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事案発生


★第33話目


帝国の地方領主、アール・ピッケンズ男爵は当初、その報告を信用しなかった。

曰く、伝説の大魔王が甦った、と。

そもそも、そんな伝説すら知らないのだから当たり前だ。

だがやがて、帝國の第3王女にして勇者の称号と帝国の戦姫と言う通り名を得ているチェイム姫が、その大魔王に破れ囚われの身となったとの噂を聞き訝しんでいると、今度は村を追われた領民が大挙して助けを請うて来た時、それは確信に変わった。

大魔王、ジンダイン・コーイチ。

人の姿をした暗黒を司る地獄の大帝。

黒猫と妖しき少女を連れてさ迷う悪魔の化身。

凶悪なゴブリンたちの王。

家を失った人々は、口々にそう罵った。

男爵は私兵を派遣した。

重装騎兵30騎に、槍兵・弓兵を各50名。

いさかか大袈裟ではあったが、憤懣やる方ない領民の気持ちを考えれば仕方の無い事だった。

爽やかな秋晴れの下、陽光に反射する鎧を胸に、兵たちは城門をくぐって行く。

そして……彼らは二度と戻って来なかったのだった。



占拠した村の中央で、俺達はくつろいでいた。

数日前に宣戦を布告した時から、こそ泥集団から強盗集団にレベルアップし、これで近隣の3つの村を占拠した。

順調な滑り出しだ。

見ると周りには、アヒルやら猫やらが屯している。

反抗的な村人や、救援に駆けつけて来た兵士達の慣れの果てだ。


「まぁねぇ……さすがの俺様とて、やっぱ殺しだけはどうもねぇ……」

そう独りごちりながら、練習がてらに剣を振る。

とは言え、そうとは知らない小動物達を、ゴブンリン達が食料として狩っているのを特に止める気は無いがね。

自業自得ってヤツだ。

もちろん、俺は食わんが。

「……なぁ黒兵衛」


「ん、なんや?」

空き家の片隅でゴロンと転がり、ポカポカ陽気にうつらうつらしていた黒兵衛は、目を瞑ったまま返事をした。


「あのさぁ、僕チン……何か変わった所とか、無いか?」


「あん?何や藪から棒に。言うてる意味が分からへんで?」


「だから、なんちゅうかさぁ……このチートアイテム的な剣を使ってさ、俺は魔法を使ってるんだけど……なにか代償とか払わなくて良いのかな、とな。例えば、使えば使うほど獣に近付いているとか、身長が3センチずつ削られて行くとか、はたまた寿命が100日ずつ縮まって行くとか……そーゆー副作用って言うの?それを考えると、色々と不安ですたい」


「……ふむ……せやな。確かに、事象には作用に対して反作用があるさかいな」

う~と前足を踏ん張り、伸びを一回。

そのまま黒兵衛は前足をペロペロ舐めながら、

「その剣で、素人のお前じゃ到底扱えんほどの高度な魔法を使ってるんや。何かしらの負荷が掛かって来るのは当然なんやが……何か体に不調とかはあるんか?」


「いや、何も無い。だからこそ、余計に不安なんじゃが……」


「今はお試し期間やないか?」


「あるのか、そんなモンが?」


「冗談や。せやけど、徐々に蓄積してって最後にボーンってのも考えられるやん」


「……むぅ」


「まぁ、心配なら、その剣の使用は極力抑えた方がエエな。必要最低限にしとくんや。自分の肉体的にもそうやけど、この世界の因果律を刺激せん為にもな」


「でもさ、この剣がないと、僕チンただの馬鹿高校生ですよ?その辺のゴブリンとタイマン張ったらガチで泣かされるかも知れん。そんなしょんぼり大魔王ですよ」


「その辺は、色々と演技でカバーするんやな」

黒兵衛はそう素っ気無く言うと、再びゴロンと転がった。

「しっかし洸一……実際問題、これからどないすんねん?」


「どないするって言われてもなぁ……まぁ、ホリーホック達に付き合いながら、まどか達を探すしかないだろうなぁ」


「随分と悠長やが、それしかあらへんな」


「とは言え、時間的余裕が無いのもまた事実だ。俺様大魔王の登場が、この世界にどんな影響を与えているか……そっち方面も心配だよ」


「時間を掛ければその分、因果に与える影響も大きゅうなるってか。せやな」


「魔法に関すること。この次元世界へのこと。まどか達のこと。そしてホリーホックのこと。色々と考えるだけで、ネガティブな気分になってくるよ。とは言え、関わっちまったからには、納得するまで付き合いたいしねぇ」

俺はそう言って何気に辺りを見渡す。

ゴブリンやオーク達が、楽しげに笑いながら武器の手入れをしている。

ホリーホックは、無人となった家から食材を運び出し、非戦闘員(ゴブリン達の家族)と共に、何やら鼻歌混じりに昼食の準備をしていた。

とても、魔王なんかには見えない。

そう、彼女は心優しい、人間の女の子なのだ。

世が世なら、彼女はこの世界で一国の姫様なのだ。

願わくば……

俺がこの世界から消える時、彼女は普通の女の子としての幸せを掴んでいると良いなぁ……



「報告は無いか?」

アール・ピッケンズ男爵は、執事に尋ねた。

その双眸は暗く沈んでいる。

「御座いません」

初老の執事は、溜息を吐きながらそう答えた。

既に討伐隊が出発してから丸一日が経っていたが、未だ何の連絡もない。

「……仕方ない」

男爵は呟く。

「街道の通行を規制し、厳戒体勢を敷け。それと帝都に連絡。恐るべき大魔王が復活し、我が拝地に進行中。至急、来援を乞う。責任は……全て第3王女であるチェイム姫にあり、とな」



ホリーホック達の作った非常に美味い昼食を食べた後、俺は村長の家を司令部として主だった者を集め、最高幹部会議を開いていた。

ちなみにホリーホックは魔王で元王族の姫様なのに、何故か家庭的な料理を作るのが上手なのだ。


「さて、腹も膨れたし……ボチボチと今後の方針について、検討してみますか」

6人掛けのテーブルの中央に陣取った俺は、ザッとみんなを見渡し、そう口を開いた。

向かって右から、ホリーホック(魔王)、ミトナットウ(茨城弁のゴブリン)、長老(歳老いたオーク)、黒兵衛ペットが座っている。

ちなみにミトナットウと長老は、俺が付けたコードネームだ。


「こ、今後の方針……と言いますと?」

ホリーホックが、相変わらず敬愛に満ちた瞳で尋ねてきた。

そんな真摯な目で見つめられると、洸一チンとしては実に面映い。


「うむ。なんちゅうか……はっきり言って、世界征服は無理だ」

俺はキッパリとそう断言すると、黒兵衛はフムフムと頷き、長老は耳が遠いのか「はぁ?」と言った顔をし、ミトナットウは「ホフゥ」と胸を撫で下ろし、ホリーホックは「ムキィーーーッ!?」とテンパった。


「な、何故ですか大魔王様ッ!!」


「い、いや…何故と言われても……」

うむぅ……ホリーホックはお茶目で可愛いんだけど、ちょいと痛い所があるんだよなぁ。

「つ、つまり……その……ぶっちゃけ、戦力が足らんからだ」

3つの村を占拠した時点で、食料と軍資金は調達できた。

しかし、戦力は以前のままだ。

そもそも、人間の乱獲(?)によって、モンスターの数は限りなく天然記念物状態だから、一挙に増え様筈が無い。

現時点での大魔王洸一愚連隊の総戦力は……

大魔王1人

魔王1人

使い魔1匹

ゴブリン遊撃隊78匹

オーク突撃隊36匹

コボルト槍弓兵54匹

その他モンスター約50匹

非戦闘員約500匹

戦闘に参加できるのは200匹ちょっとしかいないのだ。

しかもホリーホックを除けば、全てが戦闘に関して素人ばかり。

あまつさえ雑魚キャラ。

せいぜいLV3クラスの戦士と互角に闘えるかどうかの、花巻村一揆衆なのだ。


「せ、戦力が足らないからって……そこは気力でカバーするんですッ!!」

旧帝國陸軍のような事をのたまうホリーホック。

洸一、実にションボリである。


が、頑張り屋さんなのは結構なんだが、もう少し現実を見て欲しいにゃあ……

「あ~……ホリーホックの言いたい事も分かるが……」

俺はポリポリと頭を掻きながら、チラリと黒兵衛に目配せした。

使い魔の駄猫はテーブルの上で軽く背を伸ばしながら、

「確かにや、ワテや洸一がその気になれば、世界の征服なんて簡単な事や。せやけどな」

そこでフゥ~と大きく溜息を吐き、前足の爪をガリガリと研ぎながら、

「問題はや、占拠した地域を維持できるかどうか、って事なんや」


「維持……ですか?」


「せや。いくら支配地域を増やしたかて、それを維持出来な何の意味もあらへんやろ?ワシ等の戦力はたかが1個中隊程度や。しかも個々の力では到底人間には敵わんし、数も少ない。そんな状況で世界征服なんて、出来るワケあらへんやろ?」


「で、でもですねぇ……大魔王様がいらっしゃれば、人間如き、容易く支配出来ると思うのですが……」


「むぅ……そりゃそうだが……」

俺は呟きながら黒兵衛と顔を見合わした。

確かに、圧倒的力を見せつけ、恐怖で縛れば反抗する気は失せると思うが……俺はいつまでも、この世界に居るわけではないのだぞ。


「あ、それとも……いっその事、人間どもを根絶やしにするのはどうですか?」

ニッコニッコと笑顔で恐ろしい事をのたまうホリーホック。

もちろん、目はマジだ。

「もしくは家畜化すれば良いんです。従順な者だけ選別し、後は全て処理すれば……」


「あ~……うん、さすがにそれは……ちょっとな。例えば俺がちょび髭の偉大な独裁者だったら、問答無用で特定人種を根絶やしにしていたんじゃが……俺は居たって普通の大魔王(?)だし……それにさ、中には善良な人達もいるわけで……」


「そ、その通りだっぺ」

ミトナットウが頷く。

「魔王様……魔王様の気持ちも分からんではないんだども、大魔王様は、特殊な性癖を持っているんだっぺ。だから小さい女の子は殺さないと……」


「ド、ドアホッ!!」

俺は叫んだ。


――話は数時間前に遡る……


俺は魔法の刀、羅洸剣の力を使い、この村に雷と大風を巻き起こしながら侵攻した。

もちろん、反抗の意を示す警備隊や村の青年団などには、変化の魔法にて無害な動物に変わってもらった。

アヒルとかウサギにね。

そして何の障害も無く、配下のモンスターを引き連れて威風堂々と占拠した村を巡回していたのだが……

「ゆ……優ちゃん」

目の前に飛び出してきた村の女の子に、俺は一瞬、自分の目を疑ってしまった。

そう……その少女は優ちゃん……熱血風味満載の格闘馬鹿一代の後輩である葉室優貴ちゃんにソックリ……いや、彼女そのものだったのだ。

「ゆ、優ちゃん……」

俺はもう一度呟くと、そっとその少女に近付いた。

彼女は恐怖の為か、ガタガタと震えながら一歩も動かずに、ジッと俺を見つめている。


ま、間違いない。あの目、あの髪、あの時あの場所で……ゆ、優ちゃんだ。彼女は優ちゃんだ。

だが、

「お、おいおい洸一。ちょいと待ったれや」

黒兵衛がスタッと、俺と彼女の間に割って入って来た。

「自分、よう考えて行動せなアカンで?」


「ど、どーゆー意味だ?や、やっと……やっと優ちゃんを見つけたんだぞッ!!」


「ハァ~……」

ヤレヤレと言った感じの溜息。

「姿形が似ているだけで、本人と決めつけるのはどうかと言うとるや」


「……むぅ」

た、確かに……黒兵衛の言う通りだ。

グライアイも、姿に惑わされるな的な事を言ってたが……

「で、でも、どっから見ても優ちゃん」


「……せやな」

黒兵衛は目を細め、その娘を見つめながら呟く。

「確かに自分の言う通り、葉室のスポ根姉ちゃんによう似とる。せやけどな、この嬢ちゃん……どー見ても10歳くらいにしか見えへんやないけ」


「そ、それがどーした?」

ま、まぁ、ちょいと幼いけど、愛があれば歳の差なんて関係ないのだ。


「どーしたって……洸一よぅ、自分……ロリコン大魔王って呼ばれてもエエんか?悪い事は言わん。ここは黙って見なかった事にしとけや」


「そ、それはできんッ!!万が一という可能性もあるしな!!」

俺はそう断言するや、ズイッと怯える少女の前に立った。

黒兵衛は溜息を吐き、背後のモンスター達は「だ、大魔王様は、やっぱ鬼畜だべ」とか何とかヌカしている。

誠に遺憾だ。


「あ~……お、お嬢チャン」

腰を屈めながら、その子の視線に合わせる俺。

「その、君の名前は?」


「あぅ゛…」

その少女は、恐怖の為か今にも泣き出しそうな顔でフルフルと首を横に振った。


「あ~……お、お兄ちゃんは怖くないよ。それに、後のモンスター達も、すんごく良い奴等だから……」

でも村は破壊したけどね。

「だ、だから、その……ちょっとだけ大人しくしててね」

言うや、俺は少女を軽く抱き締めた。

やってる事は、何処に出しても通報されそうな変質的行為だ。

俺の住んでいる元の世界、現代社会なら、確実に人生終了である。


む?むぅぅぅ……こ、この感じ……ちょいと違うかな?

キュッと小さな体を包むみ込むように抱き寄せ精神を集中させるが……どうも肌の感触がしっくりと来ない。

それになんちゅうか、心に触れ合うものが無いし……クンクン、匂いもちょいと違う。

どうやら黒兵衛の言う通り、姿が似ているだけであって、優ちゃんとは別人のようだ。


「あ…っと、その……ありがとう」

俺は体を離しながら笑顔でそう言うが、その少女は顔を歪めたかと思うと、

「う…うぁ~ん!!」

いきなり号泣。

慌てて宥めるも、まるで火が付いたかのように泣き止まない。

黒兵衛もゴブリン達も駆け付けるが、それは思いっきり逆効果だ。


「うぁ~んうぁ~ん!!」


「わ、悪かった。お、お兄ちゃんが全面的に悪かった」


「だ、だから言うたやないけ。このロリコンが」

黒兵衛が吐き捨てるように言うと、ミトナットウも

「だ、大魔王様。いくら何でも、年端も行かぬ女の子に……」

超蔑む視線を投げつけて来る。


「ち、違うッ!?ご、誤解だ!!」


「どこが誤解やねん。現行犯やで、自分」


「うぁ~んうぁ~ん!!」


「ト、トホホ~…」


――ま、そんな事があったのだ。


「あ~……その……なんだ、あれにはちょっとした目的があってだな、その……」


「……目的って、幼い娘に悪戯する事ですか?」

真面目な顔でホリーホック。

だけど瞳はかなり冷やかだ。


むぅぅぅ……ち、違うと言うのに……

「だ、だから、その、アレはまぁ……人探しの為と言うか……お、俺は至ってノーマルな性癖の持ち主だぞッ!!」


「と、とてもそうは見えなかっただぁ」

ミトナットウが呟くと、ウンウンと長老も頷く。


く……こ、こいつら……

「と、とにかくだッ!!俺はごく普通の青年のように、同じ年ぐらいの女の子が好きなんだッ!!だ、だから……あんな小さな女の子じゃなくて、その……恋愛対象なら、ホリーホックぐらいの女の子の方が良い」


「ほへぇ~……そうだっぺか?でも大魔王様。大魔王様は一体、幾つなんだっぺか?」


「は?俺?俺は黄金の輝きを持つ、ピチピチでプリンプリンな16歳男子だぞ。今度のバースディで17歳だ」

人生で一番華やな年頃なのだ。


「えっ?」

俺の言葉に、ホリーホックは軽く驚きの声を上げた。


「な、なんだ?何か変か?」

精神的には老けていると自分でも思うが……見た目は普通だぞ。

……多分。


「い、いえ。そのぅ……てっきり大魔王様は、二千年くらい生きてるかと……」


「……」

何故か俺はキリストとタメだった。









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