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2.覚醒

前話と同じくお決りの展開なので、後書きに概要を纏めています。


 舞踏会、当夜。

 会場前には絢爛豪華な各参加者の馬車が連なり、次々と会場へ吸い込まれていく。

 定刻より随分早く到着していたラシェルは控室の隅で、次々と入って来る同世代の参加者達を横目に身が竦む思いで一人、佇んでいた。

 会場に着く、ほんの数分前まで、こんな気持に見舞われることなど予想だにしていなかった。

 この日のために父が新調してくれた可愛らしい馬車も、僅かだが体のラインを出すことに成功した真新しいドレスも、選ばれた者にのみ届くという特権階級の証たるティアラも。

 そのどれもがラシェルにとって特別で、贅沢で、お姫様にでもなった気分だった。

 だがしかし、いざ会場に着いてみれば、ティアラこそ皆同じものの、身に着けているドレスの生地も、ポーチも、ハイヒールも、流行のメイクも香水も、周りは女性なら一目でハイブランドの一級品と分かるものばかり。馬車だって、ラシェルが乗ってきたものより軽く1.5倍はあるキャリッジが通りいっぱい、ずらりと並んでいた。はては中で控える侍女、侍従までもが見目良く、若く、品がいい。

 指先まで嫋やかな仕草、気品溢れる佇まい、教養の滲み出る会話は、それこそ男女問わずだ。外見も中身も、ハイグレードな令息令嬢ばかりだった。

 翻って自分はといえば、丸々と太った体に貧乏と田舎臭さが染みついた身なりで、ここにいる人たちと比べればセンスのかけらもない。自分は精一杯背伸びをして、やっとこの場に立っているというのに、ここにいる人たちは息を吸うように贅の限りを尽くしている。

 圧倒的な血統と家柄、羽振りの良さに、肩身の狭い思いがした。つい先ほどまでお姫様だと舞い上がっていた自分が、いかに世間知らずで身の程知らずか思い知らされる。惨めだった。

 こんな人たちに囲まれて、来月から三年間、学舎を同じくしなければいけないのか――――!

 ラシェルは途端、言いようのない不安に見舞われた。

 今回の舞踏会は社交界デビューが一番の目的だが、もう一つ、目的があった。

 それは、この春より通うことが義務付けられているアウローテ国立貴族学院入学に備えての顔合わせだ。

 アウローテ国立貴族学院の設立目的は、次期領主として必要な領地経営の基本的なノウハウや、貴族として最低限共有すべき教養、封建制度の成り立ち等を学ぶことにある。入学資格は全貴族の子女にあるが、領土を賜る家の第一子は義務教育として課され、二子以降は任意での入学となっている。

 本音と建前が交錯し、互いの腹を探り合う貴族社会において、同じ年代の者同士、比較的平等な環境で各々が目的を一にして学業に励み、互いに研鑽し合う環境は、その後の領地経営に多大な恩恵をもたらすであろうという建学の精神だ。とはいえ内情は、そこで得たコネクションや情報を、その後の派閥争いに発展させる温床となっているのが現実だが。

 もちろん、同じ世代の男女が集まれば、自然、自由恋愛へと発展する場にもなりうる。政略結婚よりも恋愛結婚が良しとされるこの国で、学院はまさしく社交場だった。

 そう。つまり、父の願いはこうだ。

 フィリドール家の一粒種であるラシェルには良い環境で、良い仲間に囲まれ、きちんとした知識と教養を身につけてもらいたい。そのために払う高い学費と下宿代が、自分たちの生活を圧迫しようと構いはしない。またそのような学び舎で青春を謳歌し、恋愛結婚に結び付いてくれれば、娘にとってこれほどの幸せはないだろう、と。

 通常、この舞踏会で一足先に顔見知りになっておくということは一つのステータスであり、学園内での人間関係をスムーズに進められるアドバンテージにもなる。

 けれど今のラシェルには、顔見知りどころかまともに彼らの顔すら見れず、俯き、身を竦めることしかできなかった。場違い、という言葉が、頭の中を占領する。

 親が子を思う気持ちは尊い。それを否定するつもりもない。

 がしかし、その一存だけで、子を分不相応な環境におくことほど、双方にとって不幸なことはない。

 子どもに夢や希望を説くことは大切だが、親がそれに溺れてはならない。現実に即した身分相応という感性を子に教え与えることも、親の立派な務めだ。

「貴女が、ラシェル・デュ・フィリドール?」

 不意にラシェルの頭上から、麗し気な令嬢たちの中でもひときわ豪奢な響きを持つ声が降ってきた。

 恐る恐る目を遣ると、そこには清淑ながらも驕傲な雰囲気を纏う令嬢が一人、腕を組みながら斜に構えて立っていた。

 やや吊り気味な菫色の瞳。プライドの高さを示すように少し上を向いた鼻。薄い唇。そしてプラチナに輝くストレートヘア。

 何よりその高飛車な相貌には、見覚えがあった。

「レイラ……?!」

 ラシェルは思わず指をさし、驚愕の表情で目を瞠る。

 初対面で身分差もある相手から呼び捨てられたことで、レイラは一瞬、表情を曇らせた。何をか言わんと彼女が口を開きかけたその時、背後からどよめきが起こる。

 顧みた部屋の入り口から、一人の美少女が中に入って来る様子がラシェルの目に映った。

 眩いばかりの艶やかな髪はハニーブロンド。長身にピッタリの、純白のイブニングドレス。鼻筋が通った、端正な顔立ちにスカイブルーの瞳。その長い睫が伏し目がちに愁いを帯びた眼差しを向ければ、誰もが息を呑む。華麗に着飾るも、さながらレイラは太陰と喩えるに留まるが、目の前の彼女はまさしく太陽のようであった。夜は更けているというのに、後光を放つかのような目も眩む美しさに、見る者全てが圧倒される。

 そして、それはラシェルも同様で…………否、決して、同じではなかった。

 ――――そう、あれは…………!

 十年前に、どハマりして何周も何周も攻略しまくった乙女ゲーム…………『天蓋の虹』主人公の――――……

「リサ・ドゥ・ポーシャール……――――!」



*** 二話概要 ***


社交界デビューの舞踏会にて、

前世でプレイしていた乙女ゲーム『天蓋の虹』

主人公のリサ・ドゥ・ポーシャール辺境伯令嬢(絶世の美女)と

悪役令嬢のレイラ・デュ・モーリアック公爵令嬢(やや器量は劣るが超セレブ)に会い、

前世の記憶を思い出す。

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