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私たちが恋人になる理由  作者: YOGOSI
四話目
35/159

俺の悪友がやる気な理由


「で?ここで何するんだ?」


 部活を休んだのか、それともサボったのか。裕翔が放課後、俺を誘った。


 場所は学校からやや離れた河川敷にかかる橋の下。公園のようなスペースに、片面だけのバスケットコートがある。


 古びてこそいないが、柵も何もなく、ボールが果てしなく転がっていくので遊ぶにも不便である。周囲からも丸見えで、利用者を見たことはあまりない。


「決まってんだろ?バスケだよ」


 裕翔は大きなスポーツバックからバスケットボールを出した。


「お前、それ持ち歩いてんの?」


 バスケットボールを持っている人間は少なくはないが、持ち歩くやつは希少だ。ボールがかさ張るし、そこそこに重い。


「んなわけねーだろ。学校のやつだよ。ちょっと拝借してきたんだ」


「備品かよ……。いいのか、勝手に持ってきて」


「良いか悪いかで言ったら悪いだろうな」


 悪びれもせずに言い切り、ボールを跳ねさせる。


 誰かが手入れをしているのか、コート内には砂利一つなく。ボールは思う

方向にきちんと跳ねる。


「ワン・オン・ワンだ。やろうぜ」


 裕翔が俺にボールを投げて寄越す。それを右手で受け止める。懐かしいざらついた手触りがした。


 地面にバウンドさせると、空気が跳ね返る気持ちいい音がする。昔の感覚が戻ってくる。


「まあいいけど。部活はいいのか?」


 お遊びに付き合うくらい容易い。が、どこかこの頃の晴彦は変である。


 教室に居る時は何時も通りなのだが、放課後になればいつも猪のように部活へと行く裕翔の足取りは、日々重くなっているようだった。


「……ま、たまにはいいだろ」


 どこか逃げるような、そうでもないような力強い視線。


「三年が引退して、一年はこれからって時じゃないのか?」


 うちのバスケ部はどうか知らないが、人数が多いと、体育館の広さ故に、一年は延々と外周を走らされたり、雑用をやらされたりするものだ。ようやく、一年に活躍の機会が与えられる時。


 体力作りは確かに必要だし、無駄になることはないのだが、納得のいかない気持ちもある。


 裕翔のようにバスケ経験者で、技量に自信があるなら尚更だ。


「まーそうだけど。つっても、県大会の初戦で敗退だぜ?」


 胸を張れるような成績ではないことは確か。だが、そこまで卑下するような成績でもないだろう。


 裕翔にボールを渡すと、不満そうにボールをバウンドさせた。その技量は確かなもの。


 ボールの扱いがバスケの上手さと比例するわけではないが、技量はないよりあったほうがいいのは確かだ。


「お前が出てたらどうかなった、って訳でもないだろ」


 バスケットはチームプレイだ。


 サッカーのように一点一点の重みはないし、バレーのように敵と味方が分かたれている訳でもない。


 敵味方入り乱れて、点を取り取られ、制限時間まで走り、動き、ボールを追う競技だ。


 バスケットで強いというのは、突出した一人ではなく、チームとしての総合力にあると俺は思う。


「そうかもしれねーけどさ。なんつーか、下級生は上級生の言うこと聞いてろよ、的なところが気に食わねーんだよ」


 よくある、わけではないが、どこでもある問題。実力があっても、一年は試合に出れない。


「つっても、部活初めてまだ数ヶ月なんだから、試合は仕方ないだろ」


 俺は言うが、裕翔は納得できないというふうに視線を逸らした。


「……まあ、いいからやろうぜ。もし晴彦が俺に勝ったら、ジュース一本奢ってやる」


「一年のブランクある奴に良く言う」


 体力も衰えているだろうし、現役の裕翔に勝てる見込みはない。普通の試合ならともかく、ワン・オン・ワンは個人の技量、体力が全てだ。


「まあ、そう言うな。負けても罰ゲームはなしにしてやるから」


「あったら受けるか、こんな勝負」


 こいつも色々溜まっているのだろう。付き合ってやるのも悪くない。


「勝負方法はどうする?」


 裕翔が俺に聞く。そこは譲ってくれるようだ。


「明日音が来るまででいいだろ」


 場所の連絡はしてある。帰り道とは少し違うが、明日音は迎えに来るだろう。


「おーおー、お熱いことで。つまり、実質時間無制限だな?」


「そういうことだな」


 といっても、明日音は今日、そんなに時間はかからない筈。やっても三十分程度だろう。


「手加減は無しだからな」


「勿論。もしかしたら俺のブランクが埋まって勝てるかもな」


「言うねぇ。じゃ、早速やりますか」


 制服のボタンを二つ外す。靴はバスケットシューズではないが、動きやすさに問題はない。


「お手柔らかにな」


 ぷらり、と自然に腕を垂らし、腰を低く。久方ぶりのスタイルを取る。


 心臓はこれから高まる体温と、早くなる血流を準備するかのように震えている。


 脳と瞳は逆に澄み渡るように。雑念が消え、視界が狭まる。ボールと、相手の動きだけに集中する。


 懐かしい感覚だ。呼吸を整える。


 裕翔がボールをこちらに投げる。それを返す。それがスタートの合図。


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