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デブスの没落貴族に転生したら、やっぱり成金ブサメンと政略結婚する流れになった  作者: o槻i
開闢編

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53.二時間ドラマ


 舞踏会の翌日、手持無沙汰な午後の暇潰しに、ラシェルは王家の蔵書を覗いていた。

 いつものようにヤーランド関連の書架から文庫本を一冊取り出そうと手を伸ばしたタイミングで、チカチカと照明が瞬く。そろそろ交換時期ですねと、司書の女史が脚立を持ってやって来た。

 初めてここへ足を踏み入れた時には気付かなかったが、この部屋の明かりは全て電気でとっている。管理している物の性質上、自然光だと日焼けと劣化を招くため随分と以前から導入されているようだった。磨いても落ちない年季の入った汚れや、手慣れた様子で蛍光灯を変える女史の姿からもそれが伺える。

 今、王都の街灯は少しずつではあるものの、ガス灯から電灯に変わりつつあった。

 ラシェルが生きている間には電気なんて発明されないと思い込んでいたが、よくよく考えてみたら電報があるのだ。ニーナに訊いたら、レオノキアでは電化製品が数多く出回るほど広く普及しているという。例によって例の如く、単なる国の情報統制というか謎の自主規制とでも言おうか、王政が時代遅れな生活を国民に強いているだけのことだった。が、それも少し前に王都全域で電線を通すインフラ事業が議会を通過したことで、街灯然り、徐々に広がりを見せている。

 ラシェルの屋敷も周辺地域ではいち早く電気の導入を決め、つい先日のことだが、ミキサーがキッチンに並べられたのを見た時は感動ものだった。これで、さらに作れる料理の幅が広がる。とにかく何を料理するにも撹拌作業が大変だったため、豆腐もフィリドールの実家で一度作った切りになっていた。

 料理長もアウローテに来た当初、まさかこの国が電気すら通っていないとは思ってもみなかったようで、大量に持ち込んだものの倉庫に眠らせていたレオノキアの家電製品が漸く日の目を見ると喜んでいた。他にもハンドミキサーや、家電の王様・冷蔵庫、果てはヨーグルトメーカーまで今は厨房に取り揃えられている。

「最近、その作者のシリーズ本を頻繁に借りていらっしゃるようですが、そんなに面白いのですか?」

 先ほどラシェルが手に取った文庫を指し、電灯の取り換えを終えた女史が脚立から降りながら尋ねる。

「ええ。前せ……いえ、今まで読んだことないジャンルでしたが、隙間時間にでも読もうと借りたら見事にハマってしまって。この春休みを使って、一気に読んじゃおうと思ってます」

 ここへ通うようになり暫くしてのことだが、何のバグか、ヤーランドの古い文献とされる日本語書物の一部に紛れるような形で、前世の現代日本で流通していたタイトルが混じっていることに気が付いた。今、ラシェルが手にしているのは某有名作家のトラベルミステリー六作目。前世ではオッサンの読み物と思い込み見向きもしなかったけれど、アウローテは娯楽が少なく暇なのと、あと懐かしさも相俟って手に取ってみたら、面白いのなんの。そりゃあ売れて二時間ドラマとかにもなるわなと、改めて納得した。他にも三毛猫がタイトルに冠する小説やら、その作家が書いた学園物ミステリーなど、片っ端から手を付けている。

 ラシェルはこれまで、九時間から多い時で十一時間は睡眠を要するロングスリーパーだったが、去年の秋頃から六時間半から七時間くらいで気持ちよく目覚めるようになった。二次性徴の身体変化ってこんなにも劇的だったかなと前世を振り返り疑問を抱きつつも、その時間を使ってお弁当作りや、最近では手際も良くなりディルクとの朝食を用意する時間に充てられるようになったことで、驚くほど理想的な生活を送れている。さらにその隙間時間を使って小説を読み始めたのが切欠だったが、春休みに入って時間が出来たのを機に、どっぷり読み耽っていた。

「確かに、面白そうですね。私もミステリーは好きなので読んでみたいのですが、ラシェル様のように解読するのは難しいので残念です」

 王家の蔵書を司る女史が、心底口惜しそうに零す。彼女ほどの本の虫となれば、読めない本があるというだけでストレスになるのも頷ける、とラシェルは思った。頬に手を宛がい深く溜息を吐く彼女の横顔を目にして、ふとラシェルの中のお節介が頭を擡げる。

「あの……例えば私がこの本を翻訳したら、読んでもらえますか……?」

 多くの家電が押し込まれていた屋敷の倉庫に、確か埃を被った携帯型のタイプライターが一台あったように思う。

 えっ、とラシェルに顔を向けて、「よろしいのですか……?」窺う言葉とは裏腹に、頬は紅潮し、最大限に開いた瞳孔が、期待に満ち満ちていることを示していた。

 こんなにもあからさまに望まれてしまえば、ラシェルとしても引くに引けない。

「初めてなので、ちゃんとしたものが出来るかは約束できませんが、それでよければ……」

「ありがとうございます!」

 がしぃっとラシェルの両手を掴んで、いつも冷静沈着な彼女が盛大な笑みを浮かべる。

 こんな風に喜んでもらえるなら俄然やる気出ちゃうなと、何だかラシェルも気合いが入った。


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