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第九話   『騎馬戦』

 静かな夜に鳴り響く複数の蹄の音、そして複数の魔獣の疾走する足音。合間合間に銃声の音が鳴り響く、犬の悲鳴の様な魔獣の声が度々聞こえる。狼型の魔獣なのだろう。なんにせよ暗くて魔獣の姿が良く見えていない。見えるのは月の光に反射して光る魔獣の眼のみ。だが狼型魔獣という事は元々この地域に生息していた魔獣である可能性が高い、獲物として我々を襲っていると考えるのが普通ではあるが魔獣たちの統率性を見る限りでは何者かによって操られていると考えた方が良いだろう。


 「皇女殿下!一向に数が減りません!!」


 兵士の報告を受けミラーナは確信する。「やはり、操っているものがいる様だな。しかし誰が我々を…。」銃を構え魔獣に標準を合わせる。一瞬だけ眠気に気を取られたその時。


 「!」


 突如、視界がぶれる。強烈な眠気がミラーナを襲ったのだ。瞼は重くなり、思考も鈍ってきている。なぜ急に眠気に襲われたのかミラーナは疑問に思った。


 「こんな時にっ!くっ…!」


 魔獣へ放った弾丸は外れ、どんどんと魔獣たちは距離を詰め始めている。兵士たちの弾丸と弓矢の数も底をつき始めていた。


 「弾薬が足りません!!このままでは!!」


 「わかっている!!その盾を貸せ!!」


 「?は、はい!」


 兵士は背負っていた縦長のシールドをミラーナに渡す。馬車に備えられた縄を使い、足を盾の固定具の部分に結び付けて固定する。もう一片の縄を馬車の後方末端に備えられた他の馬車と連結する為の部分に結びつける。


 「何をするつもりですか皇女殿下!」


 「ちょっとした冒険だ!」


 馬車から飛び降りたミラーナは盾をスノーボードの様に扱い器用に地上を滑走していた。左右へと自在に滑っていき魔獣の近くまでやって来る。銃のストラップを使い銃を背負い剣に手を添えて抜刀の構えを取る。一匹の魔獣がミラーナに喰らいつこうと飛び掛る。ミラーナの手元が小さな光を発し魔獣の口を上顎と下顎で真っ二つに切り裂いた。ミラーナの抜刀は魔獣の目を持ってしても見切れるものではなかった。


 「次っ!」


 小岩を使い跳躍するミラーナ。横へと流れて行きボード代わりのシールドの尖った先を使って魔獣の頭部を切り裂く。利き手で剣を持ち、もう一方の右手でライフルを持ち魔獣を撃つ。


 「流石にコレだけ近づけば片手でも当たるな!」


 剣による斬撃で次々と魔獣を倒していく、ライフル銃を片手で回転させ弾を装填する、スピンコックを使う。剣の届かない離れからミラーナを追い越して馬車を狙う魔獣をライフル銃で撃ち貫く。


 「!?」


 また眠気がミラーナに牙を向く。睡魔に対しての我慢も限界へと達している。その一瞬の隙を狙う魔獣、ミラーナ目掛けて飛び掛る。


 「くっ!!」


 しかし魔獣の頭部が突如として吹き飛びミラーナは難を逃れる。ミラーナには何が起こったのか分からずにいた。魔獣の背後からは聞きなれない轟音を響かせる魔獣とは違った強い光が迫ってきている。


 「あれは?!」


 猛スピードで走る何かにその者の顔が照らされていた。遠く判別が難しかったがミラーナはその者の輪郭を見知っていた。


 「カナメェッ!!」


 驚きよりも先に喜びがミラーナの心を包む、自然と笑顔が零れてしまう。絶対の危機の時に現れてくれる英雄の姿にミラーナは歓喜していたのだ。


 「闘志、燃やすぜっ!!」


 カナメはライドアイバーに跨りながら変身の構えを取る。そして発するのだ。


 「変身っ!!」


 ライドアイバーが暴風に包まれ、暴風を貫き姿を現す。赤紫の変身体の姿を。カナメの手にはスパークルオーブを変化させたライフル銃が握られている。そのライフル銃を構え、魔獣に向けて撃ち放つ。


 「吼えろ!ブレイズシュゥゥゥゥタァァァァァァァ!!」


 引き金を引くとブレイズシューターの銃口が火を吹き、轟音を響かせる。弾丸は鉛球では無く、炎のマナによる火球である。マナの弾丸である為、飛距離によって降下はしない。狙い通り魔獣を射抜き、着弾したマナは体内で爆発を起こしていた。ブレイズシューターの変化は炎属性の付与であった、それだけでなくカナメ自身にも変化を及ぼしていた。


 「眼が良く見える…あんなに離れているのに、暗いはずなのに、魔獣の姿がハッキリ見える。まるで俺の眼が高性能なカメラみたいになっているのか。」


 聴覚の超感覚も機能している。一匹一匹の魔獣の心音までも聞こえてくる。そして、微かに聞こえてくる何かを吹く音。掠れ乾いた音の出ていない笛の音だ。静かに、素早く併走している者がいる。

 俺はアクセルを全開にしミラーナの側につく。


 「乗れ!ミラーナ!」


 ミラーナは剣で足を固定している縄を斬り、ライドアイバーに飛び乗る。


 「よぅミラーナ、こんばんわだな。」


 「茶化してる場合では無いぞ!何者かが魔獣を操っている、その者を倒さぬ限り魔獣は絶え間なく現れるぞ!」


 ライドアイバーを巧みに操り、ミラーナと共に魔獣を次々と倒していく。


 「それなら、誰かが森の中でついて来てる。音の出てない笛みたいなのを吹きながらな。」


 「操笛(そうてき)か…。良く聞こえるな、ほとんど聞こえない上にこの轟音の中で。」


 「この銃を使った時の特性みたいだ。ミラーナの声もさっきから馬鹿でかい音量で聞こえてくる。」


 前方が徐々に開けてきた。もうすぐ森を抜けて平原に出るのだろう。平原に出れば操っている者を見つけられる。森から出てくればの話ではあるが。


 「う、うわぁぁぁ!!!」


 前方の騎馬隊が急停止する。馬車も急停止するが慣性の力によって馬車は体勢を崩し横転してしまう。後方の騎馬隊は倒れた馬車を避け左右に分かれて停止する。ライドアイバーは真横を向き馬車と接触する手前で停止する。


 「ふぅ、間一髪。前で何があったんだ?」


 一目瞭然、停止した理由を把握した。前方には夥しい数の魔獣の群れが、待ち伏せされていたのだ。


 「ブリュンヒルデたちは平気か?!」


 ミラーナの心配の声、俺は横たわっている馬車の天を向いている扉を開きブリュンヒルデと従者を見つける。二人を抱えて馬車から救出する。従者は気を失っている。ブリュンヒルデは辛うじて意識を保っているが軽い怪我を負っていた。


 「頭から血が流れているが傷は浅い、大丈夫だ。」


 カナメの言葉でミラーナは安堵する。従者のほうにも駆け寄ろうとする。


 「待て、ミラーナ。そいつには近づかない方がいいかもしれない。兵士たちに任せるんだ。」


 ミラーナは振り返り何故かと問う。カナメは帝都で聞いた第一皇女の話をミラーナに伝える。


 「そうか。だが、彼女は私が護衛する。馬車はもう使い物にならない馬を借りるか。」


 ミラーナは兵士から馬を借り、従者を馬に乗せてから馬に跨る。


 「カナメはブリュンヒルデ様を頼む。」


 「結構ですわ。翼を使って…。」


 ブリュンヒルデは自力で立ち上がろうとするが足腰に力が入らない様だ、翼も羽ばたく事が出来ない。


 「お前も睡眠薬を飲まされてたのか。無理すんな、ほれ後ろに乗れ。」


 ブリュンヒルデを抱えライドアイバーの後部座席に乗せる。


 「準備は良いか!行くぞカナメッ!!皆の共、突撃せよ!!」


 雄叫びと共にミラーナ率いる騎馬隊が魔獣の群れに突撃する。狙いはミラーナとブリュンヒルデ、騎馬隊への攻撃は手薄だ。

 これならば港へたどり着きヴァルハラッハ領へ送り返す事が出来そうだ。


 「ミラーナ、大丈夫か!お前も睡眠薬を飲まされてたんだろう!」


 横に並び剣を振るって魔獣を狩るミラーナに言い放つ。


 「心配無用!皆の前で情けない姿を見せるわけにはいかんからな!」


 「ところで貴方、誰ですの!?」


 唐突に後ろで腰にしがみ付くブリュンヒルデがカナメに問う。そういえばブリュンヒルデは変身した姿を見るのは初めてだったな。


 「カナメだ!お前の付き添いをしてやったろ!」


 「あなたが!?随分と変わっりましたわねぇ!」


 まじまじと変身した姿を見るブリュンヒルデ。あまり見られると照れちゃうぞ。


 「ま、そういう事だ。しっかり掴まってろよっ!!」


 ブレイズシューターの咆哮が連続して轟く。真正面の魔獣たちはブレイズシューターの火球を受け爆ぜる。絶え間ない攻撃をし道を作っていく。そしてカナメは目的地を見つける。


 「見えた!あれが港町かっ!」


 遂に港町を目視する。だがこのまま港町に行く事は出来ない。魔獣の群れを連れたまま港町に入れば町は壊滅してしまうだろう。


 「ライドアイバー!ブリュンヒルデを無事に港町に送り届けろ!俺はここで足止めをする!」


 「何を言っている!これだけの数を一人で相手するつもりか!」


 大群の魔獣と一人で戦う。無謀と言っていいだろうが、誰かがやらねばならない事だ。適任なのは、やはり。


 「安心しろ。正義のヒーローてのはな、どんな困難な状況でも負けないんだよ!」


 ライドアイバーを降り大地に着地する。慣性の力で数メートル地を滑る。よし、気合入れろよ、一匹も町へは通してはいけない。


 「カナメッ!!」


 ミラーナの心配する声、俺は振り返らず片腕を天に掲げて心配するなとメッセージを送る。


 「来いよワン公、俺がまとめて相手してやるぜっ!」


 まだ掠れた笛の音が聞こえる。この中に魔獣を操っている奴がいる。さっさとそいつを倒せば済むんだろうがこの大量の魔獣の中に隠れて正確な位置が分からない。けど必ず見つけ出して取っちめてやるぜ。


 「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 ブレイズシューターを水平に振り、横に流し撃ちをする。全ての火球が命中する。強化された感覚のお陰で瞬間的に的を定める事が出来る。


 「ここから先は絶対に通さねぇ!!」


 魔術結晶を取り出す。ブレイズシューターの属性は炎、弾丸。それに見合った魔術結晶を探し使う。


 <灼熱!射撃!強化!>


 途轍もない炎がブレイズシューターの節々から溢れ漏れる。銃身から身の丈を越す火柱を生んでいる。カナメは考えた、そのまま撃つのも気合が足りない気がする、技名を考えよう、と。

 技名を決め、カナメはブレイズシューターを構え魔獣に向ける。


 「喰らえぇ!!!フレイム・バァァァァァァァァァァァァストォォォォッ!!!!」


 銃口からは視界を覆うほどの強烈な光の柱が放たれる。それは超高温の白い炎がジェットの様に噴射され大きな柱の様に放たれている。


 「なぁぎぃはぁらぁえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 全身を使って横薙ぎに銃口を動かす。大出力により動きが重くなりゆっくりと平原ごと魔獣を焼き尽くしフレイム・バーストが過ぎた場所の魔獣は跡形もなく消え、草々が生い茂っていた平原を焼け野原に変えていった。

 半数以上の魔獣を消滅させ、それを目の当たりにして恐れ戦く魔獣たち。魔獣たちの様子を見てカナメが勝ちを確信した時、一斉に魔獣たちが背後を気にしだし森の方へ視線を向ける。


 「おいおい、まだこんなのがいるのかよ。」


 それは体高7メートルはあろうかという狼。地を鳴らして一歩一歩こちらに向ってくる。でか過ぎだろ、今までどこに隠れてたってんだよ。

 魔獣ガルバウルブ、今のカナメにはその名を知る手段は無い。


 「ワオォォォォォォォォォォォォォォン!!!!」


 耳が潰れるかと思うほどの大音量の咆哮。超感覚の弱点だろうか、自分の身を守る為に強制的にブレイズシューターがスパークルオーブへと戻ってしまっていた。再びブレイズシューターへ変えようとしても変わろうとしない、アークザンパーにも他の武器にも変化不能だ。許容量を超えオーバーヒートの様な状態で状態を戻す為のクールタイムが必要という事か。


 「最後は自分の五体で戦えって事か。燃える展開じゃねぇか!!」


 カナメの闘志に呼応して翡翠色の鉱石、パワーストーンが肥大化する。輝きを放ちカナメに力を与える。


 「これは…この翡翠が俺に力を与えているのか。覚悟しろよデカ物!今の俺は絶好調だぜ!」


 カナメは疾走する、パワーストーンの光が推進力へと変わり途轍もない加速を与える。ガルバウルブも地を揺らし疾走する。ガルバウルブの鋭い爪がカナメに向けて振り下ろされる。まともに受ければ重傷では済まないだろう、攻撃を回避すると強烈な破壊力は大地と粉塵を巻き上げる。粉塵に隠れ、ガルバウルブの眼前に現れる。カナメの回し蹴りがガルバウルブの顎に命中する、強力な蹴りでガルバウルブは宙で錐揉みし大地に身を打ち付ける。


 「まだまだぁ!!」


 追い討ちを仕掛けるカナメ。ちょっとした油断が仇となる、倒れているガルバウルブは後ろ足を使いカナメの腹部を穿つ。ガルバウルブの痛打でカナメは身動きが出来なくなる、その隙を見逃さず、透かさず体勢を立て直し大きな口を開きカナメに食らいつく。鋭利な牙がカナメの身体に穴を開ける…とはならずカナメはその両腕で既の所で完全に閉じぬよう防いでいた。牙は腹部をギリギリ刺さる程度のところ、力技で無理やり口をこじ開け上顎を蹴り上げ脱出する。


 「危ねぇー、もう少しで食われるところだった。」


 ガルバウルブの猛烈な突進、土煙と大地を蹴り上げ踏み込んだ箇所は破壊とも思える足跡を残していた。カナメへと迫るガルバウルブを追撃する構えを取る。頭部目掛け踏み込み飛び上がる。左足に力を込める、タイミングを計りジャストヒットのする間合いに入る瞬間を待つ、そしてその時が来た。渾身のカナメの蹴りが炸裂する。しかし蹴りはガルバウルブの頭部に命中することなく空振りに終わる。


 「?!」


 カナメは完全に忘れていたのだ。単なる野生ならば戦いの駆け引きなどなく戦えたのだろうが、今のガルバウルブは何者かによって操られているのだ。ガルバウルブは絶妙なタイミングでフェイントを織り交ぜ、カナメの蹴りを避け側面へと回り込みボールを打ち上げるかのように鼻先でカナメを天高く打ち上げる。

 見た目は地味な攻撃ではあったがその重量と速度は攻撃として通用している。身体の内に響く鈍痛を堪えカナメは空中で体勢を整えガルバウルブを天から見下ろす。ガルバウルブも地上からカナメを見上げ姿勢を低くし踏み込むタイミングを窺っている。次の一撃がこの戦いの勝敗を決める。


 「まさに乾坤一擲だな。」


 乾(天)と坤(地)の命を懸けた一撃、判断を誤れば負ける。カナメの右腕のパワーストーンが強烈な輝きを放つ、冷静さを保ちゆっくりと息を吐く。風を切る音を聞きながらガルバウルブに向って落下していく。


 「まだだ。」


 ガルバウルブに近付いてきている。だがまだ遠い、ガルバウルブもカナメを見上げて動いていない。


 「まだだ。」


 まだまだ遠い。ガルバウルブもまだ動かないが準備段階に入っている。間合いはもうすぐなのだ。


 「まだだ。」


 ガルバウルブの間合いに入る。ガルバウルブは強靭な脚力で飛び上がりカナメに喰らいつこうとする。


 「まだだ。」


 ガルバウルブの顎はカナメを完全に捕らえている。後は閉じるだけでカナメを食い千切る事が出来るだろう。カナメは周囲がスローに感じるほど集中力を高めている。そしてゼロ距離、牙が迫ってきている瞬間。


 「今だっ!!!」


 パワーストーンの輝きが今日一番の輝きを放つ。パワーストーンの力を込めた右手による正拳。カナメは脳裏に既知の技が浮かぶ。その技の名前をカナメは叫んだ。


 「ブライトォォォォォ・キャノォォォォォォン!!!!」


 ガルバウルブの口内に放たれた正拳は光の柱を放ち胴体を貫き貫通させた。凄まじい威力は大地に到達し爆発を生みクレーターを生んだ。カナメは平地に着地し、ガルバウルブはクレーターの底へ落ちる。ガルバウルブは息絶え動かない。カナメの勝利だ。だがカナメも満足とはいえない状況であった。


 「ち、力が…入らない…!!」


 カナメは光エネルギーの力を使いすぎガス欠状態になっていたのだ。カナメは力に制限がある事を覚えていなかったのだ。カナメの変身が解ける、魔獣の群れはまだ半数。絶体絶命の状況だ。


 「くっ…ヤバイな…スパークルオーブも変身も使えなない。」


 魔獣の群れがカナメに一斉に襲い掛かる。ここで尽き果てるのか、そう思った時視界を苛烈な雷撃が魔獣の群れを一掃していく光景を目撃する。


 「!?くっ…これは!」


 周囲を見渡すと見慣れた顔が二つ、馬に跨ったミラーナとブリュンヒルデだ。ブリュンヒルデの放った魔術のお陰で助かったようだ。


 「どうやら、あの者が魔獣を操っていた者のようですわね。」


 全身黒尽くめの巨漢、右手には縦笛が。存在に気付かれた黒尽くめ巨漢は脱兎の如く逃走し森へと姿を消す。ブリュンヒルデはミラーナの顔を見て問う。


 「いいのかしら?あの者を逃して。」


 「良い。捕らえたところで口を割るとは思えん、意味は無かろう。それよりも大丈夫かカナメ。」


 なんとか立ち上がり、空元気を見せる。帰る足はどうしようかと考えているとライドアイバーが迎えにやって来た。


 「おぉう。良い子だなぁライドアイバー、グッボーイ。」


 タンクの部分を撫でると喜んでいるかのように軽いクラクションが鳴る。


 「そういえば、その鉄の馬はいったいなんなのだ?」


 「中々の乗り心地でしたわよ♪」


 ブリュンヒルデに気に入って貰えた様だ。よかったなライドアイバー。しかし体力の限界で会話も億劫な状況だ。


 「悪いけど、今日はもう休ませてくれ。説明は追々するからさ。町に言って兵士の皆と合流しよう。」


 ミラーナはしばし考え快諾する。


 「それもそうだな、町に行こうか。」


 ライドアイバーに跨りミラーナと共に港町へと向った。


***************


 白い雲に青い空、眩しい太陽が宿の窓から覗かせる。ミラーナが手配した宿のベッドの上、昨晩の戦いが余程疲れたのか、大きないびきを掻いて爆睡するカナメ。だらしない格好をし布団や枕は乱れている。その横には身なりを整えたミラーナとブリュンヒルデが立っていた。


 「カナメめ、気持ちよく眠りおって。起こしましょうかブリュンヒルデ様。」


 「いいえ、よろしいですわ。昨夜の功績の後ですもの、今回は大目に見るとしますわ。」


 寝顔を見て微笑むブリュンヒルデ。


 「それに、グランズヘイムの英雄を見たきがしますわ。」


 「カナメがですか?彼の英雄と比べるにはまだまだと思いますが。」


 ブリュンヒルデは口に指を当て微笑を浮かべて言う。


 「確かに聞き及ぶ強き者ではなかったですけど。英雄とは強き力を持つ者ではなく、強い精神を持つ者たちだと私は思いますわ。」


 「強い精神…確かに仰るとおりであります。」


 ミラーナは思う。カナメよ、お前の強さは今もあの時もその心の強さだったのかもしれないな。もし、大いなる力を手にしたとしてもその大いなる心は失わないで欲しいと、そう願う。

 ミラーナたちはカナメの部屋を後にし手配した船の下へと足を運ぶ。


**************


 「ここでもう結構ですわ。」


 船に掛かった橋の前でミラーナと離れる。船の上にはヴァルバラッハの兵士たちが既に待っていた。


 「騒動を聞いたのか既にここまで来ていたのか。」


 ミラーナの言葉を聞いていたブリュンヒルデはミラーナに教える。


 「いいえ、私たちの国には全知と言われるほどの知将がいますのよ。これくらいの事は想定の範囲内なのでしょうね。」


 その知将の事はミラーナも知っている。ロンティヌスを超える知識と知能を持つ者。カエラエルン=ヴォード=ヒルヒアイゼン、ヴァルハラッハの頭脳だ。


 「では、ミラーナ=レベリオ=フィム=シュバーンシュタイン。機会があればまた会いましょう。」


 船に乗り込み橋が切り離される。船が出港するその時、男の大声がブリュンヒルデの耳に届く。


 「おぉーい!ヒルダァー!また遊びに来いよぉー!」


 「カナメ!」


 ブリュンヒルデの顔が見る見る笑顔に変わり、船の手すりから身を乗り出しカナメに向って大きく手を振る。


 「またお会いしましょう!カナメ様ー!ヴァルハラッハにも遊びに参られて下さいませー!」


 カナメも大きく手を振って答える。「おーう!じゃあ気をつけてなぁー!」


 腰に手を当て満足気に笑う。それにしてもカナメ様って、木っ端から随分とランクアップしたな。嬉しい事ではあるけども。


 「随分と仲良くなったものだな。」


 不機嫌そうなミラーナの声が聞こえる。


 「なんだよ不機嫌そうな顔をして、いい事だろ色々な人と仲良くなるのは。」


 むっすりとして返事をしない。なんだろねこの感じ。


 「それにしてもアイツはなんで使者になったんだろうな。」


 ミラーナに聞くと不機嫌そうな態度は少しだけ和らいで答えてくれた。


 「直接面会するのは初めてでな、聞いてみたが『気紛れだった』と答えてくれたよ。まったく食えないお方だ。」


 「気紛れ…か。一人でグランズヘイムに来たりしてホント自由な奴だなぁ。」


 「それにしてもヒルダとは馴れ馴れしくしすぎではないか!」


 ミラーナに肘でわき腹をどつかれる。別にいいと思うけど、ミラーナはお堅いお人で。


 「なんだ。」


 「なんでもないっす。」


**************


 海を漂う船の上、港町の方角を見つめるブリュンヒルデ。胸に手を当ててカナメへ向けて愛の囁きを送る。


 「トーノ=カナメ様…私の英雄…。お慕いしておりますわ。」


 ブリュンヒルデは囁きが波に掻き消されずカナメに届く事を切に願った。

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