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私たちが恋人になる理由  作者: YOGOSI
八話目
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幼馴染が不機嫌な理由Ⅱ



「おお、そうか!そうだよな、やっぱいいとこ見せないとな!」



「うちのクラスは運動部も少なめだし、若干不利っぽい、というか、優勝は無理ね」



 明日音のクラスはテストの成績上位者が多く、運動部が少ない。平均点を風華が押し上げているのが少し可哀想だ。我がクラスはその逆。男子女子ともに体育好きの巣窟である。



「楽しめればいいんじゃないか?私だってそうだし」



 茉莉と風華はもとより勝負をする気はなさそうだ。事実、陸上競技大会で一年が総合優勝をかっさらったことはないのだという。




「三年生はこの陸上競技大会のために、まだトレーニング続けてる人もいるらしいよ」



 大人しく受験勉強してればいいのに、と風華が毒づいた。



「ま、いきなり環境を変えるのは難しいからな」



 小学、中学、そして高校。俺の環境は変わったようで変わってない。人間は小さな変化を好み、大きな変化を嫌う生き物だ。



 ゆえに、ゆっくりと。恋も何事も。急いては事を仕損じるという格言の如く。



「こうしちゃいられねぇ。晴彦。うちらは総合優勝狙うぞ!」



「お?おー、そうだな。やるだけやるか」



 陸上競技会は二週間後。やれることは色々ある。



「んな悠長なこと言ってんじゃねえ!今日から絶対部活に顔出せよ!?」



「えー……」



 ある程度は頑張るつもりではいるが、スパルタなことをするつもりはなかった。



「明日音ちゃんだって、晴彦が活躍したほうが嬉しいだろ!?」



「え?あ、うん?そう、かな?」



 明日音はいろいろ変わったが、勢いに流されると容易く言いくるめられるのは変わっていない。



「そういうことで、暫く放課後晴彦借りるから!なに、数時間で返すよ!」



「あ、うん、はい。どうぞ……」



 納得をしていない表情の返事に、風華がまたため息を吐く。



「明日音は本当に相変わらずね」



 そんなこんなで話がついてから数日。俺はバスケ部とともに、本気で体力作りをする羽目になった。



 無論、本気の体力作りは尋常じゃないくらいキツイ。そもそも、俺はそこまで体力がある方ではないのだ。そのため、ここ最近は家に帰ってからも録に勉強もせず、疲れて寝るということを繰り返した。その間に、小夜さんのその事件もあり、その結果。



「いい加減期限直せって……」



 明日音の部活に付き合って帰宅する道の途中、明日音は未だ不機嫌そうだった。



 いつものようにバスに乗り、バスを降り。見慣れた家までの道のり。



 秋の空は雨も降ったり晴れたりと、落ち着きがない。街の数少ない木々が赤くなってきて、夕焼けの風情は増したが、未だにそれを安穏と拝むことはできない現状が続いていた。



 一緒に帰るのは一週間ぶりくらいになるだろうか。道路に横たわる、散った赤い葉を踏むたびに、情けない音が鳴る。



「別に不機嫌じゃないし」



 そう言いつつも、いつもの無表情が明らかに不機嫌顔である。何が不機嫌なのかはよくわからない。



 今まで明日音が不機嫌だった時がなかったわけではないのだろうけれど、明日音がこんなに不機嫌な顔になったことはないのだ。



 無言で歩みを進める。



 怒っている、ということはなさそうだが。



 機嫌を直してもらおうにも、何をすればいいのかがわからない。



「そう言えば、明日音は何に出るんだ?」



 競技は一人最低三種目、最高八種目まで参加できる。



「私?借り物競争と、マリ入れと、あとは騎馬戦かな」



 女子全員参加の騎馬戦と、大人数が参加する鞠入れはともかく。



「借り物競争?大丈夫なのか?」



「え?借り物競争って、ただ物借りるだけでしょ?」



 明日音は瞳を瞬かせる。



 そうなのだが、陸上競技会の笑いの名物でもあるのだ。



「うちの借り物競争には、借りれるものは書いてないらしいぞ」



「……どういうこと?」



 聞いた話だ。



「有名人の名前だとか、動物の名前だとかが書いてあるらしい。で、そのモノマネできそうな人をつれて特設ステージまで行く。そこで審査員の許可が出ればゴール。不許可が出れば借り直し。去年はそんなだったらしい」



 このルールを聞いて、明日音は安堵する。



「私がモノマネするのかと思った……」



 当然、明日音にそんな器用なことできるはずもない。



「いや、でも、審査員が許可出すまでずっと探し続けるんだぞ?それに、皆モノマネなんてしたくないから逃げるし」



 とはいうものの、この競技、実は借りられる方にも得点が入る。ゆえに、積極的な人は少なくはないのだという。モノマネが上手い方が高得点なのだとか。



 ガチ系競技とは裏腹に、ネタ系競技の力の入用は尋常ではない。目立ちたくないのであれば普通に走ったほうがいいという奇妙な大会だ。いや、大会というより、祭りの一種なのだろう。



「そ、それはちょっと、嫌かも」



 明日音の脳裏には、誰からも協力してもらえなず右往左往する姿が映っているのだろう。基本的に明日音は後ろ向きな思考の持ち主だから。



「まあ、審査員も空気読んでくれるだろうし。頑張れ」



 長すぎてもグダるし、短すぎても面白みがない。悪ふざけ分の強い競技である。審査員にもそれなりの技量が求められる。



「うーん、不安になってきたかも……」



「俺もリレーは不安だし、お互い様だな」



 アンカーではないにせよ、陸上の花とも呼ばれる競技にでることには抵抗があった。



「応援するよ」



 ふふ、といつものように明日音が笑う。



「違うクラス応援したらダメだろ」



「個人的にだからいいの」



 そう笑う明日音は、いつもの明日音で。



 不機嫌を持続させるには努力がいるのだ。良くも悪くも、明日音にその根気はない。

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