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私たちが恋人になる理由  作者: YOGOSI
八話目
99/159

私のクラスが変わっていく理由Ⅱ


 次の授業の時間、私は考えていた。



 小野風華という人物も、中々に不思議な人物である。



 改めて言うが、成績優秀、運動神経良好。背は小ちゃく寡黙で、好き好んで誰かと話すタイプではない。



『小野さんはなんでうちの学校に来たんだろうね?』



 うちの学校は一応、進学校ではあるものの、私と晴彦のように『滑り止め』という立ち位置できている人間が半分。本当に頭がいい人は、他の進学校に合格している。



 少し前に本人に直接聞いたときは、『家が近いから』とぶっきらぼうに言われた。



 しかし、風華の家から他の進学校の通学距離も、電車でひと駅ふた駅と言ったもので。頭がいい風華にしては具体性に欠けるし、何よりその話題に興味がなさそうな顔をしていた。



 クラスの皆も、不思議に思っている。



『小野さんって、なんでうちにいるの?』



 それは私たちのクラスを一つの纏まりと認めたが、風華だけは未だクラスの部外者的扱いのような気がする。皆、どこか風華には余所余所しい。仲がいいのは私と茉莉位だろうか。風華も風華で一人を好むものだから、クラスから孤立し始めているような気がする。




 徐々に、だけれど。私のクラスの雰囲気から、風華の色が薄れていく。そんな気がした。



 しかし、風華自身、それを良しとするような気配があるのも確かなのだ。それがわかるからこそ、私も、そしてきっと茉莉も、それを良しとしている。



 なぜなのかは、誰も知らない。ただ、風華も晴彦には少し気を許している。そんな気がした。そしてその事実に、不思議と胸が痛まない自分がいた。



「えー、明日で実質授業は最後ですが――」



 ホームルームで鈴森先生がこれまた面白みのない連絡事項を告げて、彼女の今日の仕事は一応終わる。



 教壇で安堵のため息を隠そうともしない彼女に、魔の手が迫っていた。



「鈴森先生」



 風華が話しかけると、それを珍しく思うクラスの皆からの期待の視線が飛ぶ。



『鈴森先生の授業面白くないからな』『喧嘩か!?』などと男子が噂しているのが聞こえる。後ろにいる私たちは、風華が何をする予定なのか知らない。



「あっと、小野、さんと、北川さんと早川さん、よね?」



 一応名前くらいは覚えていたのか。風華と茉莉はある意味では問題児だから覚えやすいだろう。



 風華の名前は担任から聞いているだろう。小野風華を特別視している先生は多い。



 自分の授業で毎日寝ている茉莉は嫌でも目につくだろう。私はまあ、彼女らの一味である。



「そうですけど」



 愛想のない風華の表情に、少しだけ怯えている様子だった。



 年下に何か言われたら立ち直れるのかしら。そんな不安が表情から読めた。



「夏休みで、プールとか行きました?」



「え?どうして?」



 突然の質問に戸惑う鈴森先生。



「特に他意は。行きましたよね?」



「ええ、そりゃあ、海にもプールにも行ったけど……」



「そこでナンパされましたよね?」



 その言葉を聞いたとき、彼女の顔が青ざめるのを感じた。



 なんだ、どうした。やっぱり喧嘩か?騒ぎの範囲が大きくなりつつある。



「ど、どうして……」



 良からぬ妄想が彼女の中に生まれたような気がした。そしてそれは大いに見当違いな方向に育っていく。



「隣のクラスの佐々木裕翔。連絡先も交換したんでしょ?」



 風華の詰問に、刑事ドラマの犯人のように後ずさる先生。少しかわいそうな気がしてならない。



「な、何の……」



 小野風華は手を抜かない。言い訳を許さない。



 風華は周囲を見渡して言い放った。



「なんだか騒がしくなってきたわね。ちょっと場所を移しましょうか」



 今までに見せたことのない、意地悪い笑顔を見せて。



「遅くなっちゃったら、退屈でこの噂ばらしちゃうかも」



 女子高生は噂好き。それは真実ではあるのだが、悪いことに尾ひれ背びれをつけるのも大得意なのである。



 そうして学校を出て、四人で行き着く先は適当なファミレス。



「わー、私久々かも」



 思えば、家庭で外食をする経験のあまりない私にとって、ファミレスというのはあまり近しい存在ではなかった。



 安っぽいが安心する色使い、高級感のないテーブルにソファ。まさにファミレス、親しみやすい場所。



「私は結構来てるぞ」



 確かに、茉莉の佇まいはファミレスに慣れているようでもある。



「で、何の話かはわかってるよね」



「……」



 しかし、隣では風華が警察のように睨みを効かせ。鈴森先生、いや、鈴森佐絵さんは犯罪者のように項垂れていた。



「明日音は何にする?」



「ちょっと待って。へぇ。色々あるんだ」



 こういう時、茉莉の存在は非常に助かる。



「風華は?」



「適当でいいわ」



 興が乗ってしまったのか、風華の演技は崩れず、そして佐絵さんの誤解も解けない。



「その……」



 腹をくくったのか、佐絵さんが風華に話しかける。先生という鎧を脱いだ彼女は、私たちとそう変わらない雰囲気を纏っていた。



「お、小野さんは、佐々木くんの事が好きなのね?」



 そう言われた瞬間の風華の顔は、歪んでいた。



 生まれてこの方、賞賛こそされ、侮蔑はされたことのない風華にとって、その言葉は最高に風華を馬鹿にするものだった。いや、佐々木くんには本当に申し訳なく思うのだけれど。



「っブふっ!?」

 その顔を見た瞬間、お冷を口に含んでいた茉莉が盛大に吹き出し、苦しそうに噎せた後、盛大に笑い出す。



「……明日音」



 隠れてクスクス笑っていた私に、風華の視線が飛ぶ。射殺すというのはまさにこんな感じなのだろう。



「ご、ごめん……」



 しかし、その視線は先ほどの表情のインパクトには勝てない。



「えっ!?なに。どうしたの、二人共」



 この件に関しては、少なくとも彼女は全く悪くはない。



 佐々木裕翔という人間は確かに、見知らぬ人間からすれば格別にイケメンであり、モテるのだろうと思わない人間はない。そこに、問題が起こるとするなら一つしかないのだ。



 茉莉が散々に笑い。私の感性も落ち着きを取り戻した頃には、その誤解は解けていて。佐絵さんも改めて安堵の息を吐いてファミレスの机に突っ伏していた。



「ホント、びっくりしたー」



 疲れた。それを主張するように、髪の毛が力なく垂れ下がっていた。



「……少しやりすぎたのは認めるわ」



 しかし決して謝らない。それが小野風華である。



「風華のあんな顔始めてみた。写メっとけば良かったかな」



 注文したパフェを食べながら茉莉が呟く。私も小さめのデザートを頼んだ。

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