オークと真紅の竜
本日、今話以前にキャラクター紹介と賢者の塔紹介を投稿しています。
「……これ、予想以上に便利だな」
俺たちは猫獣人のエマイからもらった鬼道転移符を使って、現在賢者の塔の麓に戻っていた。
エマイが帰還や到達階層への行き来に使えると言っていたが、魔力の消費も無しで、しかも一瞬ではあるが光のドームが出現していた。
アンネがその際術式を調べていたのだが、移動しても安全な場所かの自動検知、移動直後の一秒ほどの無敵時間(ドーム状バリア)、装備を含めた物品の自動輸送(所有権の存在する者ならば手に持っていなくても転送可。しかも、その時転移した時の階層まで記録と、アンネ曰くオーバースペックのオンパレードらしい。アンネの知る限り、それらどれか一つでも付与しようとするなら一流の魔術師がかなり高価な素材を湯水のごとく注いでやっと付与できるものらしい。しかも、この転移符とは違い、膨大な魔力を注ぐような魔道具になるだろうとのことだ。
「まぁ、これ、汎用化させるのは危険すぎるってことで賢者様が権利独占してるって噂がある代物だし、大きさや能力無視して転移できる優れものらしいしね」
アンネの言葉を聞きながらまじまじと鬼道転移符を見ていると、少し寂しそうにリストが声をかけて来た。
「それでは、これで契約終了ということでよろしいでしょうか?まさか、竜帝様とお話しできるとは思いませんでした。貴重な経験でした」
リストはそう言ってほほ笑んだ。長いようで短い間だったが、賢者の塔という高難易度の魔境で過ごした濃密な時間を共にした仲間として、別れるのは少し寂しいものがあるが、彼は塔の案内人だ。連れまわすわけにはいかない。
「こちらこそありがとう。また、塔に来たら声をかけるよ」
そう言うと、リストは微笑み、俺たちに聞き返してきた。
「そう言えば、これからどうされるんですか?竜帝様の言う通り、冒険者に?」
それを聞いて、俺は大きく頷く。
「俺は冒険者になってもいいと思っている。尤も、アンネがオークの研究にいち早く戻りたいっていうならそれもありだとは思うけれどな」
「いや、私も流石にそんなこと言い出さないわよ?」
俺の言葉にアンネがそう突っ込んだ。
「そもそも、私は賢者の塔の住人。知識の探求者よ。勿論一から十まで誰かの知識に頼ろうとは思わないけれど、有効な知識を得ようとするのを止めるわけないじゃない」
「確かに、我も考えることができるようになってから、より主殿の役に立てるようになりましたからな……あ、我はお二人の意見に異論は有りませぬ……強いて言うなれば、この賢者の塔に入る時の騒動を考えると、どこで冒険者になれば良いか悩ましいところですな」
アンネとボスの意見を聞き、やはり冒険者になる方向で行こうと思った俺だが、ボスの言う通り、どこで冒険者になるのか……というか、どうしたら冒険者になれるのかが謎だった。
「リスト……一応確認するがこの賢者の塔で冒険者になることとかは……」
「すみません。ここは確かに賢者の塔ギルドの総本山なのですが、私の故郷である中央村を除けば滞在者はほぼ既に冒険者だった方たちばかりでして……あえて登録する必要性が無いと言いますか」
どうやらここでは登録はできないようだ。少し残念そうな顔をする俺に、リストは慌てて言葉を繋げた。
「そうですね、もし冒険者になりたいのならば、リス・デュアリス神聖王国の王都に行くと良いでしょう。あそこは名目上賢者の塔の管理国になっていますし、賢者の影響力もかなり強い国ですから……それに軍事力も結構なものですから、オークのあなた方も受け入れてくれるかもしれません」
それを聞いて、疑問に思ったのだが、どうやらこの世界では魔物とされている存在は大都市ほどその存在を許されるのだとか。……許されるというか、対処する余裕がある、といった方が正しいだろうか。かなり極端に例えれば、殺人鬼かもしれない人物が現れた時、武力を持っていればそいつを拘束したり、そうでなくても取り囲んで対応すればいいので生かしたり話を聞いたりする余裕があるが、武力が極端に少ない場合は、一か八かをかけて最初に奇襲をかけるか、一族郎党逃げ出すくらいしか方法が無いという事らしい。納得してしまった。
「尤も、知性のあるオークというと、オークキングやその部下のオークメイジくらいしか確認されていませんし、それらはすべからく人類に対して敵対的……というか本能に任せた身勝手な存在とされていますから、ひと悶着あることは確かでしょうけど……」
「いや、でも目標が定まるだけでもありがたいよ」
そう言って、俺たちはリストと別れることになった。一応情報収集した結果、リス・デュアリスの王都に着くためにはいくつかの方法があることが分かった。
まず1つ目、リスデュアリス王都の冒険者ギルド直通の転移門を使う事。しかしこれは、スラじいのところにあった転移門と同じタイプの新型転移門らしく俺たちは使えない。
2つ目、王都行きの船を利用すること。これは塔を進んで得た素材の売却金を充てれば十分使用できる……が、船着き場で交渉したところ、船員が怯える、到着後にいざこざが起こる等の理由から、船旅中は特別製の頑丈な鉄扉の付いた客室……迂遠な言い方をしていたが、まあ要は牢屋に当たる船室に収容され、船外に出る時も手かせや足かせを付けた状態で船を下りることを条件にされた。
これは他の乗客や下船した際の近隣住民に対するある種のパフォーマンスであり、乗船中は乗船料にふさわしい食事や船室の快適さを約束すると言われたが、流石にそう言った扱いをされるのは心外なため、他の手段がない時の最終手段にしたいところだ。
そして、3つ目が今まで来た道を戻り、スラ爺のところの転移門をさかのぼって陸路でリス・デュアリスの王都に向かうという方法だ。今のところ切迫した時間制限があるわけではないので最有力候補である。
茸人は基本的に俺たちに従うスタンス、というか基本道具袋の中に入っていることにしたようなので、アンネとボスにそう提案した所、ボスは精霊郷を通る案に賛同し、アンネは渋面を作った後に渋々頷いた。
「そうね……流石にあんたたちを檻に閉じ込めて猛獣扱いで輸送っていうのは……流石にないわね。……ないわよね?」
「我は、主殿や姉御殿がそうしろと言うのなら従いますが……」
「……まぁ、アンネがどうしても、というなら船でもいいぞ。話しかけた船員も、待遇に関して移動範囲以外は他の乗客と同じものを用意すると明言してくれたしな」
それを聞いて、アンネは俺たちを凝視して、興味を無くしたようにそっぽを向いた。
「いいわよ。そこまでしなくても。問題は時間だけなんだから」
そう言うアンネの顔はよく見ると落胆を隠しきれていないものの……流石に長期間の船旅で牢生活は気が滅入りそうなのでアンネの譲歩に乗っかることにしよう。
目標も定まったのでさて、準備をしようと俺たちが顔を上げると……何故だか周囲の人々が上空を見ながらざわついていた。俺たちもその方向を見つめ……そして赤い巨体を見つけることとなった。。
優美な翼、つややかな鱗、そして、その真紅の体。
「……なぁ、アンネ。なんだか俺、あいつに見覚えがある気がするんだけど」
「偶然ね、私もよ」
「我も……、見覚えがありますな」
既に豪風と言えるほどの風を巻き起こし、注目を集めるそのドラゴンは門の入口を飛び越して、その先の大広間に降り立った。
「なっはっは~!ウリエラよ!ここが賢者の塔じゃ!ここでわらわたちの冒険者としての第一歩が始まるのじゃぞ!!……って、おい、なんじゃお主らは、何を見ておる?そうか、わらわを打ち倒そうというのじゃな!よろしい!かかってくるがよい、このノーブルドラゴンのサスティナ、如何様なる攻撃にでもっ、ちょっとまて、投擲武器は止めろ!こちらにはウリエラがいるのじゃぞ!当たったらどうする!今おろすゆえ、ええい!やめんか」
誰か背中に乗せていたのか、背中を庇いつつたじろぐサスティナを見て、俺たちはとりあえず現場に向かうことにしたのだった。
☆鬼道転移符 アイテム レア度 ノーマル
賢者の塔及び周囲10mでのみ使える特殊なアイテム。機能としては装備品及び所持品を記憶する機能、記憶したアイテムを転移させる機能。到達階層を記録する機能。賢者の塔の転移機能を任意発動させる機能。転移時に防御壁を作る機能。
まぁ、要するに賢者の塔の力を利用して、
1、致命傷を受けた時に所持品を自動的に持ち主の場所に転移させる機能
2、賢者の塔の転移機能を任意のタイミングで発動させ、到達階層以下の階層に移動する機能
3、転移直後の不意打ちを防ぐ機能
の三つ。なお、グォーク達が転移できてるので、賢者の塔の転移はオークの魔法無効を無視してる模様。
なお、船に関しては他の乗客が不安がるのが一番の原因。また、一般的に人権を付与する手続きもいくつかの国の王都や主要都市で行われるため、人権を付与されていない種族の扱いとして手かせ足かせをされることはよくあること。ただし、この際使われる手かせや足かせは魔物である彼らにおいてはたやすく破壊できる程度の耐久性の物が採用されており、簡単に言えば戦闘能力が無い者に「拘束されているから安心だろう」という思いと拘束されている本人の「このような扱いをされてもこらえることができる程度の自制心がある」という証明としての側面がある。




