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デブスの没落貴族に転生したら、やっぱり成金ブサメンと政略結婚する流れになった  作者: o槻i
邂逅編

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61.エチュード

 



 思ったより会議が長引き、議事録を進行に合わせてざっくりと取ってはいたものの、不明点を聞き取れなかったところと合わせて簡単にクロードから訊いたところで最終下校時刻を迎え、その日はそこでお開きとなった。

 会議資料は議事録も含め持ち出しを禁止されたが、放課後だけでなく昼休みも生徒会室を使って良いとクロードに鍵の使用許可を受けたので、明日からは昼間も生徒会室で缶詰めとなりそうだ。清書を頼まれた書類の束もあるし。

 停車場へ向かい、待たせていた馬車にラシェルが乗り込むと、窓に身体を預けて眠っているディルクの姿が目に入った。

「少し前まで起きてたんだけどね。今日はこのまま眠らせてあげてもいいんじゃない?」

 どうせ帰ったら起きるだろうし、とラシェルの後ろからニーナも馬車に乗り込む。殆どの生徒が下校し、周りに人もいないことからニーナが口調を和らげて話しかけた。ラシェルもそうねと頷き返す。

 部活のない日は、ディルクと一緒に帰る約束をしていた。

 こんなに遅くなるなら今日も先に帰ってもらうよう(ことづけ)ておくべきだったが、会議を抜け出すわけにもいかず、かといって放課後までの段階であんな展開になるとは思ってもみなかったため、ただただ申し訳ない思いでいっぱいになる。明日からは部活のある日と同じで、先に帰っておいてもらおう。

「ところで、生徒会って言うの? そこから呼び出しがあったって聞いたけど、一体何だったの?」

「それが……公爵令嬢のレイラ様って方がいるんだけど、夏までの間、彼女の代わりに書記を任されちゃって。これからしばらく、昼休みと部活のない日の放課後も生徒会室で籠ることになりそう」

 月曜は皆との会合を優先させるけど、と溜息交じりに付け加える。

「うわぁ、何かまた、厄介な仕事請けちゃったわね。でも、どうしてラシェルが?」

「どうも、レイラ様から妬みを買ってしまったみたいで」

「妬み?」

「うん。完全に向こうの勘違いなんだけど、前にローレンス王子がクラスに私を訪ねて来たことがあってね、多分その話を今さら聞きつけて嫉妬されてるんじゃないかと思うの……本当、他愛もない用事で来ただけで、何にもないんだけど」

「何それ! 公爵令嬢様か何か知らないけど、パワハラじゃん。こんな横暴、許されていいの?」

 おぉぅ。レオノキアにはハラスメントの概念があるのね。いや、そうじゃなかった。

「ニーナ、落ち着いて……」

「落ち着いてる場合じゃないでしょう。ラシェルが出来ないなら、私が代わりに抗議してあげる!」

 確かに理不尽な話ではあるが、実際問題、生徒会相手に事を荒立てたところでこちらに利は一つもない。幸い前世でブラインドタッチは覚えていたし、タイプライターにも翻訳で慣れていたから無理な仕事という訳でもなかった。それよりは敵も多そうな公爵令嬢に対し、貸しを作ると思って引き受けた方が得な気がする。

 ……という打算に満ちた回答を、正義感に燃える目の前の親友に晒すのも憚られ、何か彼女の怒りを納めてもらうための口上はないものかとラシェルは頭を捻った。

「いいのよ、ニーナ。それにそんな、嫌な事ばかりというわけでもないから」

「どういうこと?」

「実は副会長のクロード様は、何て言うか……そう、私にとって初恋の方なの」

 ニーナが口許に手を当て、あら、と頬を赤く染める。

 本当の初恋はル●ンの石川五右衛門なんだけどなーと思いつつ、二次元の恋人しか思い浮かばない自分が悲しい。

「仕事も、そのクロード様に付いて色々と教えて頂くことになってね、思った通り厳しくも優しいお方だから、良い勉強をさせていただけると思うわ」

 思った通り鬼畜眼鏡だったので、今から戦々恐々としていますとは口が裂けても言えない。勿論、彼に限らず生徒会メンバー全員、ラシェルへの扱いはめちゃくちゃ雑なんだけども。

 まぁ、それこそ小さい頃からあらゆる人間に(かしず)かれて育ってきた特権階級の子息ばかりなので、リサほどの絶世の美女ならいざ知らず、一生徒に過ぎないラシェルへのこの当たりは至極当然……というか、あれでもかなり上等か。

「どんなお方なの? そのくろーどさまって」

 顔に思いっきり出歯亀の文字を浮かべ、興味津々にニーナが聞いてくる。

 逃げ口上に彼の名を挙げただけだったので、思いがけず掘り下げてくるニーナに、特に何も考えていなかったラシェルは慌てて前世の記憶を引っ張り出して美点を挙げ連ねた。

「えっと……すっごい美形……? 文武両道の……頭が良くて、フェンシングも上手くて、非の打ち所がない人物……かな。あと、この人と決めたら深く愛して一途に尽くすキ」

 キャラ、と言いかけて「気質の方だと思うの……」とはぐらかした。

「へぇー。じゃあ、見初められたらお姫様扱いって感じかしら」

「そうそう。普段クールなのが、二人きりになると掛けていた眼鏡を外してドロ甘モード全開に、耳元で愛を囁いたり……」

 くふふ、と攻略エピソードが過り、つい思い出し笑いしてしまう。

「なんか、取ってつけたような長所のわりにエピソードは生々しいのね。……もしかして、付き合ってるとか?」

「まっ、まさか! 殿上人のような方よ? 間違ってもお付き合いなんて、できる方じゃないわ」

 ゲームでもない限り、と心の中で呟きつつ、噂で聞いたのよとジト目を向けてくるニーナの視線を躱す。

 危ない危ない。

 前世で得たゲーム知識を、こんな形で披露しても気持ちが悪いだけだ。

「じゃあ、今でもラシェルは結構、その方のこと好きだったりして……?」

「うーん、まあ……」

 彼を言い訳に使った手前、否定するのも辻褄が合わなくなるので曖昧に笑みを浮かべて返事を濁した。それを聞いたニーナも、ラシェルがいいなら別に良いけどと、一応、振り上げた拳を下ろす。

 ラシェルの中で、クロードはあくまでキャラとして最推しだったに過ぎず、向こうも痩せてやっと豚から普通の人間になれた少女Aの存在など眼中にあるわけがない。

 個人的にはそんなことより、紆余曲折あったものの思いがけず攻略メンバーと接点を持てたことで、久しぶりに懐かしい思いに浸れたことが純粋に嬉しかった。ローレンスとの経緯をレイラに解ってもらうのは一つ課題だが、何より今は乙女ゲームに転生した醍醐味をしっかり味わおうと、流れる車窓の景色に目を向けてラシェルは微かに笑んだ。




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