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デブスの没落貴族に転生したら、やっぱり成金ブサメンと政略結婚する流れになった  作者: o槻i
開闢編

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31/73

31.スイッチ


 その夜、ラシェルは入浴を済ませた後、所謂ルームウェアのようなワンピースに薄手の羽織を重ねてディルクの部屋を訪ねた。

「どうぞ」

 ノックの後、ドアからひょっこり顔だけ覗かせると、彼もまた入浴を済ませたのだろう、ナイトウェアに身を包み、カーディガンを羽織った出で立ちで書棚の前に佇む姿が目に入った。本に目を落としたままの彼を視界の端に、ラシェルは中に入って部屋を一周ぐるりと見渡す。広さこそ違えど、実家の離れの書斎と殆ど同じ内観に、小さいながらも湯浴みが出来るスペースまで設けてあった。異国文化と言うべきか、貴族との生活様式の違いか、はてまたディルクの個人的な好みの問題か。アウローテではかなり異質な間取りだが、前世を知るラシェルにとっては、まるで一人暮らしをしている兄の部屋を訪れた時のような既視感を覚えてクスリと笑みが零れた。その声に気付いて顔を上げたディルクが、ラシェルの姿を見止めた途端、顔を赤らめて驚きどうした、と訊いてくる。

「こんな時間に、何か用か?」

「うん。少しでも仕事の手伝いが出来ないかと思って……。けどもう、もしかして寝るところだったかしら」

「いや……だが、こんな時間に二人きりというのは……」

「じゃあ、ニーナを呼んできましょうか?」

「それは遠慮させてくれ」

 こめかみに手を当て、苦虫を噛み潰したような顔で答える。

 始業式の前日に王都の屋敷へ戻ってからというもの、ニーナはランドルから何を吹き込まれたのか、やたらとディルクにニヤニヤした表情で絡んでいた。詳しいことは聞いても答えてくれなかったので分からないが、鬱陶し気にディルクが彼女を払い除けるも、ことあるごとに揶揄っている様子だった。今夜もディルクの部屋に行くと彼女に告げたら、てっきり付いて行くと言い出すと思っていたのに、いってらっしゃいませと笑顔で手を振られた。ちょっと不可解。

「そうだ、これ……」

 早速、彼の執務机の整理から始めようと手を伸ばした矢先、ディルクが思い出したかのように棚の引き出しから何やら取り出す。掌に載るサイズの、小さな木箱を渡された。

「なぁに?」

「こないだの人が足りないって時に、世話になったからって。ランドルから」

「ああ。そんな、別にいいのに……」

 遠い異国の地に来て、困った時はお互い様だ。こんなものを頂いて、かえって気を使わせて悪かったかなとも思う。

「貰えるモンはもらっとけ。あいつ割とケチだから」

「うん……」

 今更返すこともできないし、ラシェルは好意を素直に受け取ることにした。

「素敵……!」

 箱を開けると、木彫りの髪飾りが一つ入っていた。小振りながらバレッタになっていて、細かい彫とビジューがあしらわれた上品なデザインに、ラシェルは一目で気に入る。

「店に並んでるものなら何でもいいと言われたから、俺が適当に選んでおいた」

 裏返してみたり、ピン止めを外してみたりと興味津々に眺めては試してみるラシェルの隣で、「お前に任せて大豆だの塩だの、また何かしら原材料を言われても困るからな。ちっとも礼をした気にならないし」と、いつかのプレゼントのことを愚痴られる。割と根に持つタイプだったのねと、ラシェルは一応謝っておいた。

「直接、お店に行ったの?」

「ああ。今日、学校帰りに寄ってみたんだ」

「私も行きたかったなぁ」

「今週末プレオープンと言っていたから、ニーナと覗いてみたらどうだ?」

 上京する直前、ピートと南部のペリドール村を訪れたラシェルは米の収穫を九月半ば以降と確認し、この週末は王都で過ごすことにしていた。

「そうしてみる。ふふ、これ明日、早速学校に付けていこうかな」

 過度な装飾品は禁止されているが、この程度の髪飾りなら付けて登校している生徒も多い。

「お前、折角綺麗な髪してるのに、飾りっ気ないもんな……」

 言って、ディルクは不意にラシェルの髪に手を伸ばすと、そこから一房掬い上げて指を絡ませた。

 部屋の灯りだけではただのアッシュブロンドだが、触り心地もラシェル自身が手持ち無沙汰に弄って玩ぶことがあるくらい、ふんわりと滑らかで気持ちいい。自分の体の中で唯一、誇れるのがこの髪だった。

 熱心にラシェルの髪を鋤いては弄るディルクの長い指が、時折頭皮に触れる。その度、くすぐったいような少し痺れた感覚が全身を奔り、ラシェルは目を瞑って体を震わせた。

 ふと気付くと、ディルクがラシェルの髪から手を放した状態で、動く気配がない。不思議に思い、おずおずと瞼を開けてラシェルがゆっくり見上げてみると、直立不動にこちらを見つめ、顔を赤らめる彼と目が合った。咄嗟に二人、弾かれたように距離を取る。

「す、すまない」

「わ、私も、ごめんなさい」

 お互い、何が悪いのか分からないが取り敢えず謝る。心臓が煩いほどバクバク鳴った。

「今日の仕事はもう済ませてあるから、明日また頼む」

「うん……」

 頷き、ラシェルは逃げるようにディルクの部屋を後にした。

 何だろう。何なんだろう…………。

 怒っているわけでもないのに、頭に血が上る。全身、湯気が出そうなくらい熱かった。


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