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私たちが恋人になる理由  作者: YOGOSI
四話目
33/159

料理研究部の部長に彼氏がいない理由


 それは、六月最後の料理研究部の活動日。


 あれから少しの時が経ち、私たちはともかく、周囲は月日とともに相応の変化を見せていた。


 高体連に縁のない一年生でも、勉強より部活動に打ち込む人が増えた。茉莉や裕翔くんもいつもより部活に熱を入れて打ち込んでいるそうだ。


 勝った、負けただの、そんなことに無縁な私ち晴彦、そして風華は何時も通り。


 そして、二年生から上がいない料理研究部も、先輩の引退だなんだということにも無縁で、いつもどおり楽しい部活動。


 変化をあげるなら、一年生の部員が二名ほど増えたこと。その中には、晴彦と同じクラスの栗原さんという人もいた。


「夏休みも二回か三回、集まる必要がある。活動報告的なものが必要なんだ」


「去年は適当にお菓子を作って喋って終わりでしたけど、部員も増えたことですしなにかやりたいですよねぇ」


 部長、副部長が家庭科室の教壇に立ち、夏休みの予定について皆で会議していた。


 七月半ばに期末テストが控えていて、それが終われば間もなく夏休み。一ヶ月弱ほどの長期休暇だ。


 部活に追われるならともかく、特に予定のない私にとっては学校に行かなくていいだけの日々。とは今年はいかないのだ。


 小夜姉さんの帰省。


 私にとって、気の抜けない夏が始まろうとしている。


 頭の中には夏休みの予定より、どうして姉の計略を阻止するべきか、そんなことを考えていた。


 夏休みなど来なければいいなど罰当たりなことを考えているのはきっと世界で私一人だった。


「夏だし、BBQとかやりたいですよね!」


「女子だけでバーベキュー?ちょっと盛り上がりに欠けるんじゃない?」


「じゃあ、去年みたいにかき氷でも作ってる?」


「あれ詰まんなかったじゃん……」


 話し合いの内容は私の頭には入ってこない。


 小夜姉さんの驚異は、この夏だけではない。


 年末にも帰省するし、更に問題なのは私と晴彦が恋人になっていても、姉さんはお構いなしに晴彦を誘惑しにかかるだろう。


 つまりは、小夜姉さんにいい人ができない限り、私の敵であり続けるということだ。


「泊りとかそういうのはちょっと難しいかもな。十数人となるとそこそこ金もかかるし」


「うちの部は顧問がやる気ないので、部費とか出ないんですよねぇ」


 料理研究部には、少数の部費と、家庭科室の自由に使っていい権限しか与えられていない。まあ、かかる電気代などを考えれば身体を動かす部活動より場代が割高になるのは確かなのだろうけれど。


「海とか行きたいよねぇ」


「女十数人で海?なんか男漁りに来てるみたいじゃない?」


「そもそも料理研究部が海行って何すんのよ?」


「……素潜りとか?」


 会議は踊るように進む。だが、何かが決まることは決してない。


 というのも、『何ができるのか』という現実と、『何がしたいのか』という理想は決して噛み合うことがないから。


「うーん、萌々果ちゃんのお家に協力を仰げば、海だろうが山だろうが問題ないんだけどね」


 彩瀬副部長の家はお金持ちらしく、それに両親は先輩を溺愛しているらしかった。


「まぁ、そうだけど。でも、それじゃつまんないでしょ」


 親の力なしでやるのがおもしろんじゃん、という副部長の案には、皆同意していた。


「春風の両親は登山家だっけ?」


「そうですよ。登山具やテントは沢山あるので、山で野宿する時はお役立ちですね!」


 海か山か。


 いつの間にか流れはそんな話にシフトしていて、もはやなんの会議からすらわからないまま、今日の会議は終了。


「この調子じゃあ次も会議かな。でもそれじゃあアレだし、みんな自作のお菓子を家で作ってくること。それと、やりたいことあったら考えてくるように」


 できるかどうかは別としてな、と彩瀬副部長が言って、今日の部活動は終わった。


「高瀬くん、今日も待ってるの?」


 初対面だが、親しげに栗原さんが話しかけてくる。


「多分……。先帰ってもいいって言ってるんだけど」


 晴彦は相変わらず、私の帰りを教室で本を読みながら待っている。最近風華のオススメの本を片っ端から読んでいるそうだ。


「いいよねぇ、もう恋人寸前、って感じ?」


「うちは彼氏持ち少ないからねぇ」


 料理研究部で恋人がいるのは私を含めると四人だけ。いまでこそ否定はしなくなったが、まだ正式に恋人というわけではない。


「その、高瀬くん、でしたっけ?教室で待ってるんなら、別にここに呼んでもいいですよ?」


 春風部長がなんの気なしにそう発言する。


「まぁ、気になるっちゃ気になるよねぇ」


 その実、先輩方は皆私と晴彦の関係を気にしてくれていたようだ。皆口々にそう口にする。


「栗原さんは、明日音の彼氏と同じクラスなんでしょ?ねぇねぇ、どんな子?」


 急に話題を振られた栗原さんは、少し困ったような顔をしながら私を見る。


 それに頷いて答える。私以外の人が、晴彦をどう見ているのか。それは少し気にかかるところでもあった。


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