快楽への深淵
夏の暑い日だった。あの日はジメジメとした嫌な天気だったのを覚えている。学校から帰ると真っ先に冷蔵庫に向かい冷たい麦茶で喉を潤した。飲んだ後に残る麦茶の苦味があまり好きではなかったがその時は何故か美味く感じられた。
「かーさんいないの?」
部屋に私の声が響く。反応がないところを見るに買い物か。いつも煩い家でこうも静かだと不思議な感覚に囚われる。冬物の服が仕舞ってある引き出しの奥から隠してあった携帯ゲーム機を取り出し電源をつける。
「あんた今度は殺されるよ」
「うわっ」
背後から突然声をかけられ口から心臓が飛び出そうなほど驚いた。そこには鋭い目つきをした妹が更に鋭くこちらを睨んでいた。
「いたなら最初から反応しろよ」
「鍵が開いてたんだからわかるでしょ」
「とにかくゲームしてたこと母さんにはチクるなよ」
母は教育熱心な所があり娯楽を規制し友達付き合いにも口を出す時代錯誤な人であった。皮肉にもそうした教育とは裏腹にゲームやマンガ、ネットが好きな母の理想とする真逆な人間に育った訳であるが。
「ん」
「…またそれか」
妹が無言で手を差し出す。昔から私の弱味を握ると直ぐに金を要求する。
「お前こんな優しい兄から金取って恥ずかしくないのかよ」
「その優しい兄は父さんの財布から取ってるけどね」
「知ってたのか」
「今知った」
妹は狡猾で悪知恵が働く詐欺師のような人間だった。当時の私はいつも騙され金を毟り取られていた。
「チクられたくないんだったらゲームのことも含めて一万ね」
「は?いくらなんでも取りすぎだろ。それにお前だって父さんの財布から取ってるくせによ」
「それ私が今やったカマかけじゃん。引っかかるわけないでしょ。本当に脳ミソついてんの?」
この妹には何度殺意が湧いたことか。常に小馬鹿にした態度でストレス無しに会話できた覚えがない。母は私には厳しかったが妹には優しかった。いや甘かったのだ。
「この前も俺から五千円取っただろ。一体何につかってんだ?」
「恋愛。オトナはお金がかかるのよ」
「恋愛だって!?中学生の糞ガキが一丁前に高そうな服着てお出かけってか」
妹は自分と違い社交的で人望もあり比較的異性からモテていた。そのことが妬ましかったしその事を自覚するたび自己嫌悪し惨めになっていた。
「童貞のあんたにはわからないだろうね。友達すらいないんだから同情しちゃうわ」
「あんまり調子に乗ると殺すぞ」
「本当口だけなんだから。あんたなんか誰からも必要とされてないわよ」
普段からの鬱憤があったのか仲の悪い兄妹ではあったがあの時の私は頭に血が上っていて冷静ではなかったのだろう。気が付くと両手で妹の首を絞めていた。顔を赤くしたり青くしたり白くしたり見ていて妙に心が躍ったことを憶えている。手に力を込めれば込めるほど自分の中の何かが昂ぶっていくのが感じられた。
あの時初めて知ったんです。
人間の生命を奪う事の快感がこれ程心地よいものだと。
初めて小説を書きました。普段本はよく読んではいるんですがこんなにも書く事が難しいとは思いませんでした。内容は思いつきなのでグダグダです。読み返してみると正直自分でもびっくりするほどつまらないですね。まあ最初だからこんなもんかなと思い、折角なので投稿しました。読んで頂けたら幸いです。