プロローグ 『最終決戦』 焼き直し済み
東京の薄暗い青い夜空、星の輝きが見えなくなってきた頃合い。周囲の建物は瓦礫となり無残な姿になっている。風が吹き細やかなコンクリートが舞い上がる。ミサイルが爆発した様な轟音が鳴り響いている。何度も何度も。その度に嵐が起こり周囲をさらに破壊する。何が起こっているのか?それは闘い。正義と悪の雌雄を決する闘い。
「ライオンハートォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!」
その男は人ならざる者。漆黒の皮膚、赤紫の甲殻を持ち、翡翠色に輝く石から光の残像で線を描いていた。恐ろしく速く、強固で、強い。正義を燃やし魂を奮い立たせている。
「トーノ=カナメェェェェェェェェェェェェェッ!!!!」
対する男もまた人ならざる者。黄金甲殻に黄金に輝く石。恐ろしく、おぞましく、神々しい。己の欲望の為に生き、己の意思に忠実であった。いわば純粋であった。
「もっとだ!もっと俺に見せてくれ!!!お前の輝きを!!勇気を!!意志を!!!」
ライオンハートは両手首を合わせ高エネルギー弾を放つ。要の甲殻を焼き溶かすだけでなく多くの建物を破壊する。
黄金の男、ライオンハートはヒーローを求め、愛し、尊重し、尊敬し、渇望していた。ヒーローを見たい、もっと見たい、もっともっともっともっと。未来永劫見続けたい。あらゆる手段を講じヒーローを生み出そうとした。裏切り、嫉妬、理不尽、あらゆる絶望を与えた、怪人を作り多くの人間を襲わせた。逆境こそヒーローは輝くとライオンハートは揺るがぬ信仰を持っていた。与え奪い続けた結果。行き過ぎた彼は魔王となった。
「あぁ見せてやるさ。俺の…俺たちの輝きをなぁぁぁっ!!!」
要は右腕に光の力を籠め、殴りつけるようにしてライオンハートに放つ。その一撃は黄金に亀裂を生みライオンハートを地へと叩きつけ大きなクレーターを作る。
遠野 要、グリットマン。彼もまた魔王の被害者。人間性を奪われ、怪人の力を与えられ、愛しい者も親しい者も奪われた。それでも彼は闘い続ける。何故なら彼は失ったなどと思ってはいない。人間性も愛しい者も親しい者も全て彼の中で生き続けているのだ。彼は絶望なんてしてはいない。何故なら彼は…。
「ヒーローだぁ!!!やはりお前はヒーローだ!!何度と無く絶望の淵へと落としても尚、眩しく輝きながらも這い上がってくる!それでこそ、それでこそヒーローだ!!!」
素晴らしい。素晴らしい。と何度も要を讃える。お前こそ真のヒーローだと。しかしそんな事は要の耳には入っていなかった。俺は俺の意志を貫くまでだ。お前だけは倒さなければならない。例えこの身が朽ちようとも。
「黙れ!ライオンハート!お前はヒーローを求めながらもヒーローになろうともしなかった!!それだけの力を持っていながら!!!」
「それは当然であろう。私は見たいのだ。その勇猛さを、勇姿を、震えるほどの逞しさを!…なってしまってはみれんだろう?」
ライオンハートは根底から狂っている。いや純粋過ぎた。限度を知らない者が力を持った結果と言えるだろう。だからこれ以上ライオンハートを野放しにしてはいけない。
「うおおおおぉぉぉぉぉっ!!!」
右腕の甲殻が展開し翡翠色の石”パワーストーン”が露出する。強烈な輝きを放つ右腕を大きく振りぬく。高密度のエネルギーが大きな柱の様に放たれライオンハートの身体を焼く。しかしライオンハートはその攻撃を受け狂喜する。
「素晴らしいっ!!ここまでの力を持つ者が現れると願ってはいたが実現するとは思わなかったぞ!!!」
立て続けに攻撃を放とうとする要であったが身体に力が入らない。全身のパワーストーンの輝きが弱まっている。エネルギーが底を突き始めているのだ。一瞬の油断、ライオンハートは要の懐に入り込み高エネルギーを纏った強烈な掌底を胸部に叩き込む。衝撃は胸部の甲殻を砕き要を亜光速で吹き飛ばし数十件の建物を貫く。建物の中で瓦礫にもたれる要。パワーストーンの輝きは殆ど無くなり身体を起こす事もできない。
破壊された壁から姿を現すライオンハート。要の前に立ち口惜しそうに口にした。
「どうやら、決着の様だなトーノ=カナメ…いや、グリットマン。」
ライオンハートの左腕が高密度のエネルギーを纏い始める。光を力に変えるグリットマンであるがエネルギーが放つ光では現状の要を回復させるには至らない。
「さらばだ、グリットマン!!」
ライオンハートが拳を振りかぶったその時。背後から強烈な光が放たれる。
「なにっ!!」
振り返ったライオンハートが目にしたのは建物が倒壊したお陰で見晴らしが良くなった風景に黄金色に輝く地平を生む朝焼けの輝き。太陽は徐々に輝きを強めていく。ライオンハートはその光景を見て密かに胸を躍らせていた。
「おはようさん。」
振り返ると同時に要の正拳がライオンハートの頬に衝撃を与える。ライオンハートは弾丸の様に吹き飛び落下し瓦礫を巻き上げる。
要は壊れた壁から外へと飛び立ち、小高い瓦礫の上に着地する。全身で朝日を浴びパワーストーンの輝きを増幅させていく。
「さぁ、ライオンハート。決着と行こうぜ。」
要の全身の甲殻が展開しパワーストーンから強烈な輝きを放ち始める。
「ライトオオオオォォォ・アアアアァァァァァップッ!!!」
要が覚悟を籠めた雄叫びを上げると漆黒の皮膚は銀色へと変色し赤紫の甲殻には銀色のラインが描かれる。力を蓄えた要だが身体は既に限界、要の命を賭した最後の一撃だ。
「私はこの時を待ち望んでいたのだっ!私も全身全霊を持って応えようではないかっ!!なぁグリットマン!!」
ライオンハートの全てのパワーストーンが展開、エネルギーが爆発的に膨れ上がる。だがライオンハートが行っているのは力を増幅させる対価に命を消耗する諸刃の刃。ライオンハートもまた魂をかけた最後の一撃を放とうとしているのだ。
「ハアアアァァァァァァァァァァ!!!」
カナメは全パワーを右足に集中する。大量のエネルギーが天へと続く滝の様に溢れ出す。ゆっくりと構えを取る。必殺の技を放つ為の力を溜める様に。右足へと光が集まり漏れ出すエネルギーが右足を包み始めた。
「オオオオォォォォォォォォォォ!!!」
ライオンハートも同じ様に両足のパワーストーンから大量のエネルギーが天へと続く滝の様に溢れ出す。ゆっくりと構えを取る。必殺の技を放つ為の力を溜める様に。足元には魔法陣が現れ、両足へと光が集まり漏れ出すエネルギーが両足を包み始めた。
両者共に踏み込み同時に飛び上がり、迫り合う。
「シャァァァァァァイニングゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
「オォォォォォォバァァァァロォォォォドォォォォォ!!!」
天へと上った両者は必殺技を繰り出す。カナメは右足で。ライオンハートは両足で蹴りによる必殺技。
「「キィィィィィィィィィィックゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」」
両者の必殺技が衝突し爆発が起こる。周囲一キロを巻き込み地表にはクレーターが出来上がる。
そこで異変が起こる。カナメもライオンハートも異常に気付いてはいなかった。カナメたちの周囲の空間が歪んでしまっているのだ。
「オォォォォォォォォォォ!!!ライオンハァァァァァァァァァァァトォォォォォォォ!!!!」
「ハァァァァァァァァァァ!!!トォォォォォォノ=カナメェェェェェェェェェェェェ!!!!」
空間の歪みはさらに深刻になる。地表は割れ大地が逆立つ。周囲の瓦礫も重力を忘れ浮き上がる。
やがて歪みは収縮を始め両者を飲み込み始める。収縮は止まらずどんどんと小さくなって行き米粒ほどにまで縮小し遂には。
二人は荒れた東京を残し消えて行った。




