45.心の友
更新が遅くなり、申し訳ありません。
今後、暫くの間は本当に不定期更新とさせていただきたいと思っています。
物語の結末は、既に構想を考えておりますのでエタることなく突き進めて行く予定です。
マイペースで申し訳ありませんが、最後までお付き合いいただけるとありがたく思います。
一時は死ぬほど恨んだ神様も、心底性悪という訳ではなかったらしい。
幸いなことに、自分史上最凶にデブスな期間は然程長くは続かず、十二月に入る前には女子になら『ぽっちゃり』と称しても許されるのではというくらいの体形まで落ち着いた。
「ラシェルちゃん、痩せたねぇ。また一段と可愛くなったねぇ」
ラシェルが用意したお弁当に箸……は無理なのでフォークを伸ばしつつ、陽だまりのような微笑みを湛えながら鈴の音のようにコロコロした声でデュランが褒めてくれる。以前より痩せたとはいえ、ぽっちゃりの段階でここまで褒めてくれるのは彼くらいなものだ。褒められて伸びる子と自負しているラシェルは、嬉しさに顔を綻ばせておにぎりを頬張った。
「おーい、ラシェル!」
突然、聞き覚えのある声がして、ラシェルはビクリと肩を揺らす。おにぎりを喉に詰まらせる寸でのところで飲み込むと、半分噎せながら声の主を顧みた。
「……ディルク?!」
やっと見つけたと言ってディルクはラシェルの隣に腰を落ち着け、購買で買ったと思しきパンと牛乳の入った袋を地面に置く。
「どうして、こんな所に……?」
「それはコッチのセリフ。てっきりクラスで食べてるものと思って覗いたらいないから、ここ数日ずっと探してたんだぞ」
「えっと……どうして?」
「一緒に昼メシ食おうと思って」
「そ、そう……」
この状況にもデュランは、ラシェルを挟んでディルクの反対側に座ったまま、もくもくとお弁当を食べ続けている。さすが王族なだけあって鉄の心を持つ彼を横目に、ここに至るまでの経緯をディルクに説明すべきかラシェルは頭を悩ませた。
ディルクは夏にフィリドールへ来て以来、伸ばしたままにしている髪が肩にかかるようになって、今はそれを後ろで一つに束ねた髪型をしている。短くて結えずに残る横の後れ毛を耳に掛けて、こちらもお構いなしといった様子でラシェルの方へと身を乗り出した。
「朝も食べたけど、その出汁巻き美味しかったから一つ貰っていいか?」
そう言って、ラシェルが返事をする間もなしに口を開けて待つ。いつもは見せない彼の強引な姿に戸惑うも、箸もフォークも予備の用意がないので仕方ないかと、ラシェルは弁当用に自作したマイ箸を使って出汁巻き玉子を彼の口許へ運んであげた。
「うん、やっぱ旨い。そっちの魚も食べたい」
ラシェルの手から食べかけのおにぎりを勝手に奪うと、それも頬張りながら強請る。
「はい、あーん」
毎朝しているように食べさせてあげると、満足そうにウマいと言って咀嚼する。いつも思うが、油断した時に見せるディルクの食べ方は子どもみたいで、ちょっと可愛い。ふふ、と笑みを浮かべていたら、ごちそうさまとデュランが食べ終えた。
フォークを弁当箱の中に仕舞い、包みでくるんでありがとうとラシェルに返して立ち上がる。徐にディルクと向かい合い、彼は向日葵のような大輪の笑みで話しかけた。
「初めまして。デュランと申します。ラシェルちゃんの婚約者、ディルクさんですね」
右手を差し伸べ、握手を求める。
「ああ。1-Bのディルク・ウェーバーだ。君のクラスは?」
デュランの手を取り、握手を交わした。
「あの……デュラン君は、こう見えて学院のOBなの。今も時々、こうして授業の聴講に学院まで来てるんだって」
フォローしようと、ラシェルが焦ったように説明したら、ふむとディルクが独り言つ。
「これまでの非礼、お詫び申し上げます。重ねて失礼と存じ上げますが、ラシェルとは如何様にしてお知り合いになられたのでしょう」立ち上がり、デュランに最敬礼すると、ディルクはそれまでの横柄な態度を改めた。「彼女に至っては、これまでに何か不手際などございませんでしたでしょうか」
「えっ……」
ディルクの豹変ぶりに、ラシェルは思わず声を上げる。
その様子に、デュランがクツクツと肩を揺らし、顔を上げてくださいと苦笑して返した。
「堅苦しいのは僕、苦手なんです」
「ですが……」
「ラシェルちゃんにも言ってありますが、今は僕のプライベートなので。できれば友人として接してもらえると、ありがたいです。年齢も、僕の方が一つ下ですし」
「……分かりました。ではどうかこれまでと、これからの非礼をお許しください」
「大丈夫です」
二人が交わす遣り取りを、きょとんとした表情で見つめながら、ラシェルはどうして分かったのとディルクに訊いた。
「今の三年より明らかに年下の見た目でディプロマまで持ってるなら、飛び級入試とスキップ制度がすぐ頭に浮かぶ。尚且つお忍びで聴講が許されてるといえば、もう王族特権しかないだろ。それでいて名前も一致してるとくれば、第三王位継承権を持つデュラン王子しかいないなんて、バカでも分かることだ」
はい。そのバカ以下です、私。全然気付きませんでした。
チーンと青ざめた表情で合掌するラシェルの内心を悟ってか、デュランが苦笑いして、まあまあと収める。
その後は、ラシェルがデュランとお近づきになれた経緯などを話して和やかに談笑し、今度からは昼の時間を三人で過ごすこととなった。
「朝メシはいいから、代わりに俺にも弁当を用意してくれ」
「……」
言うと思った。
お弁当を作るのは構わないけれど、またディルクが朝食抜きになるのはどうしたものかと思案して返事を迷っていたら、物凄い目付きで圧をかけてきたのでラシェルは不承不承ながらも頷かざるを得なかった。
ちょうどそこで午後の授業の予鈴が鳴り、教室へ戻ることにする。
別れ際、
「子育てと学業の両立は難しいから、くれぐれも気を付けてね~」
とデュランが大きく手を振り、見送ってくれた。
突拍子もない彼の言葉に、何のこっちゃワケ分からんと隣を見上げたら、左手で口許を覆い隠して顔を真っ赤にするディルクと目が合った。弾かれたようにラシェルから目を逸らす彼に、やっぱり何のこっちゃよく分からんと、ラシェルはそれ以上あまり深く考えず、また明日とデュランに手を振り返した。




