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デブスの没落貴族に転生したら、やっぱり成金ブサメンと政略結婚する流れになった  作者: o槻i
開闢編

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39.僥倖


 翌、月曜日。

 二限目と三限目の中休みに、以前ランドルの店へ一緒に行った令嬢の一人から声をかけられた。ここの休み時間は少し長めに取られていて、生徒たちはそれぞれリラックスした様子で過ごしている。

「ラシェル様、リップクリーム変えられました?」

「あ……」

 口紅フェチの令嬢だ。

「実はこれ、昨日、貰った試作品なんです」

 昨日、ランドルが屋敷を訪れたのは、ニーナにも息抜きが必用だろうというディルクの粋な計らいだった。夏に初めて王都の屋敷へ来た時は四人でのティータイムを頑なに禁じていたのに、どういった心境の変化かとディルクを見つめていたら、ここ最近のニーナが侍女として身の振り方をきちんと弁えるようになったからだと、照れ臭そうに視線を外してラシェルに返した。ニーナとはあれから、仕事の話をする時以外、互いの私室や密室で二人きりの場合のみ敬語を使わず友人として接しようと取り決めていたので、それも功を奏したかなと心の中でガッツポーズを作る。

 ランドルとは、ティータイムついでに店の近況や次回入荷が決まった物のラインナップを教えてもらったり、アウローテに未参入のブランドや商品の情報交換をしたりして話が盛り上がった。ニーナとコスメの試供品を開けている間に、ディルクも早速、ヤーランドやカイルラスについてのアドバイスを求める。流石に交易についてはランドルの方が情報通で、レオノキアのギルド仲間との交渉を買って出てくれた。具体的にラシェルが欲しい物のリストを渡すと、間に合えば次の船便で書簡を通じて依頼できるはずと約束までしてくれた。

「艶があって、とても素敵ですわ」

「実は私も、朝から気になっていましたの」

 一人、また一人とクラスメイトがラシェルの元に寄る。

「グロスと言って、レオノキアではわりとポピュラーな、口紅の上に重ね付けするコスメなんです」

 ランドルが用意してくれるのは前世で馴染みのある物が多いので、ラシェルにとっては使い勝手が良くて助かる。

「試供品と仰いましたが、入荷予定はあるのかしら」

「こちらはまだ未定とのことですが、セリーヌ様とシャルロット様には、来週の水曜からコスメが店頭に並ぶ運びとなりましたので、よろしければ是非にと言付かっております。セリーヌ様には、新色の口紅も取り揃えましたのでご覧になるだけでも楽しんでいただけるのではと申しておりました」

 本当ですの、とセリーヌが目の色を変える。シャルロットも是非お伺いしたく思います、と喜んだ。

 途端、教室の入り口辺りから黄色い声が上がる。

 色めき立つ周囲に驚き顧みると、入り口付近に攻略キャラで宰相次男のアンリが立っていた。その奥には、脳筋キャラのアルフレッドと第二王子も控えている。思いがけずキラキラ攻略キャラの眼福に預かれたと心の中で手を合わせて拝んでいたら、お呼びのようですわよとセリーヌに肩を叩かれた。

「えっ……」

「あ、いた。君だね、ラシェルちゃんってのは」

 わんこキャラ宜しく、にこにこと朗らかな表情を浮かべて手招きされる。目をハートにさせ、クラスの女子全員が見つめる先のこの男が、兄のクロードを引き合いに出した瞬間、闇落ちすることを誰も知らない。裏表激しい性格だが、可愛がると依存度マックスで懐いてくるので、共依存が好みの女性はド嵌りする最凶キャラだ。小学生時代は王道の第二王子、ケータイアプリではクロード派だった身としては、ハッピーエンドを一巡しかしてない彼は比較的愛着が薄いのだけれど。

「えと……あの。私めに何か御用でしょうか」

 いざなわれるまま廊下に出て、要件を伺う。

 ゲームでの彼らを知っているとはいえ、いざ実際に殿上人たるイケメン三人を目の前にして囲まれると、その迫力から吐き気を催すほどバキバキに緊張してしまった。頭の中にいる前世の自分と比べて、現実の我が身はとことんチキンだ。

 生真面目な兄と違い要領の良さは随一の弟が、周囲から向けられる好奇の目を適当にあしらいつつ「用があるのはローレンスなんだけどね」とラシェルに断る。

 ずい、とローレンスがラシェルの前に出て、グーパンしてきた。

「きゃっ……」

 と思ったら、ラシェルの胸元で握りしめていた拳を開く。掌に小さな袋を載せ、ローレンスが震える唇でラシェルに話しかけた。

「あ、会うんだろ……?」

「え?」

「渡して」

 ずい、と小袋をラシェルに託そうと更に詰め寄る。一体何を言っているのか、さっぱり分からず目をグルグルさせて混乱していたら、見兼ねたアンリが助け舟を出してくれた。

「ローレンス、端折りすぎ。もうちょっと分かるように言ってあげないと」

 あと、一応女の子なんだからもっと優しく接しなきゃダメだよと窘める。

 有難いフォローでメチャクチャ株が上がったのに、一応という言葉で暴落した。やっぱり攻略キャラは自分達とリサ以外、どうでもいい存在なのだということを再認識する。

 アンリに指摘され、白磁に透き通る頬を朱に染め上げたローレンスが俯きがちに言い直した。

「そっ、その……昼休み、ぉ弟に会っていると……」

 いじらしい迄に照れた様子で、言葉を絞り出す。

「ぁ、アイツと私は、あまり、話さない。……ので、コレを、渡して欲しい……」

 先から差し出していた小袋を、遂にラシェルの右手に捻じ込んだ。

「あっ」

 やられた、という気分で第二王子を見上げる。サッとアルフレッドの陰に隠れて、「頼んだ」と今度は目も合さずに言い放った。この状況に、アンリは苦笑交じりで肩を竦める。

 何だろう……何なんだろう、この第二王子のコミュ障っぷりは。

 ゲームで見知っている彼とも、この世界で今まで抱いていたイメージとも全く違う。どもりがあるような設定では絶対になかったし、どちらかというと俺様で、新入生代表の挨拶で見せたような堂々たる男らしい王道キャラだったはずだ。にも拘らず、目の前にいる彼は舌っ足らずで、人と関わること自体に何処か怯えを抱いているようでもあった。傍にいる二人も、王子というよりお姫様扱いで接している様子。

 夏に生徒会室で会った時も、何て綺麗な人だろうと思ったが、今目の前にいる彼はそれ以上に愛らしくさえあった。朴訥ながらも、どもる声すら美しい。

 あまりの姫っぷりに思わず第二王子が女性だったというような裏設定があったか記憶を辿るも、やはりそんな話など聞いた例がない。それにいくら美しいとはいえ、やはり声も骨格も、男性であることは明らかだった。

「……分かりました。渡しておきます」

 礼を言う、とアルフレッドの陰から声だけで感謝され、はあ、と生返事でラシェルも返す。要件はそれだけだったようで、じゃあねーと手を振るアンリに頭を下げてラシェルも教室に戻った。

 席に着くと、女子たちは待ち構えていたかのようにラシェルを取り囲む。

「アンリ様とは、顔見知りだったのですか」

「いえ、そういう訳では……」

「私、アンリ様のファンですの。生徒会メンバーの中でも、分け隔てなく誰にでもお声をかけてくださるのはアンリ様だけですもの」

「ローレンス様におかれましては、本日も大変お美しくあられて」

「存在そのものが神々しいですわ……!」

「ご覧になられました? 制服の上からでも分かる、アルフレッド様の大腰筋!」

「あの逞しい大胸筋と上腕二頭筋に、一度でいいのでいだかれたいものです……!」

 約二名、筋肉フェチが混ざっているようだが、そこはさすが脳筋キャラのファンだと言う他ない。

 集まってきた令嬢たちは、ラシェルから何か聞き出したかった訳ではなく、いきなり現れた眼福キャラたちのご尊顔を拝めて感謝の意を表しに来た……のでもなく、自分たちが如何に彼らを崇め奉っているかを競い合っているようですらあった。

 尚も盛り上がるクラスメイト達に作り笑いを浮かべた後、ローレンスから手渡された小袋に目を落として溜息を一つ吐いたところで、三限目の予鈴が鳴った。


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