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私たちが恋人になる理由  作者: YOGOSI
四話目
39/159

俺がバスケをやっていた理由

 バスケットボール。


 それはアメリカで考案された、五人対五人のチームが、ボールをゴールに入れることで得られる得点を競い合うスポーツである。


 ルールは色々あるが、サッカーやバレーのように、バスケにも一人ひとり、ポジションがある。


 大きく分ければ三つ。ガードとフォワード、そしてセンター。


 これも細分化すれば色々とある。


 コートの中には五人しかおらず、ボールの動きも、状況も刻々と変わる。


 サッカーがゴールを目指す川の流れだとすれば、バスケットは激流。ぶつかり合い、押し流し、押し流され、押し戻す。


 一度流れを制した位では試合は終わらない。幾度もぶつかり、それを時間まで繰り返す体力、精神力、経験。


 サッカーもバスケットも、きっと他のスポーツだって、基本的に上手くなる為にやることは変わらない。


「おお、なんだこれ……」


 試合当日の体育館は、俺自身も少し驚く程の客数だった。


「なんだろうなぁ。俺もよくわからんが、勝ったことを証明する客が多いのはいいことじゃね?」


 裕翔は然程気にもしていないという風に、身体を解していた。


 佐々木裕翔。ポジションはスモールフォワード。一言で言えば、色んなことをこなす万能タイプ。だが、裕翔は万能というよりインサイドに能力が突出した形。


 自らのチームを率いて、敵の流れに歯向かう最前列。


 その重圧に耐えうる精神力、体力、そして度胸。これは余分だが、人を惹きつけるルックス。チームの先頭を駆けるに値する、非常に目立つ男である。


「宣伝してはないけれど、いつの間にか知れ渡っちゃったんだよね」


 バスケ部の一人が声をかけてくる。


 お早うございます、と裕翔が慇懃に挨拶をするところを見ると、先輩でかつ、実力者なのだろう。


 大柄な体つき、百九十はあるだろう身長にいまいち似合ってない優しげな顔つきは、一目見ただけでセンターとわかる。


 鍛えられた上へ飛ぶための強靭な足腰は、横へ走るための筋肉とは質感が違う。


「君が、裕翔の言ってた助っ人だね?」


 優しかったその瞳はしかし、厳しく俺を見る。まるで能力を見定められるかのよう。


「は、はあ……」


 今更ながら、これは俺が関わって良い問題なのかわからなくなる。


「経験者が足りてないというのは事実なのだけれど、部外者に頼ってしまっていいのだろうか……?」


「大丈夫ですって、嶋村先輩!晴彦の実力は俺が保証します!」


 力強く裕翔が反論する。


 実力的には相当の信頼を勝ち得ているのか、先輩の顔が少し落ち着きを取り戻す。


 裕翔が勝ちたいのはわかるが、やはりスポーツは勝ち方も大事なのだ。反則をして勝っても、相手側も、そして味方側も納得はいかないだろう。


「俺が出るのは、ルール違反とかじゃないのか?」


 今更な質問だった。いくら二年が一年の顔を覚えてないにしても、後々で問題になるだろう。


「試合で決着をつけるとは言ったけど、助っ人を呼んではいけないというルールはない。あっちもちょっと汚い手で一年引き抜いてんだし。いいだろ、別に」


 裕翔がにやりというと、嶋村と呼ばれた先輩は苦笑した。聞く限りでは屁理屈にしか聞こえない。


「確かにそうだ。お陰でこっちのチームは、君を含めて七人しかいない。ちなみに、ポジションはどこだい?」


 ちなみに、この汚い手、というのは脅しや賄賂だそうだ。


「一応、ポイントガードをやってました」


 ポイントガードというのは、一言で言ってしまえば司令塔だ。試合の流れの起点になるのが役割。


「ちなみに聞きたいんですが、この試合で俺らが勝ったら何がどう変わるんです?」


 俺が聞き返すと、嶋村先輩は俺に向き合う。


「まず、練習のメニューが変わる。そして、キャプテン、いわば部長の選出方法が変わる。最後に、レギュラーの選抜方法が変わる」


 有り体に言えば、全部変わる、かな、と先輩は笑う。


「……先輩はどうしてこっちに?」


 続けて聞くと、先輩は少し難しそうな表情をした。


「はっきり言ってしまえば、居心地が悪かったから。目標に向かう努力ができないってのは、悲しいだろ?」


 一年は、試合に出れるような努力をする場所すらない。それが、現状のバスケ部。


「皆、一年の時同じように愚痴ってた筈なんだけどね」


 まあ、仕方ないけど、と先輩は辛そうに笑う。同じ辛さを分かち合った仲間が、同じ辛さを与える側に寝返ったのだ。


 向こうの二年生は、この先輩を裏切ったと思うのだろう。理不尽なことだ。


「なんにせよ、バスケの問題はバスケで解決。勝てば官軍って奴」


 民主主義などどこの主張だ、と言わんばかりの裕翔。ある意味では、実力で権利をもぎ取ろうという実力主義と、多数を集めることによって主導を取ろうという民主主義の闘いとも言える。


「そう考えると、ちょっと面白いな」


 磐石な布陣を、一騎駈けで滅茶苦茶になる様を、崖の上から見下ろすような気分は、どんなものなのだろうか。


 戦いというのは、強者を下すからこそ面白い。


 成り上がること。チェスのポーンがクイーンになるように、歩が金になるように。


 俺が思う、戦うことの醍醐味。


 知恵と、経験と、努力と、その他諸々を全てぶつけ、格上を下すことが勝負の面白さ。最初から頂点にいるのでは、面白くない。


 俺のやる気が出たことに、先輩は笑ってくれる。


「まあ、最初は俺たちが出て様子を見る。後は臨機応変にメンバーを変えていこう」


 他のバスケ部の一年と、軽く挨拶を交わす。こちらも実力はありそうだが、どこか意識過剰な雰囲気がある。


 バスケをすれば自分の方が上手い、と、ボールを交えてないからこそ言えるということもある。そういう判断をすれば、向こうについた一年の数は、二年の実力を物語っているような気がした。


「なんだ?」


 不意に、会場が沸騰するように沸く。


 気になって、皆二階のスペースへと目を向ける。


 皆の視線の先は、試合が始まるコートよりも、ある女性に向けられているようだった。


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