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デブスの没落貴族に転生したら、やっぱり成金ブサメンと政略結婚する流れになった  作者: o槻i
開闢編

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41.カルテット


 ラシェルが渡した小袋の処理があるからと、弁当を食べ終えて早々にデュランは王宮へ帰ってしまった。

 時間を持て余したラシェルも教室へ戻ろうと廊下を歩いていた所で、件の噂好きなクラスメイト二人に呼び止められる。そのまま人目に付かない渡り廊下を付いて行かされ、校庭の隅まで連れ出された。最初こそ明るく誘ってきた二人だったが、人気がなくなるにつれ口数が見る間に減っていく。流石のラシェルも、彼女達から放たれる剣呑な雰囲気を察して身構えた所だった。

 二人がピタリと足を止め、ラシェルに向き直るや生意気なのよと牽制される。

「…………」

 面と向かって人から非難されるのは前世も含め初めてのことで、震え上がる心の内を悟られないよう、努めて冷静さを装い押し黙った。

「ラシェル・デュ・フィリドール、貴女一体、何様のつもり?」

 鋭い視線で睨みつける令嬢の隣で、もう一人がそうよ、と言葉を引き継ぐ。

「貧乏人が、ちょっと金持ちと婚約したからって大きな顔しないで頂きたいものね。貴族として、恥ずかしくないの?」

「しかも、金にモノを言わせて生徒会執行部の方々まで取り込もうなんて、おこがましくてよ」

「???」

 現状、酷い剣幕で罵られているが、……妄想がぶっ飛び過ぎて、もはや理解不能だった。

 尚も黙ったままのラシェルを、論破され気落ちしていると見たのか、正義は我にありと言わんばかりに二人が声を大にして言い募る。

「貴女ご自慢の婚約者サマにしても、何か勘違いされているんじゃなくて? 商家の出か平民の血か存じませんが、クラスの方々に上手く取り入って。何か売り付ける気ですの? それとも人をたぶらかすのがお仕事かしら」

「そもそも、たかが成金の二世風情が、入学規約の間隙を突いたような編入方法で貴族の中に紛れ込もうなんて、小賢しい真似を。図々しいにもほどがありますわ」

 ディルクのことを非難され、流石にカチンときた。自分のことはまだしも、この場にいない人間のことを悪し様に言うのは聞き捨てならない。

「彼が学院に入学したのは、正当な権利です」

 キッと二人を睨みつけ、ラシェルは言い返した。

「文句があるなら、学院の理事にでも掛け合うのが筋でしょう。それに二世ではなく、彼こそが実家の経営を立て直した張本人よ」

「……そう。じゃ、ただの成金ね」

 突如、反撃に出たラシェルの勢いに一瞬呑まれそうになるも、すぐに揚げ足を取って鼻を鳴らす。

 その太々しい態度に、ラシェルは怒りを通り越して、憤りで頭に血が上った。

「私のことは、いくら悪く言っても構いません。醜悪で貧相で何の取り得もないなんて、自分が一番よく分かっているもの」

 目を落として俯くと、戦慄く両の拳に力を込めて奥歯を噛み締める。

 次の刹那、ラシェルは勢いよく顔を上げて、烈火の如く言い放った。

「けど、彼は違う。聡明で、実直で、何より努力家で。それでいて自分の能力に奢ることなく、いつだって献身的に力を尽くすことが出来る人よ。平民とか貴族とか、そんなもの関係なく、私は彼を心から尊敬しているわ。何も知らないくせに、勝手なこと言わないで」

 言葉遣いも身分による配慮も、細かいことなど気にしてなんていられなかった。

 利害の一致があるにせよ、ディルクは文字通り身を削ってフィリドールに尽くしてくれているのだ。それを憶測だけで中傷されるのは、どうにも我慢が出来なかった。許せなかった。

「貴女、正気なの?」狐に抓まれたような表情を浮かべ、一人がラシェルに疑いの目を向ける。「たかだか金で買われた政略結婚の相手如き、そこまで庇う必要が何処にあるというの」

 訊きながら、ややあって「ああ」と彼女が独り言つ。

「ひょっとして貴女、本気で惚れたとか? あの不細工で、爵位を金で買うような卑しい平民の男に。……笑えるわね。貴女、何処まで愚鈍なの」

「嘘でしょう。勘弁して頂きたいものだわ。美男美女……せめて美女と野獣なら、まだ絵になったかもしれませんが…………何と表現したらよいのでしょう」僅かに思案して「豚と野獣?」閃いた言葉に自ら吹き出す。

「お似合いではあるけれど、サーカス団か動物園のお話かしら」

 二人、嗤いを堪え切れずクツクツと肩を震わせる。

 そんな彼女達の姿を目の当たりにして、ラシェルは思わず天を仰ぎたい気分に襲われた。どんなに言葉を尽くしても、理解し合えない人間がいるということを突き付けられた瞬間でもあった。

 想像力の欠如。

 言うに事欠いて、恋愛感情とは。薄い。実に、薄っぺらい。

 私達フィリドールの人間とディルクの関係を、そんな軽薄なもので喩えることしかできないから、嫉妬に駆られてこんな古典的なイビリをするくらいしかできないのだろうと、ラシェルは肩を落とす。

 下卑た嗤い声を耳にしながら、ラシェルは彼女達と同じ土俵に上がってしまったことを心から悔いた。

 そしてそっと、踵を返して立ち去る。

 きっと彼女達の目には、言い負かされてすごすご逃げ帰る負け犬のようにしか映らないだろう。

 けれどもう、それでいいと思った。バカにどう思われようと、もうどうでもいい。

 ラシェルはただ一刻も早く、この汚染されて淀んだ空気の中から抜け出したいと、それだけを願ってその場を後にした。


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