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仮面

作者: 永田歳子

暖かい目でご覧下さい



かき分けてもかき分けても人だらけ。一歩一歩、足場を探しながら進む。あちこちから聞こえてくる祭り囃子、迷惑そうにこっちを見下ろしてくる不親切な大人達。両端に陣取る飴色の空気を纏ってそびえ立つ屋台の数々。幾つもの種類の食べ物との戦いに打ち勝ち誇らしげに漂うウスターソースの匂い。いかにも日本人ごのみの縁日は、俺にとってちょっとしたトラウマだった。


俺は、流行りのキャラクターからお馴染みのひょっとこやおかめのお面までまで取り揃えてある仮面屋台の前で足を止めた。縁日に来ればいつもここで足を止める。あの日の事を思い出しながら。


あの日、俺は5歳児らしく母親と一緒に縁日をまわっていた。金魚すくいに射的、綿飴にフランクフルト。目に映るものは全て指さして欲しがっていた俺に母は「よく考えてごらん」と1度なだめてからそれでも大体のものは与えてくれた。

いつも俺に不自由させない両親だが、祭りで完全に調子に乗った俺はそのまま母の手を振りほどいて当てものやら唐揚げやらの屋台を気の向くままに見て回っていた。

「母さん、これ欲しい」

振り返ると、母が居なくなっていた。はぐれたのだ。今となっては当然の成り行きだと反省の余地しかないが、何しろ無邪気な5歳児だ。あの年で雑踏の中に放り出される事は多大なる絶望をはらんでいる。俺もまさに一気に絶望のどん底に突き落とされた。

やがて、「買うの買わないの」と俺を睨みつける屋台のおっさんにつまみ出されて俺は仕方なく宛もなく歩き始めた。

とにかく人混みから出ようとして俺は屋台と屋台の間が大きく空いていて、休憩場所のようになっているところに出た。先客が何人か居たはずだ。人の流れを見ていても母らしき人影もない。急に暇になって俺は近くにある屋台を見回していた。目に付いたのは仮面を売る屋台だった。俺がちょうどハマっていたヒーローの仮面があったのだ。俺は迷わず屋台に近寄った。

どうしてだか、俺以外に客がいなかった。俺はヒーローの仮面を一心に眺めた。本物より幾分かカッコよさが足りていないが仕方ない。単純に欲しい。これを付ければ俺も仮面ヒーローになれる。思い込んでいた。おかげで屋台の中からこっちをじっと見ているプリ〇ュア面を付けた人物に気づくことが出来なかった。

プリ〇ュアと言っても、腕っぷしは逞しく白いTシャツの下の腹はボッコり膨れている、どう見ても顔から下は男だった。俺は目を見開いたまま硬直し、ビビって足をガタガタ言わせていた。

「ぼく、お父さんやお母さんは? はぐれたの?」

少しでも目を離したら殺されそうで、目を離さないようにゆっくり頷く。

「おじさんは何してるの?」

「プ〇キュアをしているんだ」

「何言ってるんだよ、体どう見たって男じゃん」

「男がプリ〇ュアしちゃいけないなんて誰が決めたんだよ」

ため息混じりの声に俺はさらにビビってそれ以上言い返せなかった。

「まぁいいや暇だから一緒に親御さん探してあげるよ」

「店番してなくていいの?」

「いいよ、何故だかお客さんが来ないんだ」

幼心にそのお面が原因ではないのかとツッコミを入れていた覚えがある。

「どうしてもプ〇キュアのお面必要?」

「まぁね、変身を解くわけにはいかないよ」

おじさんはお面を付けたまま屋台から出てきた。あまり近寄りたくなかったが、向こうから問答無用で手を繋いできたので黙って従う。肉厚な手はかなり汗ばんでいて気持ち悪かった。

「離れないようにしてね、探さないから」

「う、うん」

おじさんの横を通り過ぎる人達が、不審そうな目線を送ってくる。逃げ出したくて目線を泳がせるが一向に母さんが見つかる気配はない。

恐怖と気まずさに支配されたままおじさんに連れられるまま歩く。傍目からしたら誘拐にすら見えるかもしない。

「おじさんはどうしてプ〇キュアなんかしてるの?」

「プ〇キュアが好きだからだよ」

「普通は女の子が見るんだよ」

おじさんはふんと鼻で笑って、

「おじさんくらいの年になると見ちゃうんだよ」

俺には全くその気持ちがわからなかった。

結局俺は黙るしかなく、二人の間だけに沈黙が訪れた。

ぐうううう

俺は充分母に食べ物を貰っている。鳴ったのはおじさんの腹だった。

「唐揚げでも買おうか」

おじさんは俺には何も聞かず、唐揚げの屋台に歩いて行き、

「か、唐揚げ二人分」

と、俺にも唐揚げを寄越した。断っておじさんの機嫌を損ねるのも怖くて、

「ありがとう……」

俺は素直に唐揚げを受け取った。

その後もおじさんは食べ物を買う時は必ず俺の分も買って渡してくれた。行く先々の屋台で、店番をしている人が不審そうにおじさんを見ていた。

「金魚すくいしたい」

「いいよ」

ふと目に付いた金魚すくいが俺の心に止まった。おじさんはやはり店番の人に不審そうな目線を送られながら、

「二人分で」

と何も気にしていないように注文する。

「は、はいよ〜」

俺は渡されたポイを一瞬で破いてしまった。丸い枠の中を金魚たちが通り過ぎていく。

「ちくしょー」

おじさんの方を見ると、

「ポイには裏と表があるんだ。紙が貼ってある方が表、無い方が裏。裏ですくうとポイの枠の太さから水が溜まってしまい破けやすくなる。だから表でやるのが正解。また、一部分だけ濡らすと紙が脆くなる原因になってしまうから、ポイは1度全部濡らしてから使うんだよそれから……」

おじさんは、うんちくをブツブツ呟きながらホイホイと金魚をすくっていた。5歳の僕に理解と記憶が出来たのは最初の2つくらいで後は全く覚えていない。すくい終わったあと、

「金魚いる?」

と聞かれたが、あまりにも数が多かったので、

「いらない……」

俺の一言によりおじさんがすくった金魚は全部水槽に解放された。

事件は嵐のようにやってきた。

金魚すくいの屋台から歩き出してすぐだった。前方の食べ物の屋台から炎が客通りに向かって吹き出てきたのだ。屋台の前に立っていた人は勿論周りの人も方向転換して、すし詰め状態にも関わらず我先に逃げようとするものだから、ドミノのように道行く人皆が倒れて行った。おじさんはそんな時一瞬でそれを察知して身を挺して俺を人の波から庇ってくれたのだ。そして、倒れたままの人々をバッタバッタと薙ぎ払い、人の多い場所を抜けようとした、その時だった。おじさんが薙ぎ払った人の1人の男が、

「痛ってぇな何しやがる!」

とおじさんに掴みかかってきたのだ。男はおじさんの仮面に手をかけて、

「んな幼稚な面付けやがって、いい大人が! 気持ちわりー!」

剥ぎ取ってしまった。

おじさんの素顔は……

よく覚えていない。ただ、おじさんと呼ぶにはあまりに若いような感じだった気がする。それから、何故か息切れしていた。

おじさんは、ただただ怒り、

「なななな、なにするんだよォ!」

と男を1発koでぶっ飛ばすと、目線をすごく泳がせて、

「う、生まれてきてごめんなさーーい!!」

またまた人を蹴散らしながら俺を置いて去っていった。

俺は伸びている男からプ〇キュアの仮面をむしり取って、頭の斜め上に付けた。

その後、母に見つけられてこっぴどく叱られた俺は、おじさんのことが忘れられなくて、ずっとおじさんを探していた。プ〇キュアの面については特に叱られなかった。


25歳になっても俺は毎年縁日には必ず足を運ぶようにしている。

プリ〇ュアの面を携えながら。

お世話になっております歳子と申します。またもや妹にワンライお題として【仮面】頂いたのですが、ワンライ出来ませんでした2時間くらい余裕でかかってます……ごめんなさい…。


補足説明しないとわかりずらくて情けないのですが、おじさんはコミュ障という裏(?)設定のもと書いていきました。上手く出せていたら……いや、出せていなかったので説明してんのか……申し訳ありません。


ここまでお読みいただきありがとうございます。失礼します!

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