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アルトバイアン村前編

※主人公は出てきません。

 アルトバイアン村。それは、非常に豊かな自然と勤勉な人々が暮らす平和な村だった。

 魔物の多く住む黒き茂みの森のすぐそばに存在していることは、住民にそこそこの警戒感を抱かせるに十分なものであったが、領主はこの村のあり方を認めて常に一定の兵士を置いてくださっていた。


 それに、黒き茂みの森は世界でも有名な12の魔境の一つではあるが、面積と生息する魔物の数は最大規模ではあるものの、強い魔物はこぞって魔力の濃い森の中央へ向かう。

 そのため、村人である彼らが普段警戒しているのは、ごく普通のゴブリンや低級スライムと言った、平原に出るようなモンスターに毛が生えたような者達ばかりだった。


 とはいえ……今となっては、それはただただそんな平和な村だった、ということを示すに過ぎない。

 世界最大の魔境というのは伊達ではない。浅層であれば腕に自信のある狩人でも対応できる程度の魔物しか出てこないというのは、逆に言えば浅層から少し先に入ってしまえば、そこにいるのは一般人には対処できない魔物であり、それが無限に湧き出るかというほどに現れるということを意味しているのだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 それに出会ってしまったのは、その村の狩人たちだった。

 その日は獲物との遭遇すら僅かで、獲れたのは野兎がたった一匹。勿論それですぐ飢えるということはない。この豊かな森の恵みのおかげで、今までの狩りで貯めた食料や金銭は狩りが今後何度か失敗し続けたとしてもしばらくは生活水準を落とさなくても済む程度には蓄えられている。


 だが、彼らが住むのはその黒き茂みの森のすぐそば。魔境の力はそこに住む動物にも何らかの力を与えるのか、この森で一日探し回って獲物が兎一匹なんて経験を彼らはしたことがなかった。それゆえに彼らは意味もなく焦り、判断を誤った。


 彼らの一人が見つけたのは大きな鹿だった。それを彼らは追いかけ、そして、森の奥へと分け入ってしまったのだ。


 そして、彼らが気付いた時にはもはや遅かった。大柄であった狩人のリーダーよりも大きな、2mを超える巨体、一糸まとわぬ姿を晒す巨体はこの森の木葉のような濃い緑の体色である。さらに鼻は潰れ、耳は尖って頭の上部まで突き出している。


「お、オーク!」


 彼らは絶望した。オークは冒険者でも一人前の者達がチームを組んで相対するものである。例え狩りで鍛えていると言っても、普段相手にしているのは動物であり、魔物と戦うとなっても少数のゴブリン程度。普段相手にしている獲物と比較して、体高だけでも倍近い差があり、戦闘能力を見ればその差はさらに広がる様な化け物だ。残念ながら、狩人たちが無事に生還する可能性は低かった。


 絶望で立ちすくむ彼らに雄叫びを上げてオークが近づいてきた時、先頭にいたリーダーが大声で叫んだ。


「逃げろ!だが、村には行くな!街道に出て領主さまのところへ行け!ここは俺が引き受ける!」


 その声に弾かれたように、猟師たちは四方八方へと逃げ出した。魔物との交戦などの経験は薄い物の、彼らはこの森での行動のプロフェッショナルだ。行動をおこせば、すぐに姿が見えなくなる。


「……さて、皆逃げたか。それじゃあ、皆が逃げ切れるように、俺がここを持ちこたえんとな」


 彼は優秀な狩人だった。もしもオーク一匹なら仕留めることができたほどに。だが、現実は甘くない。騒ぎを聞きつけたオークが、新たに2匹、茂みから姿を現した。


 彼の目に絶望はない。彼らをどう食い止めるか、それを冷静に見据えていた。その十分後、彼がオークたちに四肢を貪られるとしても、彼の努力は実を結ぶ……はずだった。


 オークは頭が悪いため、本来ならばわざわざエサの少ない森の外へは出てこない。だが、獲物を追いかけてなら例外的に森の外へと飛び出していく。そして、その優秀な鼻は見つけた獲物を逃がすことはほとんどない。


 領主のいるような大きな町ならば問題ない。オークに対する戦力も充実しているし、そもそも知能の低いオークならば街門を閉めれば、オークの力では打ち砕けない壁を延々と殴り続けて隙を晒し続けてくれる。


 だが、アルトバイアンの村は駄目だ。軽い木柵はある。家も村の規模の割にはいい出来のものがある。ただし、オークの力はそれを上回る。アルトバイアンの村にいる戦力では家や木柵を最大限活用しても撃退は不可能だ。


 だからこそ、狩人たちは王都へと向かって走っていったのだ。その身が引き裂かれるかもしれない恐怖と戦いながら、直線で追いかけっこをすれば、負けてしまう身体能力を持った相手に、誰か一人でも生き残ればいいと。


 だが、たった一人、事の重大さを知らない者がいた。狩人の中で唯一、一番若い少年だけが、オークへの対処法を知らなかった。それ故に思ってしまったのだ。万が一に村に来たら危ないんじゃないか、と。


 その行為の意味することを知らず、少年は村へと立ち寄ってしまった。それが村の破滅を招くとも知らずに……。

オークA「人間がいたから追いかけよう」

~~3秒後~~

オークA「とにかく匂いを追いかける、とにかく匂いを追いかける」

    ↑何を追いかけてるのか忘れた

オークB「なんだか知らんがあいつ走ってんぞ!ついて行ってみよう」

オークC「ぶつかってくんじゃねーよばっかじゃねーの?待てやカス!」

オークD(……こいつら放っておいて大丈夫なのか?)

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