40.弟の苦悩
「母さんの仕業だな」
吐き捨てるようにボソリと零すデュランに、ラシェルは一瞬、肩を震わせる。
昼休み、二人で仲良くいつもの丘でお弁当を突いていると、デュランがこの学院に入学した経緯を話してくれた。飛び級入試を五年前にパスしたデュランは、王族特権と合わせて都合の付く時間にのみ登校し、のんびり受講していたらしい。実は卒業に必要な単位は既に取得してディプロマも持っているが、未だに気分転換も兼ねて好きな教授の講義を覗いたり、この丘で昼寝を楽しんでいるのだという。
和やかに話が進む中、ラシェルがそういえばと自然を装ってローレンスからの預かり物を渡した途端、先の言葉がデュランの口から飛び出した。ヤバかったかなと窺っていたら、気付いたデュランから逆に謝られる。
「ごめんね、兄弟喧嘩に巻き込むようなことさせちゃって」
「ううん。それよりローレンス王子とは、あまり話をしないって聞いたけど……」
兄弟喧嘩というワードも含めて家族の、しかも王族に関する立ち入ったことなど聞かないに越したことはないと思いつつ、今朝のローレンスの言葉が気になっていた。
「色々あってね、今ちょっと距離を置いてるのは確かかな……」
溜息交じりに零す。しかしそれ以上は言葉を濁すデュランに、今度はラシェルが謝る番だった。
「ごめんね、込み入ったこと聞いちゃって」
「ううん。こっちこそ……というか、本当は話したい。全部話して御破算にしてやりたい」
「えっ」唐突な告白に、戸惑いを隠せずラシェルは動揺する。「大丈夫……?」
これまで見たことないデュランの破天荒な物言いに、心配になって再び彼の顔を窺った。
「ごめん、ごめん。急にこんなこと言われたらびっくりするよね。大丈夫だから心配しないで。こっちも、ちゃんと僕の方で処理するから」
そう言って、ラシェルの手の中にある小袋を、摘み上げて回収する。
不意にゴロンと後ろへ倒れ込み、真っ青な空を仰ぎながらデュランが言った。
「ねぇ、ラシェルちゃん……」
「ぅん?」
「いつか言える時が来たら、話し、聞いてもらってもいい……?」
今にも消え入りそうな、か細い声だった。
「私なんかで良かったら、いつでも言って。いくらでも聞くから」
「ありがと……」
ラシェルとは逆の方向に顔を向けるデュランが、泣いているようにも見えて言葉に詰まる。
「あー、やめたやめた!」
しんみりしかけたところで突然、がばっと起き上がり
「折角ラシェルちゃんが作ってくれたお昼ご飯が不味くなる!」
そう言ってデュランは再び、勢いよくお弁当を頬張り始めた。普段高級なものばかり食べて舌が肥えているはずの彼だが、珍しさからかラシェルの作った物を美味しいと言ってよく食べてくれる。多分、偶に食べるお茶漬けはウマイという、アレに近い感じだろう。
今日は塩ヨーグルト漬けにした白身魚のソテーを切り身で入れ、あとポテトサラダも作ってみた。
「この魚、柔らかくて美味しい!」
「良かったら、私の分もどうぞ」
「いいの? ありがとー!」
努めて明るく振舞うデュランの姿を目にして、ここにも年齢不相応の重荷を抱えた少年がいると、ラシェルはひどく胸が痛んだ。




