この世界で最も温かい一日を【もっと!】
『この世界で最も温かい一日を』のあとに見ることを強くオススメします
時間が経って、夜。部屋には俺と剣崎だけが残っていた。
「今日はマシでありがとうな」
「おう、どういたしましてだ」
机の上に乗ってあるパーティの残りであるポテトなんかをつまみながら、そう言った。
「じゃじゃーん!」
剣崎の家について、そのまま部屋に通される。狭い部屋の中にかなりギリギリな大きさの机。そしてその上にはたくさんの料理が乗っていた。
ここまでは毎年のことなんだが、その料理がちょっといつもと違う。
「おい、これまさか」
「そのとおり、今年はなんと作ってくれました!」
剣崎が遠藤さんの方に両手を向け、パチパチパチパチと拍手をする。俺もつられて拍手をする。
いつもはいろんなデリバリーとかファストフードの持ち帰りとかで埋め尽くされているはずの机の上が、色とりどり、装飾なんかも施されていたりして、なによりめちゃくちゃかわいい、そんな料理たちで埋め尽くされていた。そしてなぜかイカとサトイモの煮付けがあった。
「いや、めっちゃすげえ。すげえんだけどいっこなんか違うくね?」
「いやー、なんでも得意料理らしくてな。ぜひ食べてみてほしいらしい。かなりいい出来らしいぞ。な?」
剣崎がそうやって遠藤さんに聞くと、彼女はコクコクとうなづいていた。そうまで言うのであればかなり気になってくる。
「それじゃあせっかくだし、頂こうかな」
コンビニの割り箸の袋をひとつ破り、中身を取り出す。パキッと割ると真っ直ぐ、これは気持ちがいい。
「はい、お皿」
「おう。ありがとう」
「それから最初はいいが、次からは取り箸使えよ?」
「……ん? ああ、そういえばそうか」
今までに家族以外の人とのパーティとか剣崎としかやったことが無かったからすっかり忘れていた。いるな、取り箸。
受け取った深めの皿に、輪っかのイカ二切れと、サトイモ一個を入れる。
箸でサトイモを半分に割る。その感触からすでにこのサトイモがホクホクなのではないかという想像がつく。
クリスマスらしくはないが、とても美味しそうだ。
「それじゃ、いただきます」
「サトイモとイカ、うまかったか?」
「おう。遠藤さんあんな料理作れんだな」
俺がそう返すと、剣崎は自身の顎に指を当てて悩む素振りを見せた。
「……いや、アレは遠藤が作ったやつじゃないんだよな」
「は? ……いやどういう意味だよ」
そう聞いてみたけど、そこから先は剣崎も笑って誤魔化すばっかりだった。コノヤロウ。
そういえば、
「どういう意味だよっていえば、お前。篠原さん……」
「おお! そうだった。どう? あのあのサプライズ」
「事前に言っといてくれよ俺死ぬかと思ったじゃねえか!」
「さて、それじゃそろそろクリスマスプレゼントのお時間と行きましょうか」
「えっ、俺そんなの用意してないぞ」
「ああ、大丈夫大丈夫。俺たちが勝手に準備してただけだし。な?」
「うん!」
剣崎と遠藤さんがそう言う。それならよかった。
「それじゃあ登場していただきましょう」
「は? 登場? おい剣崎それってどういう――」
「もういいよー!」
遠藤さんの声がすると突然、部屋の扉がガチャリと開いた。
そして扉の先にいたのは、黒い髪に白い肌。
「は? えっ、なんで!?」
「えっと、こんにちは……でいいのかな?」
「というわけで本日のもう一人の参加者の篠原さんでーす!」
「おいおいおいおい剣崎、いったいぜんたいどういうことだよ!」
「どういうことも何も、別に俺は今日の参加者がもうそろったなんて言ってないし、三人だけだなんて言ってないぞ」
「それはそうだけど」
「それに、どっかの誰かさんが篠原さんとデートする予定あるとか言ってたから、俺はそれを本当にしてあげただけだけど」
ニヤニヤと笑った剣崎がわざとらしくそう言う。コイツ……。
「あの、もし私お邪魔なら帰るよ?」
「そんなことない! 全然! むしろうれしい!」
「そう。それならよかった」
ニコッと篠原さんが笑う。やっぱりめちゃくちゃかわいい。
「びっくりし過ぎで?」
「びっくりし過ぎで」
「あっははははは! どんな死因だよそれ」
剣崎がめちゃくちゃに笑った。お前にとっては何でもないことかもしれないけどな、俺からしたら一大事なんだよ。
「それで、……でもその様子じゃせっかく帰りに送ってやってって言ったのに何も進展してないんだろーな」
「……うるせえ。緊張して何も話せなかったっての」
「まあいい思い出にはなったろ?」
そりゃあ、まあ。二度と忘れられないようなクリスマスになったよ。
「そういえばさ、二つほどに気になるんだが」
「ん? なんだ」
「一つ、どうやって俺の場所特定したの? それから二つ目は二人の邪魔してほんとによかったの?」
「なんだ、そんなとこか」
ケラケラと剣崎は笑って、ピザを一切れ食べた。
「電話かけたろ? そのときに喧騒がちょっと聞こえたのよな。最初は多分家にいるだろうってあたりつけて、それで電話かけてたからどこにいるんだ? って焦ったけど」
「よーく聞こえたな。そんなもん。それからよく商店街だって」
「人通りが多そうなところってことしかわからなかったからな。ただ、何となくお前なら商店街で一人悲しくチキン食ってそうだなって」
「一言余計だ」
実際そのとおりだったから地味に刺さる。
「それから、なんだって? 邪魔じゃなかったかって?」
「おう。お前は調子狂うからって言ってたけどさ、ほら、遠藤さんはどう思ってたのかなとか」
「あー、なるほどね。なら、こう言っておこう。お前を誘おうって言い出したのは遠藤だ」
「えっ!? なんで、俺と遠藤さんほぼ面識ないぞ?」
「本人もそう言ってた。でも、友達のためにそんな嘘をつける人はきっといい人だって。それに毎年の予定を私が無くしちゃうのもどうかなって言ってた」
「なーにそれ遠藤さんめっちゃいい人じゃん」
「おう俺の自慢の彼女だ。……とまあ、そういうわけだから、今度は俺からひとこと」
……お? なんだ、
「早く彼女作れよな」
「うるせえいらねえお世話だ」
「あっははははは! でもまあ、お前が彼女作ればまた来年クリスマスパーティするときに都合がつきやすいじゃん? な?」
「ぐぬぬう……だがしかし作ろうと思って簡単に作れるものじゃないだろ」
俺がそうぼやくと、
「そのための今日のクリスマスプレゼントだっての」
剣崎がなにか呟いた。内容は聞き取れなかったが。
「えっ、今なにか言ったか?」
「いや、何でもない何でもない」
「なーんか隠してる気がするんだよな。今のといい、サトイモとイカのやつといい」
「まあまあまあまあ、そろそろいい時間だし、残ってるやつ食うぞ!」
気がつけば、もうすぐ日にちが変わりそうなほどだった。
「おう、了解だ」