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私たちが恋人になる理由  作者: YOGOSI
四話目
37/159

恋と友情が違う理由


 中学の頃に、晴彦のバスケの試合を見たことがある。


 とは言っても、本当にただみていただけ。バスケットの面白さを知っているわけではないし、私自身どんくさく、ボールを目で追うのが精一杯。晴彦が上手いのか下手なのかさえ、中学の私には良くわかっていなかった。


 ただまあ、晴彦がバスケの試合に出る、というから。それに、周囲の人たちも、バスケをやっている晴彦は格好いい、とよく言っていた。


 私は、よくわからなかった。


 他の人が、どういった意味で、バスケットをしている時の晴彦が格好いいと言っているのか。


 試合中の晴彦は、確かに別人のようではある。けれど、それが果たして『そう』であるのかどうか。まだ何も知らない、眠ったままの私には、何も感じることができなかったのだ。


 だから、晴彦も試合を見に来ると、『珍しいな』とか、そう声をかける。


 私が興味を抱いていないということを、晴彦は漠然と理解していたのかもしれない。


 しかし、である。


「……」


 私の眺める景色には、必死でボールを追いかける二人の姿があった。


『残念コンビ』


 その名を冠する二人の男子。今目の前で繰り広げられる戦いを見れば、そんな言葉は出てこない。


 戦い、というよりは、闘い、だった。


 闘争本能とでも言うのだろうか。スポーツという枠を超えて、それは何かを賭けて闘っているようでもあった。


 佐々木くんは流石だ。一対一なら、彼の上手さが私にもよく分かる。


 晴彦が止めようと思うけれど、止められない。早いし、どんな時も体制を崩さない。


 剛速球のような彼のプレイは、見るものを一瞬釘付けにする。


 かといって、晴彦が下手なのかといえば、そうでもない。


 晴彦はゆっくり、じっくりと常に何かを考えているような動き。


 佐々木くんもそれに何度か翻弄されたのか、突っ込んでくるような動きはない。


 バスケットに限らず、晴彦には元来、そう言った『上手さ』がある。狡さ、と言い換えてもいい。


 はっきり言ってしまえば、晴彦は人を惑わすとか、そう言うのに長けているのだと、私は今になって思う。


「あっ……」


 つい言葉が漏れるほど、高いシュートは、綺麗な軌道を描いてネットに収まる。


 点が決まった後の、佐々木くんと晴彦の些細な会話や、視線の交差が実に羨ましい。


「男同士の友情、って奴?」


 絵に書いたような青春劇。まあ、本人たちはそう思ってはいないだろうけれど。


「なんか、狡いな」


 友情、という奴は、本当にずるい。


 だって、友達でなくなる、というのは、中々に難しいことだから。例え距離が離れて、会う機会が減ったとしても、友情というのは失われない。むしろ、時を経て磨かれたりすることもある。


 だがしかし、私が目指す恋人、というのは、友情に比べてあまりに脆くはないだろうか。


 距離が空いても、時間が空いても崩れそうなほど、それは儚い。


 男子というのは、こんなに短時間で、こんなに硬い絆のようなものを築いてしまう。


 私は、それとない羨望を持って、二人を見ていた。


 しかし、それはやがて晴彦のエネルギー切れで決着するのだった。



「こりゃ、明日は筋肉痛か……」


 晴彦は珍しく足取り重く、歩く姿はぎこちない。


「何年ぶり?」


 中学の時は、晴彦は筋肉痛とは無縁だった。私は今も、体育で頑張りすぎると筋肉痛が襲う。


「三年くらいじゃないか……?」


 しかし、晴彦はどこか満足そうに歩き続けている。


「試合、出るの?」


 私が言うと、晴彦は少しだけ考える素振りをする。しかし、内心もう答えは決まっているのだとわかる。


「ま、出番があったらな」


 その瞳は、どこか楽しそうに光った。


「……見に行ってもいい?」


「なんだ、珍しいな」


 以前よく聞いていた、お決まりの台詞。


「別に構わないけど、明日音バスケに興味ないだろ?そう面白いものじゃないぞ?」


 確かに、バスケットには興味はない。


「そうだけど、料理研究会でもバスケ部が揉めてるって話題になってるし、部で見に行くかも」


 嘘ではない。


 それに、体育館は二階から見下ろすことができる立ち見の観客席がある。


 そっか、と晴彦はただ答えた。


「バスケ部、これを機に入ったら?」


 バスケットをしている晴彦は、どことなく満ち足りているようだった。会う時間は少なくなるが、実は晴彦は部に参加したいと思っているのではないか。


 そう言うとしかし、晴彦は声を上げて唸る。


「前にも言ったと思うけど、俺は本当に、こういった内部の諍い嫌いなんだよなぁ」


 人が集まればその数だけ意見があり、その数だけすれ違いがある。皆、自分とどこか違うとわかっていながら、それを見ないようにして平穏を享受している。


「さっきみたいな、何の蟠りもない、じゃれあいみたいな運動が俺は好きなんだよ」


 お遊び、って奴だな、と晴彦は言う。


 昔から晴彦はこうだったのだろうか。そう思うが、確かに誰かと何かを本気で競っている姿を見たことはない。


「まあでも、ちょっと運動とは無縁な生活してたしな。夜か朝、ランニングでもしようか、とは思うけどな」


「自転車で前走ろうか?」


「明日音だったら自転車でも俺の方が早いだろ」


「そんなことない、と思うけど……」


 私は体力に自信なんて全くない。走るのも遅いし、それは自転車を漕いでも同じことだ。


 そうして帰る茜色の空の下。流石にその日は身体を休めたが、その次の日から夜お風呂に入る前にランニングをするようになった。


 私はなんとなく、ランニングを終えた晴彦に会いに行ったりと、夜遅くにも晴彦に会う口実ができたようで嬉しかった。


『何?夜這いにでも行くの?』と母さんにからかわれはしたが、私たちの関係は未だ健全、だと思う。


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