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デブスの没落貴族に転生したら、やっぱり成金ブサメンと政略結婚する流れになった  作者: o槻i
邂逅編

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73.デブの友

 



 金曜の放課後、ラシェルは生徒会室へ入るなり準備を整えると、猛烈な勢いでタイピングを始めた。

 ディルクに勉強を見てもらうようになって、生活リズムが戻ってきたことからあらゆる作業効率が上がったことも理由の一つだが、一番は手っ取り早くこの任から逃れたいと本気で思うようになったためだ。

 膨大量だとかこの仕事のどこに意義があるのだろうとか、以前は山ほどの不満を抱えながら進めていたけれど、泣き言を言っている暇があったら今はただ手を動かすことが先決だと、ラシェルは前向きに割り切ることにした。

 兎に角これさえ済んでしまえば、今度こそ解放されるのだから。

「さらにタイプが早くなったな、ラシェル」

「はあ……」

 感心した表情で眺めてくるクロードへの返事もそこそこに、只管作業に没頭する。

 かなり気を許してくれているのか、クロードは最近、生徒会室や内輪だけの時にはラシェルを名前だけで呼ぶようになっていた。

 しかしそんなことなど気にも留めず、ラシェルの目は常にタイプライターに注がれたまま、ペラリと音を立てて打ち込みが終わった一番上の用紙を捲り次頁へと進む。

 生徒会メンバーとの関係も良好で、最近は少しだけれど挨拶以外の会話もするようになった。アンリにはまだ揶揄われることが多いものの、他の生徒会の方々には本当によくしていただいている。

 そして、ラシェルが生徒会室へ通い詰めという噂が徐々に広まっているにも関わらず、周りからのやっかみが全くないのは、多分彼らが裏で手を回しているに違いない。お陰でこうして仕事に没頭出来ている。環境作りも含め、身に余る光栄だと常々思う。

 さらに作業が波に乗ってきて、再び次の頁へ繰ろうと目を一瞬タイプライターから離したところで名前を呼ばれた気がした。

 はい、と返事をしかけたところで突然、口の中へ物を突っ込まれる。

「コレ、なーんだ?」

 ニコニコと人好きする笑顔で、その人が訊く。

「アンリ……ひゃま……?」

 タイピングに集中し過ぎて、周囲に全く注意を向けていなかった。

 思わず彼の指まで噛みそうになったのを、寸でのところで躱す。良かった、私の反射神経、まだ死んでなかったと冷や汗が滲む。生徒会メンバーの指を一般生徒が噛み千切るとか、どんなホラーだ。

 そんなラシェルの怖れなどどこ吹く風といった様子で、アンリはラシェルの口から自身の指を引き抜くと、チロリと赤い舌を出してそれを舐めた。

 ちょっと淫靡で、けれど幼い印象の甘い顔立ちとのギャップが、きっとウケる人にはウケるんだろうなーと思いながらスルーする。

 それよりラシェルは口の中で蕩ける甘い物体の方に意識を集中させた。

 ウマい。

「チョコレート……」

「正解♪」

 この世界でチョコは高級な嗜好品だが、カラードスピネルでも各種スイーツに取り入れているくらいには普及しているので、そこそこ食べ慣れてはいる。

 けれど、口の中に入れられた物は、それよりもっとグレードが上のように感じた。

 見た目は一ミリにも満たない薄さで、一個当たりの大きさも一口サイズ。口に入れた瞬間、ふわっと溶けて消えゆく淡雪のような触感で、とても小気味良い。

 しかし次の瞬間、ラシェルはカッと目を見開く。

 悪魔のように凶悪なまでの甘みとコクが、強烈に舌の上を蹂躙したからだ。

「これは……!」

 刹那、ラシェルに某・味○様が憑依する。

 何かいっぱい、脳内で○皇様が解説くださり最後火山まで噴火したが、要約すると『ヤバい』だった。

 何食わぬ顔で、どうぞとアンリがラシェルに紅茶を差し出す。

 素直に有難くそれを頂くと、舌の上にいつまでも残る甘ったるい感覚が、強い渋みで洗い流されリセットされた。

 よく見ると、規定より濃い目に淹れたであろう焦げ茶色した液体が、ラシェルの手の中で揺れている。

 その、ティーカップから口を離した隙を突かれて「もう一つ、どうぞ」と再びチョコレートを口に押し込まれた。そしてまた、ラシェルは紅茶を口にする。

 次は自ら、まるで自然の流れのようにチョコレートの包みへ手を伸ばしかけてハッとした。

 咄嗟にアンリを見ると、「どうぞ、どうぞ~」と薄ら笑顔で勧めてくる。

『ヤバい』

 再び、この三文字の言葉が頭の中で(いかずち)と共に鳴り響いた。

 所謂、永久機関。

 コレ、絶対太るヤツだ……。

 美味しいというより、病みつきになる味だった。

 ただでさえ忙しさにかまけ、ここ一月ほどは日課のジョギングが等閑(なおざり)になっている。にもかかわらず、ここでカロリーまで余計に摂ってしまったら、またおデブへの道まっしぐらだ。

 チョコレートはカロリー爆弾。

 苦労してやっと痩せたのに、それだけは絶対に避けたい道だ。

「これ、なかなか手に入らない物なんだけど、ラシェルちゃん気に入ったなら、いくらでもあげるよ?」

 如何にも高級そうな缶の、ケースごと目の前に差し出すアンリに対し、ラシェルはフルフルと首を横に振った。

 商品名が『デブの素』と透けて見えそうな缶容器だった。

 顔を蒼褪めさせながら、ラシェルはアンリに押し返す。

「け、結構です……っ!」

「えぇっ?!」

 よほど自慢の逸品だったのか、まさか突き返されるとは思ってもみなかったようで、アンリが動揺の声を上げた。

 しかし目を瞑り、根限り拒絶するラシェルの姿を見て、さすがにこれ以上勧めることは出来ないと諦める。

 アルフレッドが苦笑交じりに、しょぼんと窄めるアンリの肩を叩いて「またフられちゃったね」と慰めの言葉をかけた。

「うるへー」

「アンリ……」

 さらには珍しく、ユーグまでもがアンリに声を掛ける。

 久しぶりに彼の声を聞いた他のメンバーも、思わず次の言葉に注視した。

「今、すごい不細工な顔してる……」

「ほっとけ!」

 溜めてまで言う言葉か、と怒りを顕にするアンリに、重要な事だと思ったので……と、あくまでマイペースなユーグ。

 そんな二人に周りは噴出するも、ラシェルは一人、ムダに太らずに済んだとホッと胸を撫で下ろして作業へ戻った。




************


ラシェルはデブの友と縁を切れたようですが、私は冬休みの友と日々格闘中でございます……(どうでもいい)

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