第七話 『使いこなせ、スパークルオーブ』
グランズヘイム城内、訓練場へ行く途中にロンティヌスと出会った。大量の書物を纏って背負いながらさらに書物を読むその姿はまさに二宮金次郎。挨拶をするとロンティヌスから報告があるようで。「トバルカインの武器を強化する道具を作らせている。昼頃には出来上がると思うから明日にでも訓練の時に使ってみるといい。」それだけを言い残し去ろうとする。
「ロン、教えて欲しい事があるんだけど。」
ロンティヌス改めロンは振り向きしかめっ面で言った。「ロンというのは私の事か?」その問いに「そうだけど。」と答えると少しうな垂れ、「まぁいいか。」と頭を掻いて受け入れてくれた。つかつかとこちらへ迫ってきて「それで?教えて欲しい事とは何かね?」と目を輝かしながら言った。どうやら"教える"というい事が好きなようだ。
「えっと、ロンの事を教えて欲しいんだけど。」
それを聞くと残念そうに「なんだ、私の事か。」と肩をすくめた。
「ふむ、私は海を越えて反対側にあるアルブホームという国の使者だ。今回は君の調査という事でここに来ている。」
おぉう。ロンは使者だったのか。誰も教えてくれなかったぞ、なんでだったんだろ。
「君に私が使者だと教える必要が無かったのは私が死ぬという心配が非常に少ないという事だよ。」
得意の読心術か、それにしても死ぬ心配がないというのはどういう事だろう。生物である以上死は免れないのが世の理だ。
「それは私のグレート・ワンのお陰だよ。グレート・ワン『エターナル・ビショップ』のね。」
「エターナル・ビショップ?」
聞いたことある言葉、グレート・ワン…どこで知ったのかは覚えていないが強力なアイテムだった筈だ。
「その通り。これがグレート・ワン…大いなる力の一つだ。」掌からスーッとトランプカードほどのサイズの石碑が現れる。石碑には紋章が刻まれていた。
「これがエターナル・ビショップ…不滅の力。といっても本当に不滅になるのではないが。」
「例え粉塵になろうとも一瞬で再生できる超高速再生の力だよ。ちなみにこの石碑は所持者以外には触れられない。未だに原理は不明だがかなり次元の高い技術が使われている。私の知識欲を中々に高ぶらせてくれるのだよ。」
結構ぶっ飛んだ代物であるという事で、超高速再生を持つロンだから身の安全は確保出来ているという事か。
「その通り、アルブホームも神秘の国と言われる特殊な土地でね。迷宮区域という場所があり深い霧で歩く者も飛ぶ者も迷わせてしまう。迷わず通れるのはアルブホームの民だけだ。この尖った耳が優れた感覚を与え正しき道を通れるというわけだ。」
ロンが耳を見せる。最初は気付かなかったが確かに耳が尖がっている。エルフ耳という奴だな。
「ちなみに私も戦えない事はないが直接、君たちに助力をするという事は無い。これは国家間の問題だ。アルブホームの民である私が他国で戦いに参戦したとあらば各国が騒ぐからな。もちろんアルブホームの国王も黙ってはいないだろう。なので私は君たちに直接、手を貸す事は無い。っというのを分かって欲しい。」
何を言い出すかと思えば、そんな事はわかっている。一昨日の怪人の襲撃で見ていただけだったのに思う事があったのだろう。ロンも優しい奴って事だろうな。
「ロンはなんで使者になったんだ?」
直球、ストレートの質問をしてみた。ロンは迷わず真直ぐな目で答えてくれた。
「私は戦争が嫌いだからだ。誰かが傷つく姿も傷つける姿も見たくは無い。それが普通であろう。」
「私はもう行く、カナメも頑張る事だな。」そう言って身を翻し去っていった。
そうだな。俺もコイツを使いこなせるようにならないとな。
手元のカインの武器を取り出し見つめ、訓練所へと歩みを進めた。
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赤絨毯が敷かれた長い廊下を歩くロンティヌス。カナメの言った「なんで使者になったんだ?」という言葉がロンティヌスの過去を呼び起こした。
祖国アルブホームが広大な土地を持つ国ニンブルレイムに襲われた時、民は逃げ惑い、殺され、犯され、弄ばれた。民は恐怖し、憎悪した。最終的には追い返す事に成功したが、失うものは大きかった。豊かな森や綺麗な湖は無残な姿となった。四百年の時を経て、ようやくアルブホームはあるべき姿を取り戻したが民たちの怒りや憎悪は消えはしない。あれだけ賑やかで笑顔の絶えない国だったのが今は復讐の鬼たちの住まう国となってしまった。
「だから、私は戦争が嫌いなのだ。」
彼らは口を開けば私に戦え、殺せ、復讐しろと…戦えば報われる?殺せば救われるのか?復讐すれば許せるのか?復讐などしたところで残るのは虚しさと過去が呼び起こし続ける消えない憎悪だけだ。
ふぅ、頭をリセットするんだ。くだらない事で脳を働かせる必要は無い。
グランズヘイム魔術研究室へとたどり着き、複数人の研究者たちとクルシュ、トラヴィタールに出会う。
「魔術結晶の経過はどうだ。どの程度まで縮小する事に成功した。」
ロンティヌスの質問にクルシュが答える。「ロンティヌス様の考案したこの魔術結晶、ようやく握りこぶし程まで小さくする事に成功しました。」嬉々として野球ボール程の大きさの緋色の結晶をロンティヌスに見せる。「だいぶ小さくはなってきたな。だがまだ足りない、大きさを半分にし薄いプレート状にするのだ。」ロンティヌスの言葉にトラヴィタールは苦言を呈す。「しかし、内包された魔術の程度を保持しつつさらに小さくするのは難しいのねん。」トラヴィタールの言う事はもっともである。魔術結晶の中には高位魔術が内包されており現在の大きさでも画期的と言える状態なのだ。「これが完成すれば全くマナを持たないカナメでも魔術を扱う事が出来る。今の彼には必要なのだ。持ち運びを考慮すると限界まで小さくする必要があるのだ。」私の知恵を合わせれば絶対に今日中には完成させてみせる。クルシュたちは頷き魔術結晶の小型化に専念するのだった。
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訓練所内で響く剣と剣がぶつかり合う音。カナメとミラーナが訓練をしている。剣の刀身には布が巻かれており万が一がないよう工夫を施されていた。
「どうだカナメ!何か手応えはあったか!」
ミラーナの問いにカナメは自分の剣を見つめて答える。「この武器、それぞれに特徴がある。ロンティヌスの言った通り俺との相性が良いみたいだ。なんだか身体に変化があるような気がする…これなら、いけそうだ!」ガッツポーズを見せるカナメ、ミラーナは「そうか。」と満足気な笑みを見せる。
突如、訓練所の扉が大きな音をたてて開く。カナメたちは音のした扉を反射的に見た。そこには兵士が息を切らして佇んでいた。
「大変です!!また例の化け物が!!」
ミラーナと顔を見合わせカナメは頷く。
「わかった。すぐに現場に向う!!行くぞカナメ!!」
俺は返事をしてミラーナと共に怪人の下へ向った。心を落ち着かせる、大丈夫だ…俺は俺の出来る事をすればいいんだ、そう自分に言い聞かせて。
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帝都グランズヘイム、市街地広場、空は黒い雲が覆い帝都を灰色に染めている。一昨日の怪人による騒動で外出を控えていたお陰か、市民の被害はゼロだったが厳戒態勢で見回りをしていた兵士たちの骸と血が広場を彩っていた。
「スゼナークォーレム。」
一昨日現れた怪人の姿がそこにはあった。怪人の手には歪な剣が握られており、その刀身は兵士たちの血で染められ滴っていた。周囲の生存している兵士たちは恐れ後ずさる、魔獣との戦いとは質が違いまるで強大な力を持つ人間と戦っているっといった雰囲気を兵士たちは感じていた。しかし不戦条約の結界はまったく効果を見せなていない、その現状が兵士たちの不安を増幅させている。
「!」
マルスが怪人に大剣を振り下ろす。怪人は歪な剣を横にし盾の代わりとして大剣を防ぐが、マルスの大剣の重みで足元の石畳が砕け怪人の足が埋もれる。大剣で動きを封じながら名乗り上げる。「グランズヘイム近衛騎士団団長マルス=ヴォン=ベルリヒンゲン!お前の相手をしよう、怪人くん。」動きを封じていた重量を解放し大剣を軽々と横に振り怪人を弾き飛ばす。怪人は紙一重で剣で防いでいた。
「ファーニーファニームオファウェヅーイークォリサオイゼズー。」
怪人の言葉を聞きマルスは懐かしさを感じた。「ほぅ。懐かしい言語を使うな…。埃のかぶった暗号を使うとは、だがお前が何者であろうとグランズヘイムに仇なすのであれば容赦はせん!」人の形をしてはいるが攻撃できるという事は人間では無い。カナメも同じ特徴を持つが彼とこの怪人はまったくの別物、人の心を持たぬ化け物よ。故に加減の必要はない!
踏み込み一気に攻撃圏内にマルスを捕らえ怪人の縦一閃が放たれる、マルスは身体を横に向け避け怪人の二撃目の攻撃斬り上げを飛び退いて避ける。飛び退き無防備になった低空のマルスを怪人はその一瞬の隙を見逃さず攻撃を仕掛ける。マルスも攻撃の気配を察知し透かさず大剣を振り下ろすが怪人は軽やかに避け大剣の上に立つ。マルスの攻撃は間に合わない、怪人の首を斬り落とす右横薙ぎが繰り出される。
鉄の衝突した音が鳴り響く、マルスの左腕で怪人の右横薙ぎを防いでいた。彼の左腕は手甲と肘下が直接ボルトで繋がれていた。マルスの左腕は義手だったのだ。「むぅ間一髪、なんとか間に合ったな。」無事マルスは着地し怪人の剣を義手で弾く。
「ニオサリヤヤンニゼファー。」
怪人は全身に力を込め、雄叫びを轟かせる。雄叫びは大気だけでなく建物までも振動させる、怪人の身体はパンプアップされ二倍以上は膨れ上がる。マルスもその姿に思わずたじろいでしまう。怪人の身長も二メートルを超えているであろう程の大きさになり百九十はある巨漢のマルスも見上げてしまう。
マルスは大剣を振るい怪人のわき腹に命中させるが鉄同士がぶつかったかの様な音を出すだけで刃が全く通らない。驚き怯むマルスの胸を怪人の拳が放たれる。厚く強固なマルスを守る筈の鎧は拉げてマルスにダメージを与えていた。強烈な衝撃で突き飛ばされマルスの肋骨は内臓に突き刺さり口からは血液が流れ出した。怪人は一歩一歩近づいてきている、マルスは力を振り絞り大剣を振るうが怪人の手刀で厚く強靭な大剣は叩き折られてしまった。鼻で笑った怪人はマルスの首を掴み重い鎧を身に着けるマルスを軽々と持ち上げギリギリと首を絞めていった。マルスも"もう駄目か。"と諦めかけたその時。
「うぉりゃぁぁぁぁっ!!!」
何者かの蹴りが怪人の腕を蹴り飛ばしマルスを拘束から解放した。あれほど強靭だった怪人の腕は衝撃によって裂傷を起こしていた。しかし瞬時に傷口を癒し何事も無かったかのようにその者の姿を睨んだ。
「グリッドマンッ!!」
怪人の言葉にマルスはその姿を確認する。カナメとミラーナの姿がそこにはあった。カナメとミラーナはマルスの下へ駆け寄りマルスの身を案じた。「遅くなって悪かったなマルスのおやっさん!」おやっさんという呼び方はマルスに過去のカナメを髣髴とさせた。「ふん、遅すぎだ。」笑みを浮かべてマルスは立ち上がる。「マルス、よく持ちこたえてくれた。後は私たちでどうにかする。身体を癒すんだ。」兵士たちがマルスを抱え、戦線を離脱する。
カナメは胸に手をあて怪人を見る。「大丈夫だ、落ち着いてる。前とは違う感じだ。」以前とは違う純粋な闘志が湧き上がる。これ以上、怪人に皆を傷つきさせはしない。カナメは闘志を燃え上がらせる。
「闘志…燃やすぜっ!!」
身構えゆっくりと変身の構えを取る。戦う覚悟、倒す覚悟を決めカナメは発する。
「変身ッ!!!」
カナメは爆発を生みその身を変える。全盛期ほどの爆発ではなかったが確実にカナメは自覚は無くとも力を取り戻していっている。変身した姿は前と変わらずまだまだ不完全な状態だ。全盛期と比べスマートなフォルムの変身体。
「行くぞカナメッ!」
ミラーナの掛け声で怪人への攻撃を開始する。訓練の副作用か、連携が取れている。カナメのローキックからのハイキック、振りぬき怪人を怯ませ後退させる。背中を向けて完全に無防備になっているカナメに剣を振るうが、ミラーナの剣がカナメを守る、怪人の剣を受け流し、突きの連撃を浴びせる。怪人の身体は傷を負った、ミラーナの特殊な剣は怪人にダメージを負わせる事が出来た。突きによって生まれた傷にカナメは拳の連打を浴びせた。効果は絶大、傷で防御力が低下した箇所への打撃は怪人を苦しませた。
怪人は雄叫びを轟かせ更なる肉体の強化を始める。膨れ上がった身体は縮み始め筋肉組織が圧縮を始めていた。身長はそのまま肥大した肉体はスマートになり筋ばった筋肉を見せている。
カナメの振りかぶった重い拳を怪人は無防備に受ける。カナメは拳を通して怪人の変化をその身で知る。
「さっきよりも硬くなってる!!」
怪人の振り払うような裏拳がカナメに命中し大きく跳ね飛ばされる。「力強さも増してる!?」カナメの驚きをよそに怪人はミラーナの懐に瞬時に入る。
「速さもかっ!」ミラーナは間一髪怪人のラリアットを防ぐ、ミラーナの剣は怪人の腕を埋もれていた。まるで硬い大木に剣で切れ込みを入れたかのように異常な硬さをミラーナに味あわせていた。怪人はミラーナを振り払い投げ捨てるかのように飛ばした。腕に刺さったミラーナの剣を抜き取り、雑に捨てた。
ミラーナの方へと近づいていく怪人、ゆっくりと怪人は歪な剣に力を込めて握り徐々に徐々に剣を振り上げていく、カナメはカインの武器を手に取り「こいつの名前はスパークルオーブ…そしてっ!!」剣の名前を呼ぶ。
「アークザンパーッ!!」呼び声に呼応してブローチ状態から姿を変える。電撃を放ちながら剣の姿へと変わり、カナメの変身した姿にも変化を及ぼす。赤紫の甲殻はその色を変え青みのある白色へと変化した。変化に気付かぬままミラーナを助けるべく怪人に向って走り剣を突き刺す。
「うぅおぉぉらぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
以前よりも圧倒的に素早さが増しミラーナを助ける事に成功した。突き刺したまま数メートル怪人を押して引きずり急停止して怪人を突き飛ばす。
ミラーナはカナメの姿を見て変身した姿の変化に気が付く。
「白くなっている…!」
ミラーなの言葉でカナメも気付く。「ホントだ!白くなってる!これがロンの言ってた相性の良さって事か!?」
怪人は立ち上がりカナメに向って走り出し連続した攻撃を繰り出す。唐竹、袈裟切り、切り上げ。横薙ぎ、様々な素早い剣による攻撃がカナメを襲うがカナメは全ての攻撃を避けきっていた。
「速さが増してる!!このアークザンパーの特性かっ!!」
カナメはアークザンパーで怪人を斬り上げを放ち、怪人の身体に焦げ目の付いた深く大きな切り傷を負わせた。切り傷からは電撃が走っている。
「雷の力がアークザンパーにはあるのか!」
怪人は電撃によって肉体が麻痺し動きが取れないでいる。
トラヴィタールが移送魔術で現れカナメに小さなプレートを投げ渡す。
「それを使うんだよん!割ってその剣に纏わせるんだよん!」
カナメは頷き、手にしたプレートを握って砕きアークザンパーに撫でて塗るようににかけた。魔術結晶は魔術となって剣に纏い何故だか剣は声を発した。「電撃!疾走!斬撃!」と発した剣は言った通り電撃を帯び始め、刀身は輝きを放ち始めた。
剣を構え、走り出す。超スピードで怪人の近くまで到達し、通り過ぎる間際に怪人の胴体を横薙ぎで両断する。
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
足でブレーキをし数メートル引きずってようやく停止する。斬られた怪人の胴体は光を放ち、急激に膨張して大きな轟音を響かせて爆発四散。跡形も無く怪人は消滅した。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
息切れをして片膝をつくカナメ。振り向きミラーナを見つめる。ミラーナもまた力の暴走が起きないか心配そうに見つめる。
カナメは自分の身体を見渡し、ミラーナに向ってピースサインを送り大丈夫だという事を伝える。ミラーナもそれをみてホッと安心した。
「あれが新たなグリットマンの姿か…。もしかしたら前よりも強くなるかもしれんな。」
ミラーナはグリットマン、カナメの勇姿を見て期待を胸に、そう呟いたのだった。
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城へと戻った一行、医務室にてカナメはロンティヌスと医療班に身体の検診を受けていた。検査の結果は問題なし、やはり以前のカナメとは違い着実に力を身につけ始めている。その事をロンティヌスも驚きを隠せないでいる。
「驚いたな。こうも早く順応してくるとは。それで、魔術結晶を使った感じはどうだった。」
トラヴィーから受け取ったあの小さなプレートの事か。「凄い力が湧いて出てきて、結構いい感じだったよ。」けど気になった事があった。「けど使った時に声がしたんだけどアレなんだったの?」ロンに疑問を問いかける。
「あれは遊び心だ。使った時に効果がどんなものかわかりやすいだろう。まぁ魔術結晶に刻印を入れるから再確認と思ってくれればいい。」つまり意味は特に無いと。まぁいいけどさ…ビックリするんだよなぁ。
「それはそうと名前は決めたのか?」ロンは腰に付けているスパークルオーブを指して聞いてきた。「こいつの名前はスパークルオーブに決めたんだ。」それを聞いてミラーナはカナメに疑問を投げかけた。「戦いの時はアークザンパーとか言っていなかったか。」その疑問にカナメはスパークルオーブを剣の姿に変え「アークザンパーは剣の時の名前なんだ。持ち運ぶ時の状態はスパークルオーブって事にしたんだ。ほら色々形が変えられるからさ、それぞれに名前を付けていこうと思って。」再びスパークルオーブに形を変え腰に戻した。
「それは良い心がけかもしれないな。お前の言うスパークルオーブがより力を発揮するにはな。」カナメは戦いの中で起こったアークザンパーの異変を話した。「そういえばアークザンパーを使った時に身体の色が変わって剣からバチバチ電気が流れたんだけどさ。」それを聞いてロンはしばし考えを巡らせた。「おそらくスパークルオーブは生命体に近いモノになったのかもしれんな。製造の際に使われた翡翠の力かもしれん。アークザンパー事態が雷のマナを精製しているのだろう。極めて稀な事ではあるが物にマナが宿る事はあるのだ。」やっぱり雷もアークザンパーの特性って事かな。もしかしたら他の形でも違う属性のマナが宿っているかもしれない。
「ちょっとの間で随分と成長したものだ。」
マルスがカナメの下へやって来た。「おやっさん!もう怪我の具合はいいのか?」マルスは腕を上げて力こぶを見せ付けて元気さをアピールする。「もうピンピンよ!心配かけたな。」優しい笑みをカナメに見せる。マルスは疑問に思った事を伝えた。「そういえば皇女殿下。一つ疑問に思った事がありまして。」ミラーナは真剣な面持ちに変わりマルスの話を聞いた。「怪人の言語が我々の国グランズヘイムで使われていた大昔の暗号だったのですが。」ミラーナはそれを聞いて答える。「私も気付いてはいた。聞き間違いだと思いたかったが、いったいどういう事なのか。今のところは見当が付かん。怪人も消滅してしまった。今は心に留めておく他あるまい。」あの怪人はいったい何者だったのか、目的はなんだったのか。今は知る由も無い。
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ヴァルハラッハ帝都内、兵士たちが慌てふためき誰かを探していた。「見つかったか?!」「いや、見つからない!」と右へ左へ右往左往している。兵士たちの目を盗み、物陰に隠れている翼の生えた美少女の姿が。「私、隠れんぼは得意でしてよ。」兵士のいなくなる一瞬の隙に物陰から物陰へと隠れて行き徐々に帝都の外へと歩みを進めている。「私は会ってみたいのですわ。グランズヘイムの英雄に。」
「パンドーラ国王!!ブリュンヒルデ様が脱走されました!!」
高い位置に置かれた立派な玉座に座る王の名に恥じない風格を持つ男が座っていた。パンドーラは報告を聞いたが慌てる素振りを見せず堂々と構え兵士に伝える。「探せ。彼女は我が国に大切な御仁だ。大事が起きる前に見つけ連れ戻せ。」ヴァルハラッハにとって翼を持つ種族は神様として崇められ、何よりも大切に扱わなければならない存在。その彼女が脱走した事によって帝都の兵士たちはパニック状態、市街地に騒ぎが起きていないのは深夜であるという事とまだ情報が伝わりきっていない事が原因である。これ以上のパニックを起こさない為に国としては情報を秘匿にする事を選んだのだ。
「これは困った事になりましたな。国王。」
パンドーラの横にローブを羽織り立つ目を包帯で覆った男の姿があった。「私が助力いたしましょうか。」男の発言にパンドーラが答える。「よい、カエラルよ。ブリュンヒルデ嬢に手を出す愚か者などこの世にいまい。それよりもバルバラの様子はどうだ。」カエラルと呼ばれた男は答える。「非常に難儀しております。何せ究極の力が取り出せぬのですから、あれは本人以外には殺すほか取り出す事は不可能。その本人は自我を失いかけ力を制御する事で手一杯。今生きているだけでも行幸と言えるでしょう。」あの時の戦いからバルバラの傷は未だに癒えてはいなかった。付け加える様にカエラルは伝えた。「しかし、近い内にバルバラは治ります故に。私の"全知"と言わしめる知識を使って。」
一方、ブリュンヒルデは帝都から外へ出る事に成功していた。「ジャジャーン!ですわ!」成功を祝うブリュンヒルデ颯爽と懐から地図を取り出しグランズヘイムの位置を確認する。「お隣にある島国がグランズヘイムですわ。距離は意外とありますわねぇ…、その奥の大陸は…上はヒルヘイル、下はニンブルレイム、野蛮な国が背後にあるのですわねぇ…。帝都を離れてからは翼を使って飛んでいけばいいですわね!」歩みを始めるブリュンヒルデ
「いざ、しゅっぱーつ!ですわ。」