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第3羽

 マナはライに言われた通り鍵を2ヶ所閉めたあと、ごみをキッチンのごみ箱に捨ててから事務所の電気を消して自室に戻った。

 暗い部屋の中から相変わらず聞こえてくる緊急車両の音を聞きながらベッドに横になるが仮眠をしたせいか眠気は全くなかった。

 またあのドラッグのせいで人が死んだことを思いだして唇を噛んだ。クロが死んでからこのドラッグ絡みでいったい何人の犠牲者が出たのかわからない。どんな小さな犯罪も許すことはできない。兄、クロもそうだった。クロは、些細ないさかい事でも常に平等に対応していた。それが多くの人に慕われていたのだと思う。やはり、自分には兄の真似はできないのだろうか。事件に遭遇する度に自分の無力さを思い知らされる。今、自分がここにこうしていられるのも自分の力だけじゃないのも兄の偉大さを痛いほど痛感してしまう。

「兄さんならもっとうまくやれていたのかな」

そう呟くと涙がこぼれた。だが、すぐに両頬を叩き、

「弱音は吐かない」

と言って起き上がると、デスクスタンドの明かりを点けて“幸せの青い鳥(ブルーバード)”の資料のまとめに取り掛かった。

 

  報告書

 依頼人宅にて“幸せの青い鳥(ブルーバード)”常習者を発見。しかし、話を聞くことはできず常習者死亡。実物は未入手。パッケージのみ入手済。やはり、話に聞いていた通り青い鳥が描かれている。

と書き記した。


 ライは自宅に戻るとまず湯船に湯を溜めた。その間に、明日着ていくスーツとネクタイを準備しておく。湯船に湯が溜まった事を知らせるアラームが聞こえてきた。服を脱いで湯船に浸かると同時に思わず息が漏れる。目を瞑って今日起こったことを考えていた。

 あのドラッグの使用者のほとんどが飛び降りで死んだことは資料を読んで知ってはいた。死体も何度か見たことだってあったが、実際、目の当たりにしたのは初めてだった。それをマナに見せてしまったことに少し後悔してため息をついた。しかし、すんでしまったことはしょうがないと開き直って、湯船から上がり髪と体を洗う。泡を洗い流してそのまま湯を抜いて浴槽の掃除に取り掛かった。

 元来、こんなに几帳面ではないライはこの家を一応、使わせてもらっているという事を忘れてはいない。この問題が解決したら一緒に住まないまでもマナがここに戻ってくればいいと思っている。人の住まない家は朽ち果てるというからそれまでライは住み続ける覚悟だ。今度は自分が事務所に住み込むのかと失笑してしまう。

 タンクトップとスエットに着替えると目覚ましをセットして眠りについた。

 翌朝、目覚ましが鳴る前に目を覚ましたライは頭をかきながら寝ぼけ眼でキッチンに向かい珈琲を淹れると昨夜、用意していたスーツを着て煙草を吸いながら拳銃を分解し、手慣れた様子で掃除に取り掛かった。それが終わると右のホルスターに収めた。

 珈琲を一気に飲み干してジャケットを着て事務所に行く準備をした。

 煙草を吸いながら歩き、馴染みのベーカリーの前で足を止め靴の踵で煙草の火を消してそれを携帯灰皿の中にしまってから店の中に入った。

 ライはまなの好きそうな甘い新商品を見つけそれをトレイに乗せて他にはいつものクロワッサンサンドや他の物の会計を済ませて事務所に向かう。

 アトリはすでに来ていて昨日と同じように扉の前で立ち尽くしていた。

「おう。早いな」

「おはようございます」

鍵を開けて中には入るライと一緒に入っていき換気をし始めたアトリを確認するとライはマナの自室の扉を叩いた。やはり返事はなく開けて中に入っていく。

 ベッドを見てみるがマナの姿はなかった。心臓が跳ね上がり妙な胸騒ぎを覚えた。だが、その胸騒ぎは杞憂に終わった。マナはデスクで書類をまとめているうちにそのまま寝てしまったようだった。ほっと胸をなで下ろしたのも束の間、無駄な心配させるなと言う気持ちを込め、頭を小突いてマナを起こした。

「モーニング買ってきたから早く着替えてこい」

そう言って部屋から出ていった。

「珈琲淹れておきました」

「あぁ。ありがとう」

テーブルには珈琲が入ったカップが2つ並んでいて、なにも言わずにライは赤いカップの方にミルクを入れてかき混ぜた。

「あれ?ライさんのカップは青い方では?」

「そうだけど、マナはミルクの入ったやつじゃなきゃ飲めねぇから先に入れておくだけだ」

「なるほど。次からはそうしておきます。あ、室長おはようございます」

「おはよう。相変わらず早いわね」

あくびをしながら出てきたマナは、ソファーに座りライが買ってきた包みを開けて甘そうなパンを食べた。

「そう言えば室長。俺、昨日依頼人宅であのパッケージ見たんですよ」

少し興奮気味にアトリが報告するとマナは、

「知ってる」

とそっけなく言った。

 ライは、気がつかなかったと言っていたからてっきりマナも気がついてなく誉められると思っていたが予想と反したことにがっかりした。

「こいつ、証拠品黙って持ってきたんだよ」

そう言うライにマナは素知らぬ顔をしている。

「えぇ!それっていいんですか?」

「いいわけあるか」

珈琲を飲みながらライが突っ込んだ。

「顔馴染みの警部は私にとても甘いからバレたところで対して怒られない」

アトリは目で、そう言う問題でしょうか?とライを見たが、諦めろと言わんばかりにライは首を横に降った。


 それから数日経ったある日、

「ただいま戻りましたー」

いつもと変わらない調子でラスが入ってきた。後ろには泣き顔の少女が見え隠れしている。

「……ラス。誘拐は犯罪ですよ?」

マナのカップに紅茶を注いでいたアオバがラスの後ろにいた少女を見つけそう言った。

「違うよ。ビルの入り口で泣いていたから連れてきただけだよ。そのままにしておくわけにもいかないでしょ?ねぇ室長?」

「それもそうだな。まだ昼過ぎとはいえこんな小さい子が1人でいたら危険だ」

「こちらにどうぞ。すぐにココアでも淹れてきますね」

とアオバは言ってキッチンに入っていった。

 見た目、優しそうなアオバにそう言われてもラスの後ろから動こうとしない。ラスが、

「あっちに美味しそうなカップケーキあるよ。一緒に食べない?」と聞くと少女は少しだけ笑顔になってマナの向かいのソファーにラスと一緒に座った。

「熱いので気を付けてくださいね」

と言いながら、少女の目の前にココアの入ったカップが置かれた。

 カップを両手で抱えながらココアを飲む少女をよそにライとマナは、

「おい。どうするんだよ。今ごろ、親が探しているかもしれないぞ?」

「迷子になっていたから保護したと言えば問題ない」

そう耳打ちしている。

「なぜこんなところにいた?母親はどうした?」

 マナがそう聞くと、少女は体を強張らせまた泣き出してしまった。

 マナは聞いても何も答えようとしない少女を黙って見ていたが、その視線に気が付き益々、泣き声は強くなる一方だった。

「えっと。室長、しばらく自室に戻ってもらっていてもいいですか?」

とアオバが申し訳なさそうに言った。

「なっ!」

アオバにそう促されたマナは言いたそうにしていたがこのまま話を聞こうとしても何も話してくれなさそうだと諦め、紅茶の入ったカップを持ってため息をつきながら自室に引っ込んだ。

「ねぇ。どうしてこんなところにいたの?お母さんは?」

そう優しくラスが聞くと少女は泣きじゃくりながらも、

「大切にしてい、るお人形が無くなったの。いろんな、ところ探したけど、見つからな、くてお家もわから……。もうすぐ、遠くに行っちゃう、から早く見つけな、きゃ……」

と言った。

「探し出すしかなさそうだな」

ライはそうは言うが自分なは関係ないと言わんばかりに興味無さそうに言った。

「うーん。室長が何て言うか……」

思わず、そう言ってしまったラスに探すと言った時に一瞬、泣き止みかけたがまた少女はまた泣き出してしまった。

 その時、扉が勢いよく開き、

「ラス!お前、アトリと一緒に人形を探しなさい!!」

とマナは腕を組み仁王立ちでそう言った。

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