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私たちが恋人になる理由  作者: YOGOSI
七話目
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二人の写真が危険な理由Ⅱ


「そうかもしれないですけど、一人でやってたらあの人が来るかもしれないじゃないですか!一緒にやってくださいよ!」



 半ギレのような状態でお願いされた。そこまで嫌なのだと、一年の皆も察する。



「はいはい、じゃあ、盆明けの活動はそれね。しかし、現生徒会長も嫌われたもんね」


「そこまで悪い人には見えませんでしたけど……」


 一年から擁護の声が上がる。まあ、私の目にもそんな粘着質な人のようには見えなかった。あまり覚えてないけれど。


「何ていうんですかね……。ちょっとナルシストなんですよね。生徒会ってすごい、生徒会長の俺ってすごい、素敵だろ?みたいなオーラが出てるんですよ。無駄に自信満々で。成績は確かにいいらしいんですけど、一緒にいるのはちょっと無理ですね」



 普段悪口を言わない春風部長さえも、明確な否定の言葉。そこまで言われると、どんな人物だろうと少し気になる自分もいる。まあ、他人事だからだけれど。


 わかるわかる、と頷いている先輩がいるのだから、多方女子の評価はそうなのだろう。



「その点、晴彦くんは良かったよねぇ」


 ドキリ、とする。


 あの合宿が終わってから、料理研究部で晴彦の株は急上昇だ。前は『明日音の幼馴染』とか『幼馴染くん』だったのが、『晴彦くん』に変わってしまっている。



「わかるわかる!クラスの男子みたいにガツガツしてなくて、大人っぽくて」


「そうそう!一緒に遊ぶとこっちを気遣ってくれるのがわかるんだよね。女性として扱ってくれるっていうの?ありゃあ惚れるわ」


 ニヤついた視線が私に飛ぶ。


「な、なんですか……」


 つい、不機嫌そうな言葉を返してしまう。


「明日音、別れたら言ってね?晴彦くん慰めに行くからさ」


「何で私が振る流れになるんですか?」


 尋ねると、先輩の一人が返す。


「そりゃあ、私たちから見ても、明日音から振らなきゃ別れないってわかるし。いい男捕まえやがって」


 そうなのだろうか。


 あの時、私はその場にいなかったから何とも言えないが。


「でも、合宿の写真で二人が写ってる写真ってあまりないですよね」


 悪魔という名の部長が声を発する。


「あー、そう言えばなかったかも?」


 合宿ではスマホやデジカメで、生徒側、保護者側で多数の写真が取られていた。


 しかし、その中で私と晴彦が写っているのは集合写真ただ一つ。


「晴彦は部外者ですし」


 そう、晴彦は私が連れてきたゲストである。それに保護者の気持ちも鑑みると、女だらけの料理研究部で晴彦を好んで撮る保護者もいないだろう。


「でも、明日音ちゃんは、なんというか、思い出作りの為に、晴彦くんを呼んだんですよね?」


 そして、小夜姉さんから距離を置かせるための作戦だった。


「じゃあ、二人だけで写真とか撮ってたりして?」


 部室替わりの家庭科室が、一瞬沈黙に包まれた気がした。


「い、いいえ。そんなのはないですよ」


 はっきり言えば、私は演技が下手だ。晴彦の前で素直なのも、晴彦が容易くそれを見破ってくるからである。


 結局バレるのなら、素直に言ってしまったほうが得だ。そう思えるようになったのも、実は最近だ。


『晴彦の匂いが好き』


 とカミングアウトしてから、晴彦とのスキンシップの回数は格段に増えた。


 晴彦は、私が喜ぶと知ってか、いくら汗をかいている状態で近づいても逃げなくなった。


 正直者が得をすると知ってしまえば、嘘はどうしても下手になる。しかし、それが今回は裏目に出た。


「……これはあるね。やばい写メが。恐らく、明日音の携帯のフォルダの中に」


 心臓が悲鳴を上げる。


「クラスメイトの写メとかたまに見るけどさ。多分、これはそれ以上にヤバイ写真がある予感」



 野獣の群れに飛び込んだような不安感。


「ちょっと、止めなよ。プライベートの写真なんて、見られたくないものもあるだろ?」


 最後の良心の彩瀬先輩さえ、その勢いを抑えきれない。


「見られたくないなら写真など取らないし、残しておこうなんて思わないものですよ、萌々果ちゃん。あるかどうかは別にしても、明日音ちゃんの携帯の写真フォルダは。私も気になるところではあります」


 この問答に私が勝つ術はもうない。


 私の携帯の画像フォルダには、確かに私と晴彦の人様には見せられないツーショットや、晴彦が寝ている時の隠撮などが多々入っている。


 二人で撮る写真の中の私は、私自身驚くほど満たされている。

 

 へぇ、あの感情はこうして表情に出るんだ、と自分でも驚くこともあるし、後で見てもその時の胸の高鳴りが蘇るよう。


 先の合宿で言えば、二人で一緒に温泉に入った後に、写真を撮ったりしている。


 見せることに抵抗がない、とは言わない。


 見せない、と言っても、それは『ある』ということと同義だ。


 そして、写真の中の私は、きっとここに居る誰もが知らない顔をしているのだ。


 見せるわけには行かない。私の面子にかけて。


「ちょっと気になるねぇ、明日音のラブラブな写真は」


 先輩方も皆、乗り気のようだ。


「み、見せませんよ?」


 私の言葉も、当然、という風に皆は受け取る。


「ただで見せてもらおう、ってんじゃないよ」


「そうだね。やっぱりそういうものは勝ち取らなきゃ」


 合宿の成果、という訳でもないが、料理対決を経て、我が部に一つ、余計な伝統が追加されつつあった。


『料理研究部の勝負は料理対決』


 無論敗者は罰ゲームであり、基本的には部長仕様の食べ物になるのだが。


「明日音が負けたら、秘蔵の写真フォルダ公開ってとこで」


「ええ!?それだったら毒を飲みますよ!」


 その言葉に皆吹き出すように笑い、


「毒とは何ですか毒とは!明日音ちゃんは写真公開が罰ゲーム!部長命令です!」


「そんなぁ」


 なし崩し的に、私の罰ゲームが肉体的なものから精神的なものに変わる。


「ま、負けなきゃいいのさ、負けなきゃ」


 副部長がさらりと言い放つ。


「だが、陸上競技会の話し合いが先だ。遅れると生徒会長に首を突っ込む機会を与えてしまうからな」


 綾瀬副部長の言葉は、魔法の言葉だった。


「そうですねぇ。それは避けたいです」


「ま、私らが対応するワケじゃないからどうでもいいけど」


「わかんないよー?春風が無理だと知ったら別の誰かに目を付けるかも」


 正直に言って、生徒会長に謝辞を送ってもいい。私の話は、あまりにすっぱりと終を迎えることができた。



 願わくば、このままずっと皆が忘れてくれることを祈るばかりだ。


 その後、陸上競技大会の『特製ドリンク』『特製パン』の方向性を笑いがなら打ち合わせる。


「ドリンクはやっぱり、滋養強壮をメインにしたいね」


「ということは、栄養ドリンクと高カフェイン系でしょうか?」


「パンはどうすんの?中身で勝負?」


 基本的にはやはり、春風部長が先導する。



 しかし、会議の内容は思うように進まない。特にパン。ホームベーカリーでやれることには限りがある。


「不味いものを意図的に作る、というのも、中々難問だね」


「ホント。春風は天才だわ」


「褒めてないですよね、それ……」


 料理が出きるようになると、意図的に不味く作ることは困難になる。


 脳が、やってはいけないこと、と認識してしまう。普通、料理に失敗すればそれはもう『食べられるもの』ではないのだ。成功してなおかつ『不味い』というのは、ある種の才能がいる。


 そして、『パン食い競争』という詰まらない競技を面白くする為には、意表をついた、『不味くて笑えるパン』が必要である。


「とりあえず、次集まるときはもっとドリンクのほうを煮詰めましょうか。皆さん、良いアイディアがあったらお願いしますね」


 意見の纏まらないまま午前が終わろうとする。午後にまたがって部活をすることは基本的に無い。


「次は盆明けだな。実質その時決めないと時期的にも不味い。良い案が出ないと長丁場になるかもしれないぞ」


 皆、気のない返事を返す。


 夏休みに余り縛られず、しかし予定が無いわけでもないこの部活は、実に居心地が良い。


「ああー、もう直ぐお盆かぁ。お母さんの実家に行くの億劫なんだよなぁ」


「そう?私は好きだけどな。あっちの名物食べれるし」


「それは都会だからでしょ。家の実家は田舎だから」


 そんな会話は、私には縁のないことだった。


 夏休みも半ばを過ぎる。


 晴彦も、盆には実家に帰宅する。


 私にとって、空虚な数日が迫ってきていた。


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