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私たちが恋人になる理由  作者: YOGOSI
四話目
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料理研究部の部長に彼氏がいない理由Ⅱ


「クラスの女子、っていうか、学年で、ですけど。もう一人と一緒にいつも一緒にいて、『残念コンビ』って女子にあだ名付けられてます」


「残念コンビ?何それ!」


 笑いが巻き起こる。


 一緒にいると言うのは、裕翔くんだろう。だが、そのコンビ名は私も初めて聞いた。


「その由来はですねー……」


「あ、お菓子、持ってきますね!」


 話題の盛り上がりにつれて、部長が自らお菓子を用意し始める。


「まあ、まだ時間あるからいいけど……」


 彩瀬副部長も、苦笑しながら耳を傾けていた。


 栗原さん曰く。


 佐々木くんは見た目はとてもいいし、バスケをしている姿はとても格好いい。しかし、話すと余りに強烈過ぎてついて行けない、話すと残念になるタイプ。


「そして高瀬くんはですね、やっぱろ明日音ちゃん一筋みたいで」


 栗原さんが言うと、感嘆の声が上がり、私は恥ずかしさに身を縮める、


「高瀬くんは優しいし、面白いし、結構女子からは人気なんですけどね。もう売約済。二人が一緒にいるので、残念コンビ、って呼ばれる時があるんですよ」


 そのあだ名は、大凡好意的な意味で。


「ちょっと、その高瀬くん気になるね」


「気になりますねぇ」


 部長と二年生が意気投合する。


 よくある流れなのか。ここに連れてこいよ、みたいな空気が蔓延する。


「いや、それは、ちょっと……」


 私が周囲を見渡しつつ、春風部長に視線を合わせないように否定する。


「えー、なんでですか?」


 純粋に残念そうな春風部長に、全部員から冷ややかな笑いが送られる。


「まぁ、そうだよね」


「私だって嫌だし」


 口々に私に賛同する意見者が。


「何でですか?」


 春風部長が不思議そうに瞳を傾ける。


「そりゃあ、春風に逢わせるのが嫌だから」


「どうしてですか!?私、別にからかったりしませんよ!?」


 その理不尽な答えに食ってかかる部長。


「だって春風可愛いし。浮気とかされたらヤバくない?」


 本人を前にしてこういうことを言えるところが、春風部長の人徳であったりする。


「しーまーせーん!そのくらいの分別はあります!」


 からかわれているのだが、今回は口調がリアルなのだった。


「いやでも、もしかしたら春風を好きになって、別れたりするかもしれないだろ?」


 珍しく副部長も部長弄りに参加する。


「そ、それは……」


 まるで存在自体が恋人である二人の障害のような扱いに、やや落ち込む部長。ふわふわの髪が、やる気を無くしたように流れる。


「もし、もしの話だよ?明日音の恋人の、幼馴染くんを呼んで、春風に惚れちゃったら、どうする?」


 正直な話、有り得ない、と言えないのが怖いところである。


 春風部長は、その可愛らしい容姿で祭り上げられているが、実際私と同じような普通の人なのだ。


 風華や彩瀬副部長のように、家がお金持ちだとか、そういったものの何一つない、普通の女の子に違いない。


「え、でも、それは無いんじゃ……」


「甘い甘い。男なんて彼女がいても、美人にちょっと言い寄られたらころっと行っちゃうんだから」


「か、彼女がいてもですか!?」


「浮気は文化とかっても言うしね」


 彼女がいる男は安全。春風部長はそんな風に思っていたのかもしれない。私にも、恋人になればそこで終わりと思っていた時期が確かにあった。


「さあ、それを踏まえて。他人の恋人を奪ってしまった春風は、相手の女子に向かってなんて言う?」


 皆の視線が、部長に注がれる。


「……ご、ごめんね?」


 あらん限りの可愛さで言い放たれたその言葉は、確実に相手の女子の逆鱗に触れるだろう。


「お前は悪魔か!!」


 副部長がそう突っ込んで爆笑する。周囲も、そして私も笑う。


 相手の男を奪っておきながら、笑顔でごめんねというその姿はまさに稀代の悪女か悪魔か。


「もー皆して!じゃあなんて言えばいいんですか!」


 部長がからかわれていたことに気づき、可愛らしく剣幕を貼る。


 皆を魅了する容姿も、いいことばかりではないのだと純粋に思えた。


「こりゃあ、まだ春風に恋は早いね。明日音ちゃんもそうだと思わない?」


 先輩の一人が私に声をかける。彼氏とは中学から交際しているという。


「そうかもしれませんね」


「明日音ちゃんまでっ!?」


 恋というのは、人を汚す泥沼だ。


 部長は、まだそれに気づいていない、綺麗な人。だから皆から愛され、崇められる。まるで聖女のように。


 嵌ってしまえば出られない。いや、出ることを望まない欲望深い底なし沼。


 恋は汚い感情を剥き出しにする。だって、奪われたくないから。


「うう、相談にのってあげたのに……」


「春風に相談とかしてたの?大丈夫だった?」


「それ、ちょっと傷つきます」


 また笑いが起きる。


 そのアドバイスはともかく、耳を舐められたり、一緒のベッドで寝るまで進展があったのだが、話せるはずもない。


 ちなみに、一緒に寝ているところを恭子さんに撮られた件の写真は、私の携帯の奥底に眠っている。


 無論、晴彦には内緒。こういうことも、私が汚くなった一つ。


「ほら、もう帰った帰った。先生に睨まれるとやれることもやりづらくなるからね」


 時刻は五時。まだ早いが、少なくとも先生に良い子ぶることに損はない。


 皆して、家庭科室を後にする。


「あれ、今日はなんだか体育館静かですね」


 後者には旧体育館と、新体育館があり、バレー部やバスケ部、バドミントン部などが日毎に場所を変えて活動している。


 ほぼ毎日と言っていいほど放課後に響く足音や、ボールが跳ね返る音が今日はそんなに耳に届かない。


「あー、男子バスケ部が揉めてるらしいよ。三年が引退して、一年と二年で部の方針で対立してるらしい。それで今は活動してないんだってさ」


 ま、他の部にしてみれば場所が増えてラッキー、ってところだな、と副部長は陽気に言って鍵を締めた。


 私と栗原さんがなんの気なしに視線を合わせる。


 バスケ部の一年と二年が揉めている。その中心にいる人物がなんとなく予想できたからだ。


 携帯を取り出す。晴彦からメールが来ていた。


 教室に、晴彦は待っていなかった。



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