が隣におるんじゃぞ!滅多なことは言わんでもらおうか”
まさにドラゴンといった凄みと威圧感でそう言ったサスティナは、その次の瞬間元の場所に戻り、わざとらしく俺の肩に虫がいたので退治したなどと呟き、居住まいを正す。
「……あーっと。ウリエラさん、だったか……。ウリエラさんたちは何でここに?」
俺は先ほどの件から、なるべくサスティナに関わらないよう……極力ウリエラさんの方を見て話しかけた。
「えっと、サスティナ様が『わらわの弟子ならば、優れた戦士になり、冒険者として大成すべし』と言われまして『どうせなるのなら、ギルドの総本山で』と」
「……いや、ここでは冒険者登録できないらしいぞ……」
俺の言葉に、サスティナが『マジで!?』みたいな顔を一瞬し……それをすぐさま消して同じく驚いた顔をしているウリエラさんに向かってとぼけるように口を開いた。
「おぉ、スマンの、説明不足じゃった。わらわはここでギルドに登録しようとしたわけではなくての、あー。そうじゃ。ギルドの総本山であるこの賢者の塔、冒険者の最終目標を見てからの、その、別の場所で冒険者になろうと思っての?」
そんな、いかにもとってつけたような話し方のサスティナの様子に、俺たち含め皆がサスティナの動揺を感じ取り、周囲の警戒していた冒険者達の間にも”ああ、この子はちょっと頭が残念な子なのか”みたいなダメな子を見守る様な弛緩した空気が漂い始める中、ウリエラさんは顔を上げた。
「流石師匠様です!ここが、冒険者の最終目標!師匠の弟子として、ここを登り切れるくらい強くなれってことですね!」
「ん、まあ、そう言う事じゃ!」
ない胸を張るサスティナとそれを誉めそやすウリエラに、周囲の生暖かい視線が突き刺さる中、その肝心のサスティナが俺に向かって歩いてきた。
「ウリエラよ。このオークとわらわは、旧知の仲、少し込み入った話をしてくる故、そこの妖精としばし歓談しておれ」
そう言うと、俺はサスティナに引き連れられ、物陰に行き、その瞬間彼女が動揺し出した。
「どどどどどどうしよう、わらわ、冒険者になる方法とか知らないんだけど!?ここに来たら、冒険者の総本山っていうくらいだから、てっきりここに来てすぐに、わらわの戦闘能力に気付いたギルドの連中が勧誘に来ると思ったんだけど!?ねえ、ねえ、どうしよう!?」
「どうどう、落ち着け落ち着け。そんなに動揺してると、お弟子さんに気付かれるぞ」
それを聞いて、サスティナは慌てて手を抑えるものの、代わりに涙がこぼれ落ちる。この竜、ガチすぎだろ。
とはいえ、もとはといえば俺が提案したことで師弟関係になったのだろうし、見知らぬ仲でもない。それに、これは俺たちにとってもいい方向に持っていける話だ。だから、俺はサスティナにこう提案したのだった。
「なぁサスティナ、俺たちと一緒に、リス・デュアリスの王都に行かないか?」
サスティナちゃんは、人間の集落とかには殆ど立ち寄らなかったため、一般常識は主人公以下の知識量しかありません。
一方で、狩りや漁?は遊び半分でかなりやり込んでいるため、自然の知識や魔物の知識は相応にあります。
遊び半分なので、狩りごたえの無い人間にはあんまり興味が無かった&賢者の庇護する存在に手を出すと竜帝様含めヤバい方たちが襲撃しに来る可能性があると聞いているため何となく避けていた感じです。




