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プロローグ

「はぁぁぁぁぁ」

長すぎる溜め息をつく女神、の前に正座をさせられる俺。

腰辺りまである白銀の髪を揺らし、体のラインが強調された白色のドレスを身にまとった女神は、俺の周りに円を描くように歩いていらっしゃる。


俺、浅井冬生(ふゆき)は勇者として異世界にやってきて、まだ半年も経っていないが、すでに両手両足の指の数では足りないほど、ここ女神のいる間に死者として訪れていた。


「木箱に右足の小指をぶつけて死んだ勇者なんて、聞いたことがないわ」

「ごもっともです」

「私が此処に貴方を呼ばなかったら、村の人たち全員に笑われていたでしょうね」

スゥ、とパネルが俺の前に現れる。

そこに映っているのは、ほんの3分ほど前の自分の姿だった。

タージャ村で子どもたちと鬼ごっこをしていた俺は、市場に並べられていた木箱に足を、正確に言うと右足の小指をぶつけてそのまま地面に倒れた。

追いかけていた子どもが俺の姿を見つけた直後、死体はすぐさま天に吸収されてしまう。


その一部始終映像を見終えた女神は、もう一度大きな溜め息をついて俺の前で足を止めた。

「いま、99回目だから」

ふん、と大きな鼻息を鳴らして俺を見下す、青い瞳。

女神の言う数字になんのことだ? と首を傾げれば、ズイっと顔を近づけてきた。

そして、やれやれと言わんばかりの表情で、親指と中指をパチンと鳴らす。

その合図により女神と俺のいる空間に、俺のありとあらゆる死亡シーンが99枚のパネルに映し出されているではないか。

「あっ! あれはマジで痛かったんだよな」

俺の目に飛び込んできたのは、勇者になったばかりの俺が初めて魔物に出くわした時のパネルだ。

見るからに硬そうなこん棒を振り回している魔物と目があった瞬間、俺は殺されてしまうと本能で読み取った。あんな物で殴られれば痛いだろうし、きっと餌にされてしまう。

そう思った俺は瞬時に、足の向きを変えて走りだそうとした。

だが、道端にあった小さな石に爪先が引っ掛かった勢いで地面に顔からダイブしてしまったのだ。

そう、あれは本当に痛かった。

「貴方が死んだ回数、そして私が貴方を蘇らせた回数が99回」

聞いてるの? と俺の初めての死亡映像パネルは女神に弾かれてしまう。

「貴方は勇者としてこの世界に来たみたいだけど、勇者として死んだ時はあったかしら」

毎度ここに来ると女神の機嫌が直るまで、こうして正座をさせられてネチネチと俺への小言を聞かされているが、今日はやけに長い。

俺の足の痺れも限界が近づいている。


でも、俺の目の前で誰もが見惚れてしまうほど美しい女神の頬を膨らませた顔が見れるのだから、まぁこの場は何も言わずにそっとしておこう。

まして、99回目であっても。

この怒った女神の顔を見飽きていたとしても。


「だから、決めたの」

透き通った真っ白な人差し指が、俺の鼻頭の上に乗せられる。

「100回目で私は貴方を蘇生することをやめるわ」

「……ナント?」

女神の指先から匂う甘いお菓子の香りに意識を持っていかれていたせいで、女神の台詞を聞き流してしまった。

「だから、次で貴方の蘇生をやめます」

「え?」


99回死んだ俺は、突然女神から余命宣告を言い渡されてしまった。

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