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私たちが恋人になる理由  作者: YOGOSI
三話目
26/159

俺が学校を休む理由

中間テストを超え、梅雨の湿気を含んだ空気が漂うことが多くなった六月中旬。


 俺は風邪を引いた。


「ふぅ……」


 別に大したことじゃない。一年に二回か三回、こうして体調不良になって三日ほど寝込む。


 母さんによれば、季節の変わり目に多い、らしい。健康面には気をつけているし、高校に入ってからは部活もしていない。


「なんだかなぁ……」


 しかし、俺は今日、こうして二日寝込んだきりだ。今日の金曜日を超えてしまえば、用事のない土日。ある意味四連休になる。


『四連休ですって。まー羨ましい』


 看護師をしている筈の母さんは、俺の看病など一切せず、市販の風邪薬と水を置いて仕事へと向かう。


 まあ、看病が必要かどうかは怪しいものだ。薬を飲んで寝ていれば治るというのが大半の普通の風邪。


「不思議なのが、必ず一年に一回はなるんだよなぁ……」


 無病息災という言葉に、俺ほど縁がない人間はいないだろう。一年に必ず、体調を一回以上崩す。


 一人で寝込んでいる、というより、若干治りかけているときは、独り言が増える。


 退屈極まりないから。


 俺の部屋にはテレビも何もなく、暇を潰せるようなものは何もないのだ。


 更に言えば、テレビがあっても平日の昼の番組は面白くはないものが多い。


 何が言いたいのかと言うと、


「退屈だ……」


 体温計の鳴る音がして、脇からそれを出すと、三十七度八分。まだまだ熱は下がらない。今年の風邪はガッツがある。


 起き上がると流石に吐き気もあるし頭痛もするが、寝ている状態なら大丈夫というよく分からない体調。とどのつまり、『元気に見える病人』状態な訳だ。


 カーテンから差し込む天気は曇り。どんよりとして、風景的にも救いがない。晴れたら治るという願掛けをしようにも、台風が接近中でしばらくは雨が降ったり止んだりするようだった。


「なんで風邪引くかね……」


 神様に愚痴るように独り言を言う。


 学校を休めて嬉しいという感覚は俺にはない。学校が楽しいというわけでもないけれど、病気でいるよりは健康でいるほうが百倍以上ましだ。


 時計に目をやる。午後一時。今日の授業が終わるまで、後三時間。


 明日音が来るまで、あと三時間半。


 明日音は何かと、この俺の体質を心配する。風邪を引くと大抵見舞いに来てくれる。流石にインフルエンザや感染症にかかったときは面会謝絶だったが。


 これが、結構助かる、というより、嬉しいのだ。


 現実、風邪を引いて見舞いに来てくれる人間など滅多にいない。


 まあ、それを言ってしまえば、明日音だって幼馴染だから見舞いに来てくれているのかもしれない。が、明日音が来てくると思うと、風邪で不意に過ごす一日も希望が持てる。


 病気の時は心も病んでいるとよく言われるが、その実、世界から忘れ去られたような心地が、弱気を誘う。


 一人暮らしなら、休んでしまえば誰とも会話をしないわけだし、世界から隔絶されたようなものだ。


 ところが、誰か一人でも傍に居てくれると、自分は繋がっているのだと認識できる。


「いかんな、頭が変になりそうだ」


 こういった状態で難しい、というより、答えが出そうででないことを考えると、あまりに答えが纏まらなさすぎて逆に精神的に悪いような気がする。


 何も考えない。それができれば一番イイのかもしれない。


 何も考えず、眠ってしまえば、身体も、心も。健康に向けて努力する。


「……寝るか」


 一人の時間は、考えることだけ多くて流れが遅い。秒針の無機質な動きが、頭を変に刺激するようだった。


 そのくせ長針は一向に動こうとせず、サボり癖が酷い。


 意識を失ってしまうのが、一番楽だ。


「……まあ、それができれば苦労はしないんだけどな」


 今まで散々寝てきたツケが周り、眠気はマイナス域。


 しかし、それでも直ぐに疲労は溜まっていく。身体の内部で何かが激しく活動している。


 俺の意識が途絶えるのに、時計の短針がどれだけ動いたのか。それは俺もわからない。


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