71.謝罪
「先日は大変失礼なことを言って、申し訳ありませんでした!」
翌週の月曜日。
三年のクラスルームが並ぶ廊下の片隅で、朝のホームルームが始まる前にユベールを呼び出したラシェルは勢いよく頭を下げてお詫びの言葉を述べた。
「分かればいい。……恥ずかしいから、もう頭を上げろ」
言葉通りにラシェルが顔を上げると、腕を組んで斜に構えながらも頬を少し赤らめるユベールが、居心地悪そうにこちらを見ていた。
「その……俺も言い過ぎたと反省している」
「じゃあ、また明日から指導していただいても……?」
「構わん。……顔色も、先週までより随分マシになってきているようだしな」
ラシェルの頭に手を載せ、目を細めて髪をくしゃくしゃに撫でる。
「先輩……!」
ユベールの言い草に、先週のキツい物言いは、ひょっとすると少し部活を休んで休養しろと暗に言っていたのかもしれないと気付く。
この先輩ときたら、人を悪く言うのは必要以上にストレートなのに、優しくする時はとことん天邪鬼だったと、今になって思い出す。
長く付き合ってみて、彼が実は情に篤い人間ということを知った。それでいて間違っている時はキチンと怒ってくれる。
ラシェルは彼のそういうところを心から尊敬していたが、今回その気持ちを改めて深くした。
「生徒会の仕事が、漸く落ち着いてきたというところか?」
「知ってたんですか……?」
「まぁ、多少な。噂にもなっていたから」
「そうでしたか……」
噂、と聞いて気分が滅入る。
実情も知らず、妬みや誹りの的にする行為だ。
また、件の令嬢たちのようなことがなければいいけどと溜息を零す。
「あと、過保護なあの婚約者が動いたか?」
「えっと……」
図星を突かれ、はにかんで俯く。
過保護かどうかはよく分からないが、忙しい中、態々ラシェルのために貴重な時間を割いて勉強に付き合ってくれるというのだから、優しいとは思う。
この土日も、ディルクの指示通りのんびり過ごさせてもらった。思ったより体は休息を求めていたようで、丸二日、気付けば殆ど寝て過ごしていた。
お菓子作りも要らないからと、代わりにニーナをランドルの店に遣わせて焼き菓子を用意してくれた。
お陰で、やっとまともにリフレッシュできたラシェルは、こうしてユベールにキチンと謝罪が出来るまでに回復もした。
「ところで用件は、これで終わりだな?」
「はい」
「じゃあ、明日の放課後に」
片手を挙げ、教室へ入って行く先輩の背中に、ラシェルは最敬礼してから自分も教室へ戻った。




