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オークと地震の主

本日2話目です

「うおっと……おとなしく……は無理にしても、もうちょっと落ち着いたらどうだ?」


 俺はそう言いながら足元の大鯰をドシドシと蹴りつける。現在俺は大鯰の上。安定こそしないものの、俺を捕食しようとする二匹の大鯰から難を逃れるには絶好の場所で立ちまわっていた。


 大鯰は、そのデカい図体の割に、連携をある程度とる魔物だったらしく、俺が一匹の大鯰を足場にした時点で、もう一匹は様子を伺いながら周りをまわるだけで、俺の乗っている大鯰にのしかかったり、魔法を乱打したりして攻撃してくることは無かった。

 一方、俺が足場にしている方の大鯰は、身体を必死に跳ねさせたり、ぐるりと体を回転させようとしたりして俺を振り落とそうとしている。


 その間俺は曲芸のように大鯰の体を動き回り、時に跳ねたりしながら大鯰の体に留まった。

 その間、足場にするために剣を突き刺したりして分かったことなのだが、どうやら大鯰本来の体の硬さはそれほどでもないようだ。体が泥でコーティングされており、この階層の泥が様々な攻撃を防いでいるようだ。体に武器や魔法を到達させることが出来れば、有効打を与えることは十分可能だろう。


 尤も、体表が露わになった時点で大鯰はすぐに泥の中に潜り込むし、そうでなくても頻繁に泥の中に入り込むうえ、纏っている泥の量はかなり多いため、実際に泥の鎧を剥ぎ取ろうとするとかなりの重労働になるだろうが。



 そして、そんな大立ち回りをしていると、光の球が空に打ち上げられた。アンネからの合図だ。

 俺は、すぐに大鯰から飛び降り、光の上がった場所へと向かう。その先は何もなく、やや陸地が多いと思えるようなただの広場であった。しかし、そこに目的の物はあった。巨大で、重く、そして、涙型の下部分を若干平面に削ったような形をした岩だった。


「さぁ、斬撃も魔法も効果なかったが、これはどうかな?」


 そう言って、再び追いかけてきていた大鯰の一匹の頭に、その岩を思い切りたたき込んだ。


「……!」


 そして、その瞬間から、大鯰の動きが止まる。


「……やった本人が言うのもなんだが、これが正解なのかよ」


 動きを封じられた仲間を見て、慌てて踵を返した大鯰を見ながらアンネと合流しようとしてあたりを見回すと……。直後、辺り一帯が凍り付いた。


「主殿!姉御殿!無事であるか?」


 そして、ボスとリストが姿を現した。


「まさか、沼全体を凍らせて魔物たちの動きを封じるなんて、こんな攻略した人は初めてですよ」


 そう言うリストを置いておいて、ボスが大鯰に剣を突き立てた。本来なら脅威となる大地属性の魔法攻撃も、巨体を生かした攻撃も、泥中深くまで凍結して動くことも動かすこともままならない大鯰にはどうすることもできなかったようだ。幾度目かの攻撃を受けて、大鯰はピクリとも動かなくなった。


 さっきまでの苦労は何だったのかと思わなくもないが、助けに来てくれたボスにそれを言うのは違うだろうし、胸の奥にしまっておく。


 もう一匹の大鯰にも剣が突き立てられ、安全が確保できたところで、再び4人……茸人合わせ5人が集まった。

 そして、俺はアンネに頭を下げた。


「アンネ、それにボス。済まなかった」


「ちょ、グォーク!?」


「頭をお上げください主殿」


 二人が慌てるが、俺は頭を下げたまま言葉を続ける。


「勝手に素材を換金したこと、換金した資金を、自分の分だけとはいえ話し合いも無しに使った事、それに、旅の予定が大幅に制限される予定を相談なしに入れてしまったことも今考えれば不誠実だった。本当に済まない」


 それを聞いて、アンネもぽつりと言葉を発した。


「わ、私も、勝手に飛び出して……悪かったわよ。でも、本当に父さんの引き留めるのがしつこくって……それに、あんたたちが私がここに残ってもいいって言ってたって聞いたから」


 ……どうやらあの親父さんは俺の言葉を曲解して伝えたらしい。なんだか少しイラッとしてきた。


 そうこうしていると、居心地悪そうにしていたボスが、絞り出すように俺たちに話かけて来る。


「主殿、姉御殿、我も、我のつまらぬ意地で心配させたこと、謝らなければなりませぬ」


 そう言ってボスが言うには、彼と鬼のメイド、フィーリエが一緒にしていたのは修行だったのだという。何でも、初日の食事会の時に抜けた時の手合わせで惨敗し、それ以降技術を盗むために模擬戦をしてもらったり、訓練をしてもらっているらしい。


「あのような見目麗しく、さほど強くなさそうに見える師匠に負けたと言えば、主殿や姉御殿の旅について行けなくなるのでは……と、せめて師匠の技を一つでも盗んでお役に立てるようになるまでは修行を続け、そのまま主殿達の旅に何事もなくついて行こうと……愚かにもそう思っていたのです」


 しかし、アンネが別のパーティについて行き、俺がそれを追いかけたことを聞いて、それではいけないと追いかけながら思い直したそうだ。


 三者三様の事情を聴き、そして、誰からともなく笑いが響いた。


「何やってるんだろうな、俺たち」


「ほんとに、話し合えば、こんなくだらない話なのにね」


「……くだらないと言われるのは心外ですが……まあ、思えば、それしきのことで主殿や姉御殿が我を見捨てるなどあり得ませんでしたな」


 そうしてひとしきり笑った俺たちにリストが提案する。


「それで、どうしますか?一応最低限の準備をしていますが、妖精村に戻ります?それともこのまま先に進みます?」


 それを聞いて、俺は二人に声をかける。


「俺は、一度戻りたいと思う。安全なところで意見を統一させたいし、鍛冶屋のガルディンさんにも迷惑をかけてしまったからな」


「我も、まだ師匠に稽古をつけてもらいたい。もう少しで何かを掴めそうなのです」


 じっとアンネを見つめる俺たちに、アンネはため息をついて答えた。


「分かったわよ。一度、妖精村に戻りましょう。ただ、一つ提案があるわ」


 そう言って、アンネの出した提案を受け入れた俺たちは、倒した大鯰を引きずりながら、妖精村へと帰っていったのだった。

大鯰の対処法


 大鯰は大地の属性との相性がとても良い魔物です。そして、その相性の良さ故に、常に土や泥を体に纏わせています。

 しかし、相性が良すぎる故に、身体に付着した土や石を本人の意志に関係なく引き付けてしまいます。そのため、大鯰自身のキャパシティを超える大きさの岩を大鯰に接触させることで、動きを封じることができます。

 ただ、その巨体から想像できる膂力と本来大地の属性を持つ者に土や岩の攻撃が効きにくいという常識、そしてそもそも必要とする岩の大きさが大きすぎるということからこの対処法を知っている人も実行している人もあんまりいません。

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