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デブスの没落貴族に転生したら、やっぱり成金ブサメンと政略結婚する流れになった  作者: o槻i
開闢編

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28.登校日の午後


 登校日とはいえ、学院は午後の授業も一応組まれていた。

 昼休み、ディルクからは学食で食べたらいいと言われていたが、カロリーのことも考えてラシェルはこの日もお弁当を持参していた。

 いつもは中庭で一人食べるのだが、流石に王都の炎天下は厳しく、風通しの良い日陰を探して校舎裏まで足を延ばす。一面、季節の花が咲く野原になっていたが、小高い丘の上に一本の大樹が葉を広げて木陰を作っていた。近くに誰もいないことを確認すると、ラシェルはその木の下に腰を落ち着け、お弁当を広げる。景色も良く、いい場所を見つけたと一人ほくそ笑んだ。

 料理長に用意してもらったサンドイッチを頬張りながら、樹の幹に体を預けると涼やかな風がラシェルの髪を靡かせる。気持ち良かった。

「くちっ」

 ラシェルが寛いでいると、突然どこかから空気が破裂するような音がした。驚いて咄嗟に周りを見渡したけれど、やはり誰もいない。

「くしゅっ…………へくしゅっ」

 今度こそ、誰かのくしゃみと認識して耳を聳てる。うーん、と伸びをする声が後ろからした気がして樹の裏側へ廻ると、昼寝から目を覚ましたらしき少年と目が合った。

「美味しそうなサンドイッチですね。昼食ですか?」

 開口一番、左手に持ったままだったランチボックスを指され、無邪気に訊かれた。ラシェルは戸惑いを隠せぬまま動揺するが、一応頷く。

「え、ええ……」

 ラシェルより年下に見えるが、学院にいるということは少なくとも同い年か。クラスが違うと交流も殆どないので、詳しいことは分からなかった。

「……よろしければ、お一つどうぞ」

「わぁ、ありがとう」

 顔を綻ばせて喜ぶ少年にラシェルも釣られて、つい微笑む。

 色とりどりのサンドイッチを興味津々に覗き込み、選んでいる彼の姿をラシェルはまじまじと見つめて、やはり見覚えがないことを確認する。ラシェルと同じく開いているのか開いてないのか分からないほど細い糸目に雀斑、薄い唇。大きなお腹で、背はラシェルより十センチ程高いが、男性としてはかなり低い。それが更に彼を幼い印象に見せた。

「私はラシェルと申します。お名前をお伺いしても?」

「デュランです。この丘には、よく来られるんですか?」

 ラシェルは首を横に振って応えた。

「いいえ、初めてです。けど、とても素敵な場所ですね」

「僕のお気に入りの昼寝場所です」

「よろしければ、これからは私もこちらでお昼をいただくようにしても構わないかしら」

「ふふ。僕のものじゃないですし、こちらこそ是非ご一緒させてください」

 人懐っこい喋り方と表情で、和む。

 傍から見れば、丘の上に球体が二つ並んでさぞ滑稽だろうが、ラシェルは彼との会話に癒される心地がした。姿形が似ている者同士の連帯感とでもいうのだろうか。気付けばディルクとの婚約の経緯や、デュランの初恋で片想いの話まで互いにしていた。

「バラのような絢爛豪華な華やかさはないけれど、菫の花が似合う、心根のとても綺麗な女性なんだ。僕は少しでもその人の力になりたくて、こうして学院で色々と学んでるってわけ」

「けど、他に好きな殿方がいる女性のことを好きになるなんて、切ないわね」

 幼馴染みで、一つ年上の女性に叶わぬ恋心を幼少期から抱いているデュランの話に、ラシェルも胸を焦がされる。

「そうかな。僕は別にこの状況を悲観してはいないよ。何があっても、僕が彼女を思う気持ちは変わらないから。但し、彼女を傷つける人間がいたら、喩え身内だろうと容赦はしないけどね」

 穏やかな彼から突如として物騒な言葉が飛び出し、ラシェルは一瞬目を瞠る。けれどその分だけ、彼女に対する真っ直ぐで純粋な気持ちが滲み出ているような気がして、見た目は幼い印象だがしっかり男の子なんだなと、寧ろラシェルは好感が持てた。

「僕、こう見えて実は結構人見知りなんだけどなぁ。なのにラシェルちゃんとなら何でも話せるから不思議」

「私もよ。他の貴族の方とは話題が合わなくて、いつも一人だったからデュラン君とこうして話ができて嬉しいわ」

 普段、ちょっと恥ずかしくて口に出せないような会話の内容も、彼になら自然と話すことが出来て、何だか心が洗われるようだった。それは彼も同じだったようで、また新学期にここで昼休みに会うことを約束し、デュランと名乗る少年と別れた。


 放課後、ラシェルはディルクと共に生徒会室へ向かっていた。

 アウローテ国立貴族学院に入学した者は全員生徒会へ入ることが義務付けられているが、編入の際は直接本人が生徒会室に出向き、生徒会への入会届を提出することになっている。

 生徒会室の重厚な扉を前に、ラシェルは今朝方感じた緊張とは別の意味で高鳴る胸を押さえ、ノックした。ややあって、どうぞと入室の許可を得る。

 扉を開けて中に入ると、さながらサロンの雰囲気そのままにティータイムの真っ最中だった。

 お決りだが、生徒会執行部メンバーはイコール攻略キャラと主要キャラクターだ。生徒会長に第二王子、副会長は双子兄、会計が弟で文化部長に司祭長男、体育部長が脳筋の騎士団長息子で、そして事業部長兼書記にレイラが就いている。来年秋にリサが編入してきたら、書記は彼女が担当することになるはずだ。

 気配り上手なレイラがラシェルに気付いて会釈する。ラシェルもそれに倣い、一礼して返した。

「アンリとアルフレッドはスコーンでよかったかしら」

「私はカップケーキを」

「レイラ、お砂糖は二つだったよね」

 華やかなメンバー達が繰り広げるお茶会を目の当たりに、それだけでラシェルは胸が一杯になる。

 目の保養。眼福そのもの。

 夢にまで見たキラキラの攻略キャラ達が、当然ながらフルボイスで日常会話に興じているのだ。こんな光景、もう二度とお目にかかれないと鼻血モノで卒倒しそうになるのをこらえながら、貴重な姿の数々を目に焼き付けようと、ラシェルは穴が開くほどその様子を見つめまくった。

 他のメンバーがお茶を楽しむ中、失礼、と生徒会長の第二王子が席を外し、副会長がそれに続く。

「付き添いの君は、ソファで寛いでいてくれて構わない」

「はい……」

 副会長のクロードがソファに腰掛けるようラシェルを促す。その間に王子は会長机の引き出しから用紙を一枚取り出すと、ディルクに手渡しサインを求めた。

「目を通したら、ここと、ここの二カ所にサインを」

 金髪碧眼の美しい顔立ちから、ゲームのシナリオ通りの台詞がまろび出る。プレイ中、液晶画面を眺めながら幾度となく美形だなぁと散々溜息を吐いてきたが、実際に見る王子は男性であることを疑いたくなるほど圧倒的なまでに美しい容貌をしていた。歌うような美声にも、ついうっとりと聴き入りたくなる。

 ディルクが記名した物をクロードが受け取ると、会長の椅子に腰掛けた王子はディルクを見上げて鷹揚な笑みを浮かべた。

「国が違えば、言葉はもちろん生活様式も随分違うだろう。何か困ったことがあれば、何でも言ってくれ」

 如何にも生徒会執行部らしい社交辞令を、会長のお言葉として傍に控えるクロードが述べて、それで入会の儀は終了した。

 生徒会室を後にし、二人は帰りの馬車へと向かう。

 ほんの五分にも満たない時間だったが、至福の経験にラシェルは陶然と溜息を吐いた。

 そんなラシェルを冷ややかに見る視線に気が付き、ラシェルはハッとディルクを顧みて漸く我に帰る。プイ、とディルクが不機嫌そうに態と視線を反らした。

 思わず作品の一ファンとしての血が騒ぎ、我を忘れてしまっていた。

 もちろん、攻略キャラ達に恋心を抱くとか、あまつさえ取って喰おうみたいな、そんなコトを考えていたワケではない。こうしてお近づきになれる機会すら金輪際皆無だろうから、冥土の土産にこの思い出を脳裏に焼き付けておきたかった。そんなファンのささやかな望みくらい許してくれたって良いじゃないかと、唇を尖らせて思う。いや、別に今すぐ死ぬわけではないけども。

 そりゃあ、まだディルクには余所見するなと言ったまま、ラシェルの方だけ奔放に目移りする姿を見せつけられたら理不尽に思う気持ちも解らなくはないが、そこはほら、やっぱり男女の差というか、何と言うか…………いや、ここでどんなに言い繕っても詭弁か。独り善がりの言い訳でしかないと、冷静さを取り戻す。

 これはなるべく早急に前言撤回の案を示しておかなければ、彼の不平を買っても致し方ないと、改めてラシェルは心に留めた。


 王都の屋敷に戻ると、ランドルが応接間でディルクの帰りを待っていた。今日の送迎は御者のみでいいと断っていたため屋敷に残っていたニーナも、ランドルの傍で心配そうな顔をして寄り添っている。

「ごきげんよう、ランドル。ニーナもどうしたの?」

 昨日に続いての訪問に、ディルクも怪訝な顔つきでランドルを見た。

「何度もごめんね。ディルク、実は折り入って頼みがあるんだけど」

「どうした」

「実は、海が時化て店の立ち上げに応援で入るはずのメンバーがまだ暫く来られないそうなんだ。悪いんだけど、君のところの使用人で使えそうな人材を二~三貸してもらえないか」

 彼にしては珍しく弱りきった表情で頼み込む。

「うーん……、それは確かに大変な状況だとは思うが……」

 ディルクとしても、新学期が始まるまでに新人教育をはじめ、色々と予定を入れていたようだ。渋面を滲ませ、言い淀む。

「ねぇ、ディルク。私たちはもうこれで領に戻るし、ニーナに加えてあと一人くらいなら何とかならないかしら。王都の皆は、今度私たちが上京する時までに体制が間に合えば、それでいいじゃない」

「いや、ニーナにはこれから領地でも君のサポートをするという重要な役目が……」

「私なら大丈夫。今までだってそうだったわけだし、お父様には私の方から上手く言っておくわ」

「いや、それは……」

 ディルクは幾つかの案を頭の中で逡巡させた後、悪いな、と続けた。

「ブリアック公には俺の方からきちんと断っておく。今回は君の好意に甘えさせてもらうよ」

「ありがとう、ラシェル……!」

 彼と気持ちを同じくさせていたのだろう、ランドルの代わりにニーナが真っ先に礼を言う。

「あと一人で良ければ、執事に言えば何とか融通できるはずだ」

「助かるよ~」

 半分涙目で、ランドルが心底ホッとした表情を浮かべて頭を下げた。


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