オークと迷宮踏破
賢者の塔12階層より先は、沼地が広がっている階層だ。アンネとリストの話によれば、所謂ボスが登場した次の階から環境がガラッと変わるようになっているそうで、基本的には1階層からの森、12階層からの沼地の他にも、雪原、山岳、清流、火山、平原等があるらしい。場所によっては連続で建築物的な造形の場所に出ることもあるらしい。
とはいえ、これは実はあることを示唆している……12層から大凡500層くらいまでは強さがさほど変化しないらしいのだ。
正確に言えば各環境をブロックとして見ればそれぞれの中では、少しづつ強い魔物は増加しているのだが、だからと言って適性住環境がそのまま強さの指標になる、なんてことは殆どない。
ゲームなんかだと主人公が進む進行ルートに合わせて敵の強さが全体的に上がっていく、ということはあるし、実際弱い魔物が淘汰されることでその一帯に強い魔物しかいなくなるようなことになることもあるらしいが、だからと言って上の階層に上がれるようになった魔物たちが、弱い時は沼地や平原に暮らしていて、強くなっていくにつれて雪原や山岳地帯、水中や溶岩の環境に適応する……なんてことはないわけで。
要するに、塔の魔物たちは強くなろうとしているため、同じタイプの環境内なら確実にそこにいる魔物の能力が上がって行くが、他の環境に変わった途端出てくる魔物が弱くなるという現象が起こるらしい。そのため、沼地における大鯰といった、注意していれば回避可能な大物を除けば、生息している魔物は大凡オーク級でもランクの低めの相手くらいに絞られているようだ。
尤も、魔物との戦闘を解決しても、複数の環境に対応し戦闘をスムーズに進めないといけないことや、回避できる大物の動き出す条件がだんだんややこしくなってくる等、魔物の強さがあまり変わらないという事実から予想できるものよりは難易度が高いようだが。
。
そして、それらの問題がある階層を、俺たちは順調に踏破していったのだった。精霊郷の時と原理は同じで、地形による不利はオークの体力を跳ね除けるほどに力を発揮せず、更に塔の専門家であるリストやアンネの助言を受けながらの進行はかなりスムーズに進んだのだった。
問題となったのは宿泊だが、それもボスと俺、それに、殆ど睡眠を必要としない茸人を見張りに立てることで何とかなった。
そして……。
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「あっついわね」
俺たちは、階層にして60階層。 そう、竜帝様の居る火山地帯へと到着したのだった。因みにここまでで、最初のベビードラゴン含め5匹のボスを倒し、同じ回数環境が大きく変化している。
「まぁ、これほどに溶岩が流れていては仕方ありますまい。それよりも、ここからどうするのですかな?野営をするなら、テントを張りますが」
ボスの言葉にアンネは首を振った。本来ならば竜帝様はこの階層に必要以上に長く滞在した者に対して派遣されるペナルティ。要するにここに常駐しているわけではない。そのため、竜帝様を呼び出すためにはここに暫く滞在する必要がある……と思っていたのだが、アンネの様子だと少し違うようだ。
「こんな熱いところで待つのも面倒だし、階層管理者を探しましょ」
「階層管理者っていうと……こいつと会った階層にいたエリアさんとスマッシュさんみたいなやつらのことか」
そう言って、俺は肩に乗った茸人に指を向ける。
「そうそう、階層管理者は裏の魔物達とも連携を取ってるはずだから、私が声をかければ呼んでくれるはず」
アンネのその言葉に、リストは顎をさすりながら俺たちに向いた。
「確か、ここの管理者はブルーサラマンドラのイリアさんでしたね。確実とは言いませんが、ある程度の場所は分かりますから、とりあえずそこに行きましょうか」
そう言ってリストについて行くと、火山の中でもひときわ大きい火口に案内された。そこは現在進行形でマグマが煮え立っており、その中央に青い髪をした女性がまるで入浴でもするかのようにくつろいでいた。
「イリアさーん!」
「ん?その声はリスト坊かい?」
そう言ってザバリと溶岩をかき分けて女性がこちらへと近づいてきた。もちろん素っ裸で。
だが、俺たちが感じたのは生理的な嫌悪感……というか危機感だった。
熱い。彼女が近づいてきただけでただでさえ熱かった体感温度が明らかに上昇する。
「いつも言ってますが、ストップ、ストップしてください!今のまま近づかれると、溶岩熱で私達死に戻りますから!」
「お、おぉ、悪かったね、じゃあ、ここで話した方がいいか」
そう言い、足を止めた彼女に、俺たちは揃ってため息を吐いた。
「それで、何の様だい?」
それを聞いて、アンネが竜帝に用があることを伝えると、彼女が浮足立ったような雰囲気でこちらに視線を向ける。
「りゅ、竜帝様?そ、それって、もしかして、竜帝様を呼んでもいいってことか?」
「いや、呼んでいいかっていうのは、正直よくわからないけど、でも、多分竜のじーじも2000階以上登って来いってわけじゃないと思うし……」
それを聞いて、イリアが眼をキラキラと輝かせた。
「その言い方!そうか!あんたがアンネちゃんか!」
そう言うと、イリアはウキウキした様子で念話をどこかにし始めた。
「ん……どうしたんでしょうか」
「多分、竜帝様から、なんか聞いていたんじゃないか?最短で会うためにはここで竜帝様を呼ぶのが一番早くて、それを竜帝様も理解してるなら、俺たちが話しかけるだろう魔物に声をかけるのはむしろ当然だと思うぞ」
ボスの疑問に俺が答えていると、イリアさんの話が終わったらしい。こちらに向かって話しかけようとした瞬間……。
空中に視界いっぱいの魔法陣が出現した。
……いくら早く会いたいからって、流石に迅速すぎると思います竜帝様。
ということで道中はバッサリカット。
10階層までのあれこれは何だったのかという。
とはいえ、作中で語られる通り、敵の強さ的には主人公たちに勝てる相手はほぼ出てこないし、地形効果も有効なのがアンネと茸人という運搬可能な人材なので、ほぼ無意味だったり。
要は地形効果だけ変えて10階層までの工程の焼き直ししたと思ってください。
なお、普通の冒険者の場合、沼地での過ごし方や豪雨の続く場所、水の無い砂漠地帯、或いはうっそうと茂っていつどこで襲われるか分からない密林等々いろいろな場所を攻略していかないといけないため、一気に登らずにボスを倒すごとに装備を入れ替えるようにしている人たちが殆どです。
☆イリア 種族 ブルーサラマンドラマザー マンティコア級
非常に強力なサラマンドラの上位種。本来ならば、いくら管理者とはいえ60階層にいるべき存在ではない。というか、ぶっちゃけ前任のペナルティ魔物だったりする。
本来の強さはサスティナと同程度であるが、火山や溶岩地帯にいる場合は溶岩のエネルギーを吸収し、その熱気を身に纏ったり、溶岩そのものを操ったりすることができ、サスティナ等ノーブルドラゴン複数体と互角となるほどの実力を有する。
溶岩浴をしていない場合は体温を気温程度まで下げることができるが、意識していないと溶岩と同程度の体温をしているため、戦うだけで体が焼けただれる厄介な魔物であるため、専門家以外は遭遇を避けるべき相手でといえます。




